第35話(上)マイヤの暴走
アリシアはべズバルドルの王宮にある地下牢の前に転移した。
いきなり現れたアリシアとレオン騎士隊長。
「なんだ?お前たちどこから入って来た?」
腰を抜かして床に這いつくばりながら牢の見張り番が叫んだ。
「驚かせたな。すまん。俺はゴールドヘイムダルの隊長レオン・ヘンドリックだ。おい、心配するな味方だ!」
レオンがすぐに大声で見張り番の男にそう告げた。
「ヘッ!ゴールドヘイムダルのき、きしたいちょう…」
見張り番はさらに驚いた声を上げる。
「アリシアこれはどういうことだ?」
レオンはまだ信じられない。
「はっ?だから転移するって最初に言いましたよね?えっと、きっとここはここはべズバルドエルの地下牢ですよ。ヴィルたちはここでしょう?私はヴィルの所にって念じましたから」
アリシアは辺りを見回しここが薄暗い地下牢だと認識したようだ。
「アリシアいつから転移魔法が?3年の間にさらにパワーアップしたらしいな…」
「今回は特別ですから。早くヴィルたちを…ヴィルどこ?いるんでしょう?」
アリシアはすぐに声を上げてヴィルを呼ぶ。
「あ、アリシアか?ここだ」
そう告げられてアリシアは声のした方に進む。目の前に大きな鉄格子がありその向こうにヴィルと女性と子供がいた。
「ヴィル大丈夫?あっ、その人がバイオレット?」
「ああ、紹介する俺の妻のバイオレットとエリオットだ」
「バイオレットです.。エリオット、ご挨拶して」
「こ、こんちは…」
エリオットは緊張しているのか挨拶をするとすぐに俯いた。
うふっ、かわいい。アリシアのハートは鷲掴みされる。その場にしゃがみ込むとエリオットの目線になって挨拶をする。
「エリオットこんにちは。ちゃんと挨拶できるんなんて偉いわね」
エリオットの小さな手をそっと握った。そして立ち上がってバイオレットに挨拶をする。
「あの、私はヴィルの妹のアリシアです。ヴィルとは双子の兄妹で、でも生れた時に離れ離れになって3年前に初めて会って、それで…ああ、私にも家族が増えたなんてすごくうれしい。バイオレット、エリオットよろしくね」
アリシアも初めて会う家族に胸がいっぱいで何を言っているのかと言うほどしどろもどろになった。
「アリシア、鍵壊せるか?」
「ええ、少し下がってて…エイッ!」
鍵に手をかざすと鍵がパチンと音を立てて壊れた。
急いで牢の入り口を開けて3人を出す。
「ありがとうアリシア。それでどういう事なんだ?」
ヴィルも事情は効かされていないらしい。
「何でもマイヤが無茶を言ってるとかで…そうだわ。こんな事してられないわ。ヴィルどこなら安全?そこに連れて行くから」
「アリシア俺も行く。バイオレットとエリオットだけここから避難させてくれ」
「ええ、でもどこがいい?」
ヴィルも絶対安全な場所と言われると考え込んだ。
「もし良ければ騎士隊の中で奥さんと子供を保護しようか?」
レオンがそう言ってくれた。
「いいんですか隊長」
「ああ、もちろんだ」
話はすぐに決まり騎士隊の本部にバイオレットとエリオットを保護してもらうため5人で騎士隊の隊長執務室に転移する。
隊長から事情を聞いた隊員がバイオレットとエリオットの保護を引き受けるとアリシア、ヴィル、レオンはまた王宮に転移した。
場所はもちろんオルグの泉のある洞窟の前だ。
「隊長、マイヤはここなんでしょう?」
「ああ、報告ではオルグに泉に立てこもっていると聞いた。だがどんな状況かはわからない。ここは慎重に行かないと…」
「ええ、でもここにいても仕方がないわ。とにかく近くまで行ってみましょう」
そして洞窟内に入って行くことに。
鍾乳石に囲まれた洞窟は薄暗い。いくらオルグの泉に明かり取りの穴が開いていると言っても洞窟は足元も悪い。
慎重にゆっくり脚を進める。もう少しで泉に着くところでヴィルが言った。
「俺が先に様子を見て来るからアリシアはここで待ってて」
「ええ、でも気を付けてマイヤがあの玉を掴んだら…おしまいよ」
「でもなぁ、ほんとにマイヤにそんなものを呼び出す力があるのか?」
「私だってどうして魔狼が出て来たか知らないわ。でも一度やったあのマイヤがそう言ってるんだもの…」
アリシアもそこで言葉を止めた。そもそもそんな忌まわしいものがどうしたら現れたのか。加護の力が緩んだせいだとガイル大司教は言っていたが…
ヴィルがこっそりオルグの泉を伺うとマイヤが泉に向かって祈っている姿が見えた。
「ねぇ!いい加減出てきてくれない。前は何もしなくても泉の湖面に浮かんでたじゃない。ドークあなたなら出来るんでしょう?ちょっと、いいから出て来なさいよ!」
マイヤはかなりヒステリックになって叫んでいる。
だがオルグの泉は何の変化もなく静かなままだ。
ヴィルは思う。
マイヤってやっぱり聖女の力あんまりないんじゃないのか?
これってチャンスかもしれないな。
ヴィルは一気に走り出るとマイヤの身体を後ろから捕まえた。そのまま地面にねじ伏せると大声でレオンに向かって叫んだ。
「隊長。すぐ来てください。マイヤを捕まえましたから~」
レオンとアリシアはその声を聞いて急いだ。
「すぐ行く!」とレオンが声を上げた。
アリシアはオルグの泉を見て驚いた。
あれ程透き通っていた泉の水が茶色に濁り変色している。
「これは…「「あっ!」」
ヴィルもレオンも一緒に叫んだ。
オルグの泉に渦が湧き起こりその渦が一気に鍾乳石の天井にまで吹き上げた。
「おい、誰だ?俺を呼んだのは…」
そう言ったのは魔界の妖精のドークだった。
真っ黒い帽子に真っ黒いマントに裂けた口が恐ろしい。
マイヤがその姿を見て叫ぶ。
「ドーク。あの玉を出してちょうだい。また魔界の扉を開いてあげるわよ」
ドークの口が大きく笑みを作った。
「そりゃありがたい。あれから魔界の王にひどく怒られたが、そっちが望むなら好都合だ」
ドークは泉の中からまがまがしい箱を引き寄せた。箱を開くと中には金色に輝く玉と黒く鈍い光を放つ玉があった。
「ほら、自分からつかめ」
ドークは楽しそうにマイヤの前に箱を差しだす。
マイヤはねじ伏せられたまま手を伸ばす。
「わかってるわよ。何よ!もう、届かないじゃない。ドークもう少しこっちに寄せなさいよ!」
ヴィルに押さえつけられながらもマイヤはその忌まわしい玉をつかもうと手を伸ばす。
「くっそ。そんな事させるか。お前こんな状況でそんな事が出来ると思ってのか?」
ヴィルは呆れたようにもう一度マイヤの腕をぐっとつかんで後ろに捻り上げた。
「きゃー何するのよ!放しなさいよ」
マイヤは暴れてヴィルの身体を足蹴りしてどかそうと暴れる。
そこにレオンとアリシアが走って来る。
「ドーク。お前は魔界に帰りなさい。その箱も一緒にさあ!」
アリシアはマイヤの前に出てドークに手のひらをかざした。
ドークは一瞬ひるんだが箱の中の黒い玉が鋭く光った。
その瞬間!
辺りは真っ黒い霧に包まれた。
マイヤの汚い心。それを憎いと思うアリシアたちの黒い心。その力を感じたのか黒い玉は一気に力を増幅させたのだ。
まさに暗黒の揺らぎとはこの事かとアリシアは頭の中で思う。
そんな陽炎のような黒い霧に取り込まれたのはアリシアだった。
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