第34話(下)


 レオンはアリシアの手を取り話を始めた。


 「アリシア。聞いてくれ。魔狼の事を誰も責めたりするものはいないから安心しろ。もしそんな奴がいたら俺が黙っていない。3年前うやむやにされてしまったがこの際王宮で自分は無実だとはっきり言ってやったらいい。それに聖女マイヤはどうしようもない。今も聖女の仕事をやめたいとフィジェルに泣きついているらしい。ルキウス国王も水晶中毒でおかしくなっているしニウシス国王さえもフィジェルの言いなりで、とにかくおかしいんだ。フィルを次期国王にしようなんて声も出ていて、俺達もそんな動きを何とかしようと今動いている所で。とにかくアリシアが危険な目に合うことはない。それは絶対俺は保証する。だから考え直してほしい。また明日来るから考えてくれ」


 「また私を巻き込むつもりですか?もうやめて下さい!私には無理です。もう放っておいて!」


 アリシアはレオンの手を振りほどくと診療所の中に入ってしまった。


 レオンはこれ以上は無理だと思ったのか今日はこれで帰ると言うとすぐに馬に乗って帰って行った。


 しばらくしてウートスが困ったようにアリシアに話をする。


 「アリシア行った方がいいんじゃないのかい?あんな偉い人が迎えに来たんだ。向こうにも立場ってもんがあるだろう?アリシアは行かなかったらあの騎士隊長さんは困るんじゃないのかい?」


 「そんなの。勝手に来たんです。私のせいじゃありませんよ。私は3年前にひどい目にあったんです。やってもいない罪を擦り付けられてもう少しで牢屋に入れられるところだったんですから。ウートスさんは心配しなくていいです。無理に連れてなんか行けないですもの。私は絶対に行きませんから!」



 だが事態は急変する。


 翌日レオンが来た。レオンは大層困った様子でアリシアに言った。


 「アリシア悪いが困ったことになった。今朝早馬が来た。マイヤがオルグの泉に立てこもった。聖女をやめさせてくれないならまた魔界の扉を開いてやると言って騒いでいるそうだ。フィジェルは先走ってヴィルフリートとその妻と子供を牢に入れてしまった。アリシアが来ないと責任を取ってもらうと言っているそうだ。アリシアすまん。とにかく君は絶対に俺が守ると約束するからどうか頼む。一緒に来てほしい」


 「そんな。そんなのひどいですよ。それにヴィルや奥さんを牢に入れるなんて!もう絶対に許しません。私今までの事全部ばらしますよ。それでもいいんですか?」


 「ああ、いざとなったら俺達も行動を起こすつもりだ。フィジェルとガイルを何とかしないともう無理だろからな。実はこれはまだ内密にしておいて欲しいんだが、俺たち騎士隊とロガレナート元侯爵、ホワティエ元公爵たちで計画がしている事があるんだ。君にだけは話しておいたほうがいいだろうからな…」


 「そんな事私には関係ありませんから。私はヴィルや家族の為に行くんです」


 「行ってくれるのか?」


 アリシアは顔をしかめるようにして返事をする。


 「だって仕方ないじゃないですか…ちょっと待って下さい。支度します」


 アリシアは家に入ると支度を始めた。支度と言っても上にマントを羽織り髪をさっさと撫ぜつけるだけで終わったが…着替えなどは持つ気もない。だってすぐに帰る気だから。


 レオンはあっけに取られてポカンと口は開いたままで。


 「もう、レオン隊長急ぎますよ」


 「ああ、支度が出来たら馬に乗ってくれ、アリシア馬は乗れるか?」


 「そんなもの必要ありませんから。レオン隊長も一緒に行って下さいよ。いきなり私一人では万が一と言うこともありますからね。ああ、馬は後で隊員にでも連れて帰ってもらって下さい」


 レオンはどういうことだって言う顔をしてアリシアの前に立ちはだかる。


 「おい、アリシア。さっきからどういうことだ?」


 「はっ?転移するんですよ。一瞬身体が浮く感じがして気持ち悪くなるかもしれませんが体調なら大丈夫ですよね?さあ、行きますよ。ウートス、今から転移魔法を使うので驚かないで下さいね。私たちはべズバルドルに行ってきますから。すぐに戻りますので、では…あっ、周りが光って私たちは消えますけど心配いりませんから。じゃあウートス行ってきます」 


 「アリシアそんな魔法が使えるのかい?知らなかったよ」


 「ええ、アラーナ国に暮らすうちに使えるようになったみたいなんです。心配ありませんから、でも誰にも秘密ですよ」


 「ああ、アリシアは私だから教えてくれたんだろう。絶対誰にも言わないよ。それより大丈夫かい?もし危険だと思ったらすぐに戻っておいでよ」


 「ええ、ありがとうウートス。じゃあほんとに行きますよ。さあ、レオン隊長準備はいいですか?」


 「ちょ、ちょっと待ってくれ、隊員に伝えてから…」


 レオンは驚いてるし焦ったもいた。転げるように走って行って表の隊員にアリシアと先に行くと伝えて来たらしい。


 レオンが戻って来ると家の中でレオンを囲うように腕を広げた。


 目を閉じて何やら口ごもるとふたりが淡い光に包み込まれる。


 「シュッ!!」


 アリシアとレオンは跡形もなく一瞬で消えた。


 「まあ、ほんとに消えたよ。アリシアって言う子はどこまで凄いんだい…やっぱり女神さまに違いないよ」


 ウートスは呆れたように声を漏らした。




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