第33話 ヴィルからの手紙
そんな頃、北の国境警備隊に対して国王から恩賜が出ることになった。暴動を制圧し無事国を守った事に対してらしい。
ヴィルフリートは隊長として警備隊員数人を引き連れて王都べズバルドルに向かう事になった。
王宮に着くと元国王のルキウスは病になり王弟のニウシスが変わって国王として玉座についていた。
ヴィルとしては初めて父親とお目通りが叶うと思っていたのだが、もちろん自分が息子だと名乗り出るつもりもなかったのだが、なんとなくがっかりした。
それに謁見の前にゴールドヘイムダルの大隊長であるレオンからもおかしな噂を耳にする。
何でもフィジェル宰相やガイル大司教たちが結託して元国王ルキウスに水晶を使って中毒状態にしているのではないかと言う話だった。
ルキウスは水晶中毒になり政務などを執り行える状態にないとして隔離されている。
おかしなことに街には水晶中毒に効く解毒薬もあり患者は減っているとも聞いた。
それにフィジェル宰相の嫡子のフィルとルキウスの娘のソフィア王女が結婚したことも聞いた。
さらにルキウスの息子リチャードは18歳になったがセレドネル皇国に勉強のため留学したことも聞かされた。
さらにフィジェル宰相が息子フィルを次期国王に指名されるよう動いているらしいことも。
だが今のヴィルにとってそんな事はどうでもいい事に思えた。
レオンには自分にはどうしようも出来ない事だと言うしかなかった。
ヴィルたちは謁見の間に入ると国王、フィジェル宰相、ガイル大司教、そのほかの位の高い人物たちがずらりと控えていた。
ヴィルたちは国王ニウシスの前に出てとにかく恩賜を賜った。
その時にヴィルはアリシアの名誉を回復したいと考えていたのでアリシアがこの暴動を阻止するために力を尽くしバード感染者に献身的に治療した事を報告した。
「何?アリシアがそんな事を?」
そう言って声を出したのはあのガイル大司教だった。
「アリシア?ああ、魔狼を解き放ったと罪に問われていた聖女か」
のんきにフィジェル宰相が言う。
「違います。あれはアリシアのやった事ではありません。あれはあなたの娘…」
そこで話はさえぎられた。
フィジェルが大声で話を始める。
「ヴィルフリートとか言ったな、君は何を証拠にそんな事を言っている。ではアリシアが本当の悪女かここに連れて来てはっきりさせようじゃないか。アリシアはどこにいるんだ?すぐにあの女狐を捕らえに向かわせよう」
「あなた方はまだそのような事を言うんですか?アリシアが立派な行いとしたにもかかわらず呆れて言うこともありませんね。だが、アリシアを捕らえるなどさせません。彼女はもうこの国にはいません。あの後すでにアラーナ国に戻りましたから」
ヴィルはアリシアはアラーナ国の国王の妻だと言いたかったが、アリシアはそんな事を望んでいないと知っていたのでどうにかそれ以上言うのはとどまった。
するとフィジェル宰相がにこやかな顔をしてヴィルに話しかけて来た。
「落ち着けヴィルフリート勘違いするんじゃない。いいか。よく聞いてくれ。今回アリシアが下行いは国王より恩賜を受けても良いほどの功績だ。魔狼の話など今回の事を考えればなかったようなもの。私はアリシアに神殿に戻って来てもらってもいいとさえ思っている。早速アリシアを迎え入れる準備をしようではないか」
「今更?名誉回復ですか!もういいですよ。アリシアはここに帰ってくることは望んでいないんですから…いいですか。いくら権力があるからって勝手なことはしないで下さい。アリシアはもうあなた達の物ではないんです!」
「そんな事は思ってもいない。彼女の名誉回復をしたいだけだ。早速迎えの準備をしよう。それでアリシアはどこにいるんだ?」
「はっ?だからそんな事はやめてください。彼女はそんな事望んでなんかいませんから!いいですね」
ヴィルは半ば怒ったように念を押した。
フィジェル宰相は渋々と言う態度でそれ以上は何も言わなかったがあやしいもんだ。
自分たちばかりがと言うのも嫌だったんだが、チッ.余計なことを言った。
ヴィルは少し後悔したがあれだけ言えばあいつらもきっとアリシアには手を出さないだろう。
せっかく、恩賜を賜ったというのにヴィルは腐ったような気分で王宮を後にした。
だが他の国境警備隊員は王宮を出ると街に繰り出した。
そしてヴィルはそこで思いがけず昔の恋人に出会う。
ヴィルはバイオレットと言う恋人の事をすっかり記憶から失くしていて最初はバイオレットの事がわからなかった。
だから記憶を取り戻した時は本当に驚いたし悔しかった。
自分がこんなに愛する人を忘れていた事も可愛い子供がいる事を知らなかった事に腹が立った。
そしてずっと何かが心に引っかかっていた原因がやっとわかったのだった。
ヴィルは運命の人と再会出来たことをアリシアに手紙で知らせる事にした。
『 ~アリシアへ~
本当はアリシアに会って直接話したいがすごい事があったんだ。
もう、驚くほどうれしい知らせなんだ。こんなことを手紙で知らせる事を許してくれ。
俺は今ティルキア国の王都べズバルドルにいる事は知ってるだろう。
実は俺は3年前に結婚を約束した人がいたんだが、死んで生き返った後俺はよりによってその記憶を失っていたらしい。
彼女はバイオレットっていうんだが再会してやっとそんな大切なことを思い出したんだ。
それに聞いて驚くなよ。俺、子供がいるんだ。男の子で名前はエリオットって言うんだ。
すごく可愛い子でもう目に入れても痛くないって言うのが分かる気がする。
それと他にも話があるんだ。
実は俺達の父であるルキウスの具合が悪いらしい。何でも水晶中毒でまずい状態らしい。
俺もあまり関わる気はなかったんだがこうやって実の息子を見ると父はアリシアに会いたいんじゃないかって思ったんだ。
それにおかしいんだ。
バイオレットが言うには水晶の解毒薬があるらしいがそれを飲めば中毒症状はかなり良くなると聞いた。
でも、父ルキウスの容体は良くはなってないってこれおかしいと思わないか?
あまり確固たる証拠はないが、どうもルキウスの弟やフィジェルやガイルが結託して国王を追い落としたんじゃないかって噂もある。
それにあの大司教やフィジェル宰相も権力をふるっているらしいんだ。
アリシアこの国を何とかしようなんて思わないがルキウスの頃よりずいぶんと国は衰退しているようにも思う。
王都には水晶って言う薬物が蔓延しているし人々の暮らしもままならないようだ。それにあちこちであのバースっていう病気が流行っているしな。
とにかく一度父のルキウスに会えないかと思っているんだ。
考えてみてくれ。
だが、俺、余計なことを言ってしまってアリシアの名誉回復になればと思ってアリシアのやってくれた事を話したんだ。魔狼の事だって濡れ衣だってはらしてやりたかったんだけど、でも逆にこっちに来てほしいとか言いだされてすまんアリシア。
こんなつもりはなかったんだ。
だからアリシアはアラーナ国に帰ったことにしてるからな。
あいつらの事だ、とにかく気を付けてくれ。
それから俺は騎士隊はやめるつもりだ。こっちで暮らそうと思っている。
取りあえず都合がつき次第一度俺もそっちに帰るつもりだ。
その時バイオレットやエリオットにも会わせたいって思ってるからな。
じゃあ、アリシアも気をつけてな。
~ヴィルフリート・バルガン 』
ヴィルはアリシアにめちゃくちゃうれしい報告と余計なことを言ってアリシアを危険な目に合わせることになったお詫びを手紙にしたためた。
ヴィルはバイオレットやエリオットに出会えたことで油断していた。
アリシアに危険が及ぶとは夢にも思っていなかった。
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