第25話(下)グレン、アリシアに告白する


 「ねぇグレン。じゃあ、私が嫌いだから避けてたんじゃないって事よね?それにね…」


 アリシアはグレンを元気づけたかった。私だってグレンの事嫌いじゃない。そう言おうとしたのだが…


 「当たり前だろう。お前が転移して来た瞬間、すぐに俺の番だって気づいた。だからあの時我慢できなくて口づけしてしまった。すまん。やっぱり俺なんかお前にふさわしくもないのに…」


 「ふさわしくないって、どうしてそんなこと思うの?」


 「だってそうだろう?俺には魔族の血が混じっている。それに国王も無理だし…それに今では国王暗殺の嫌疑もかかっているんだ。アリシアは聖女であの国ではかなり身分の高い家のお嬢さんってとこだろう?」


 グレンの顔は真剣そのもので…アリシアの方が引いた。


 「そんなわけないじゃない。確かに父は国王だけど私は切り捨てられた子供だし母はティルキア国に滅ぼされたペルシス国の王妃だったけど、そんなのティルキア国の人間からすれば敵の捕虜を連れて来て出来た子供だもの、私と母はずっとティルキアでは邪魔な存在だった。だだ唯一私が聖女として役に立つから今まで行かされてきただけの存在なのに…」


 「じゃあ…じゃあ、俺と結婚してくれと言ったら結婚してくれるのか?」


 グレンの落ち込んだ瞳に輝きが戻る。


 「結婚か…私そんなこと考えたこともなかったから…それにまだ魔狼をやっつけないと…」


 「あんなめに合わされたのに?まだ、そんな事を言うのか?」


 「だって、きっとみんな困ってるはずよ。あんなのがこの世界にいたんじゃあ安心出来ないじゃない。私は正しいと思うことをやりたいだけ。それが終わったら聖女はやめて仕事を探すつもりなの。もちろんティルキア国じゃなくてもいいんだけどね」


 「アリシア、もし俺が一緒に魔狼を倒したら結婚考えてくれるか?いや、付き合って…いや、まずは俺と友達になってくれないか?」


 「うん、それに友達にならもうなってるわよねグレン。だって、私を助けてくれて…それってもう友達以上だって思うわよ。普通」


 「そうか。良かった。じゃあ、早速魔狼を退治に行こう。だが、まずはアリシア少し休め」


 「そうだよ。グレンも少し休んだ方がいいわよ。それよりヴィルたちは?」


 「ああ。ヴィルとベルジアンは王宮を探りに行った。あれから俺達の事をどうすることになったかを調べるためだ。今も指名手配が出されているかもしれん、俺が直接王宮に行ってすべてを公にしてもいいが、俺は国王になる気もないし別にもうどうでもいいんだ。俺はアリシアさえいてくれるならどこでも生きていける気がするし、なっ!」


 グレンは異常なほど元気を取り戻していた。


 椅子から立ち上がりはしゃぐように微笑んで窓の外を眺めたりする。


 「また、そんな事、一国の殿下が言っていい事じゃないわ。この国はあなたが守らなくちゃだめよ。きっと、なんだかそんな気がする」


 「やっぱり、アリシアは優しいな。さすがは俺の番だ」


 グレンはアリシアを見つめてはうっとりとした表情をする。


 その顔にアリシアの心臓は極端に反応する。


 こんな超美形な男が私の番だなんて…やっぱり信じられないって。


 うん?でも、番なら焦がれるような気持ちが溢れて出て来るのよねぇ?


 それはちょっと違うかな?


 確かにグレンの事は好きだけど番とは違う感じがする。


 アリシアはやっぱりここははっきり言っておいた方がいいと思う。


 「グレン。でも、なんだかおかしくない?私も魔族の血を引くならあなたと同じようにあなたが番だってわかるはずじゃない?でも、私そんなの全然感じないけど…」


 グレンのスキップでもしそうだった脚がかくんと止まる。


 アリシアに駆け寄ると彼女の頬を両手で挟んで聞いた。


 「アリシア。で、でも、俺の事嫌いじゃないんだろう?」


 「も、もちろんよ。あなたは頼りになるし、見目もすごくいいし、今までは意地悪な人だって思ってたけどそれもそういう事情だったって分かったし…それに魔狼退治に一緒に行ってくれるんでしょう?」


 「もちろんだ。決まってるだろうアリシア。俺が番を危険な目に合わせられると思うのか?」


 アリシアは両頬を挟まれたまま首を激しく欲に振った。


 「良し!決まりだ。魔狼をやっつけて俺と結婚しよう」


 「だから‥まずはお友達からだって…」


 「ああ、でもいずれは…」


 その時ヴィルとベルジアンが帰って来たらしく声がした。


 「ただいま戻りました」と。


 グレンはすぐにアリシアの頬から手を放した。


 「すまんアリシア。他の者に番だと知られたくない。俺はこんな姿を人に見られることに慣れていないんだ。本当にものすごく照れ臭いんだからなっ!」


 そう言うとすぐに部屋から出て行ってしまった。



 アリシアは、あっ、そうなんですかとでもいうように彼が出て行くのを見ていた。


 そしてすぐにグレンが出て行って寂しいと気づいた。


 彼に助けに来てくれてどれほど心が喜びで震えたか思い出す。


 私、最初にグレンを見た時からもう惹かれていた。


 これって番だから?番だから感じる感情なの?


 アリシアは戸惑ったがそれでもすごくグレンが好きだと、自分は知らないうちに彼がとっても好きになっていた事に気づいた。


 もっ、どうしたらいいの?


 次にグレンに会うときすご~く恥ずかしい気がする。


 こんな事死んでもグレンには言えないから!






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