第24話 魔狼倒す?ガドーラとターニャが?


 光に包まれた3人はあっという間に瞬間移動してオルグの泉に転移した。


 すぅっと光の輪が消えると鍾乳石に囲まれた泉の前にいた。


 「ここはどこだ?」


 ガドーラが辺りを見回してつぶやく。


 アリシアはガドーラが騒ぎ始める前にとすぐにオルグの泉に入って行く。


 ひざ上あたりまで入って行くと両手を合わせて祈りを捧げ始めた。


 「オーディンの神よ。どうかその力を我に授けたまえ。この邪悪なものを今一度魔界に引き戻す力をお貸しください」


 アリシアは天井から注ぐ陽の光に向かってそう祈りを捧げる。


 「さあ、魔狼。覚悟しろ。この神聖な生命の樹で作られた弓矢で射抜かれて魔界に帰るんだな」


 グレンがガドーラの姿をした魔狼にそう告げる。


 「ど、どうして魔狼だってわかった?違う。俺はガドーラ。魔王だぞ」


 「おい、魔狼ともある奴が、何だ?恐いのか?ああ、そうか。あの弓矢にはそれだけに力があるんだな。おい、早くこいつを射抜け。早くしろ。そうしないと逃げられるぞ」


 またしてもガドーラはもがきながらおかしな動きをし始める。


 どうやら身体の中でハーティとガドーラがもみ合っているらしい。


 おまけにアリシアの祈りが効いているのか苦しそうにもがいている。


 「ガドーラ、お前は大丈夫なのか?」


 「俺の心配か?ずいぶん見くびられたもんだ。俺はこいつが射抜かれた瞬間こいつの身体を離れる。心配するな。いいから早くやれ!」


 「わかった」


 グレンはすぐに矢を放った。


 弓から放たれた矢は魔狼の心臓をぐさりと射抜いた。


 その瞬間真っ赤な光の球体が魔狼の身体から空中に踊り出る。


 ガドーラの姿が魔狼に変わり矢を受けた痛みからかハーティは空中に飛び上がった。


 そしてそのままオルグの泉のど真ん中に落ちて行った。


 「ハーティよ魔界に帰れ。魔界の魔王よ。この迷える魔狼をどうかお迎え下さい」


 アリシアは無意識のうちにそう言葉を紡いだ。


 泉は渦を描いて中央に空洞が現れる。あっという間にその中にハーティが吸い込まれて行く。


 「アリシア、俺に掴まれ!」


 泉の中に入っていたアリシアがその渦に引き込まれそうになってグレンは急いでアリシアの手を引く。


 「きゃ~」


 アリシアは泉から引き出されてグレンの上に折り重なるように倒れ込んだ。


 「けがはないか?」


 「う、うん。多分…」


 グレンの鋼のような厚い胸板の上でアリシアが真っ赤になったのは言うまでもなく、もじもじとグレンに縋ったままでいると。


 「良かった…って。アリシア。お前いいから下りろ!」


 グレンがいきなり身体を起こす。その勢いでアリシアは地面に放り出された。


 「なんです?いきなり助けたと思えばそうやって突き放す。わかってますよ。あなたに嫌われていることくらい。でも、魔狼をやっつけて頂いてありがとうございました。残るは後一頭です。よろしくお願いしますね」


 アリシアは怒りでグレンを罵倒しそうになったがきちんとお礼とお願いが言えてよかったと思った。


 「はっ?俺がいつ魔狼を退治すると言った?俺は魔王の魂を取り戻すために手伝っただけだ。おい、ガドーラいるんだろう?」


 そうグレンが言うと赤色の球体が現れた。


 『ああ、やっとあいつから解放された。悪かったな。手間かけて、じゃあ俺は魔獣の森に帰る』


 「ひとりで帰れるのか?」


 『ああ、お前が助けてくれた事はちゃんと皆に話しておく。それからターニャお前も一緒に行くぞ』


 アリシアはそれが自分の事だと気づくのに少し時間がかかった。


 「……はい?私。ターニャじゃないんです。だから一緒になんか行けませんよ」


 『だが、さっき…』


 「ああ、さっきはあなたを一緒にここに連れてくるためにそう言っただけですから、そのおかげであなたも助かったじゃないですか」


 『ちょっと待て…』


 赤色の光の玉がアリシアの身体の周りを周回する。


 『うん?ターニャじゃ?』


 突然アリシアが意識を失う。そしていきなりしゃべり始める。


 【あなたガドーラなの?】


 『そういうお前は誰だ?』


 【私はターニャ。アリシアの身体を借りている話をしているの。この子は私の子孫。あなたは私が出て行ったと思っていたの?】


 その声は素っ頓狂だ。


 『ああ、あの日遅くまで出かけて帰ってきたらお前はいなかった。家来はお前が出て行ったと。俺はどうして止めなかったと聞いたらお前に薬を飲まされて動けなかったと答えた。お前は薬師だったから俺に隠れて毒薬でも作ったんだろう?俺はすぐにお前の匂いを追って探しに行った。でも、お前の匂いは途中で途切れていた』


 ガドーラは忌々しそうに話をした。


 【違うわ。私は出て行ったんじゃない。あなたの弟に追い出されたのよ。あいつらは私が妊娠したと知ってあなたにそのことを話そうとしたら魔族との間に出来た子供は流れやすいからもう少し安定期に入るまでは黙っていた方がいいって言われたのよ。だからあなたにはまだ話していなかった。あの日私はいきなり薬をかがされて意識が戻ったら知らない場所にいた。そばにはあなたの弟のストガールがいてあなたが人間との子供を望んでいないって聞かされたわ。だからこの街で子を堕胎するようにと…だから私はもうあなたの所には戻りたくないと言ったの。一人で産んで育てるからって、ストガールは言ったわ。もう二度と魔族とは関わらずに生きて行くならと、だからあなたの前から消えたのよ。後を辿れない魔法をかけてもらってね。このアリシアは私の子孫なの。だからきっと私の匂いがするのかもね。それに私はとっくに死んでるはずよ。そうでしょうガドーラ】


 ガドーラが息をのむような声を発した。


 肉体もなく魂だけが宙に漂っているのに、それでも周りにはビリビリと小さな稲妻のような光がチリチリと発生して彼の怒りの大きさが手に取るようにわかった。


 『ターニャ…すまなかった。知らなかった。俺はお前が裏切ったと思った。子供の事だって今までそんな事思いもしなかったんだ。ストガールの奴。帰ったら殺してやる』


 そう言った魂が大きく揺らぐ。めらめらと怒りの炎が沸き上がるように赤い魂の形が歪む。


 【ガドーラ。でもこうやってまた会えたじゃない。良かった。ずっとあなたが忘れられなかった。こうやってアリシアに会えたことすごくうれしいって思う…ああ‥もう時間がないわ。ガドーラどうか元気でいてね。ずっと愛してたわ…じゃあ…私は…さようならガドーラ…】


 『ターニャ。待ってくれ。まだ言いたいことが。俺もお前だけを愛してた。唯一の俺の番。愛してるターニャ…』


 アリシアの意識はまた切れるとそのまま地面の上に倒れた。


 グレンが走り寄ってアリシアを抱き起す。アリシアはまだ意識を失ったままだ。


 「これでわかったろう?ガドーラお前はもう帰った方がいい」


 『ああ、そうだな。だがターニャに会えてよかった。それだけは魔狼に感謝だな。それにグレンお前には魔族の血が入ってるな。これからはいつでも魔獣の森に来るといい。歓迎するぞ。じゃあな』


 「ああ、そうだな」


 グレンは苦笑しながらガドーラを見送った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る