第13話(上)アリシアグレンの意外な一面を知る
そこに近衛兵が大慌てでグレンを呼びに来た。
「殿下。大変です。国王の容体が急変しました。急いで国王の所に…」
執務室に入って来た近衛兵がそう叫んだ。
「すぐに行く。ベルジアン来い!」
「はい、すぐに。おふたりはお部屋にお戻りになっていてください」
「ですが、国王の容体が悪くなったのはどうして…昨日治癒魔法で治したはずなのに…」
「アリシアのせいじゃない。もともと父は弱っていたんだ。いいから部屋に戻っていろ!」
グレンに胸倉でも掴まれて怒られると思ったのに。
彼からそんな言葉が聞けるとは…驚いたアリシアだった。
アリシアたちは急いで自室に戻された。
それからしばらくはものすごく静かで気持ちが悪い時間が過ぎた。
長い時間が経ったと思ったがまだ1時間ほどだった。
やっとベルジアンがアリシアの所を訪れた。
「アリシア様ご報告が遅くなり申し訳ありません」
「とんでもありません。それで国王陛下のご容態は?」
「それが…国王はお亡くなりになりました。グレン殿下が行かれた時にはもう息を引き取った後でした」
「じゃあ、じゃあ…もしかして私が行った魔法のせいで?」
「とんでもありません。昨日は皆様と夕食をご一緒にされてすこぶるお元気だったと伺っております。まあ、グレン殿下はご家族とは一緒にお食事もなさいませんが」
「どうして?彼も家族じゃないですか。私は幼いときに母親が亡くなり父は王妃を気遣って私の事はあまり構ってはくれませんでしたが…」
「アリシア様のお母様はどちらの?」
「いえ、そんな事はいいんです。それより今、グレン殿下はどちらに?」
「はい、殿下は執務室においでです。王妃様はグレン殿下が何かしたとそれはもう、ものすごい勢いで責め立てられて…」
「まあ…あのグレン殿下に会いに行っても?」
「ええ、お願いします。きっと喜ばれます。殿下があんなにアリシア様をからかうのはきっとあなたが気になるからだと思うんですが…あの気性ですので…失礼をお許しください」
「そんなはずありません。私は年も年ですし…いいんです。気にしていませんから」
***
「失礼します。殿下?」
「アリシアか?入れ」
グレンの執務室に入ると彼は身支度をしていた。騎士隊が着るような上着とズボン。長いブーツを履いて真っ黒いマントを羽織っている所だった。
「お出かけですか?」
「ああ、魔獣の森の近くで騒ぎが起きているらしいからな。ちょっと行って来る」
「でも、国王が亡くなられたばかりでさぞご心痛なのでは?」
「父はもう長くはないと思っていた。あの女狐がそばにいる限り父が安心して休める日は訪れるはずがなかった」
「女狐?…あの、もしかして王妃様の?」
「よくわかったな。昨日も会っただろう。アリシアが治癒魔法で元気にしたから焦ってあれが毒でも盛ったに違いないんだ」
「そんな事ありませんよ。グレン殿下の考えすぎです」
「いや、今もアリシアお前が呪いをかけたのかもって大騒ぎしてるんだぞ。そうだ。お前をここには残しておけないな。一緒に来い」
「でも、ヴィルが心配するから」
「そんなにあいつが好きなのか?」
「まさか、兄ですよ。まあ年は同じですけど。私たち双子なんです。生まれてすぐヴィルは里子に出されて私もここに来ることになるまで知らなかったんですから、だからちょっとまだ遠慮があるって言うか…」
「そう言う事か…ヴィルにはアリシアを連れて行くと伝える。これでいいだろう。来い!」
「えっ?でも殿下私こんな格好で…これを使え」
アリシアはまだ淡いオレンジのドレスのままなのに。
もう一枚マントが現れてグレンの手でアリシアはそのマントでくるまれる。
「あっちに着いたらお前は俺のそばから離れるな。いいな」
「でも…怪我をした人がいたら治癒魔法で…」
「アリシアお前治癒魔王を使う気か?あの魔法を?やめろ!そんな事をしたら俺がそいつらを殺すかもしれん」
「えっ?治すんじゃなくて殺すって?だめですよ。そんなの」
「じゃあ、間違っても治癒魔法は使うな。いいな」
「わかりました。見てるだけですね。はいはい」
グレンは舌打ちするとアリシアの手をグイっとつかんだ。
魔法陣などない。一瞬で目の前に光が走りアリシアの身体にビリっとした感覚が走った。
アリシアは思わずグレンにしがみ付く。
「やめろ!俺を殺す気か?ぐふっ…」
「ま、さ………」
その瞬間、眩しい光の渦に包まれた。
***
「プッハァ~死ぬかと思った。こら、アリシア離れろ!」
「もう、失礼な。私だって殿下と死ぬつもりはありませんから」
アリシアはフンと顔を反らす。
あれ?何で木がたくさん?
「殿下、ここはどこです?」
「魔獣の森の近くだ。いいか。油断するなよ。どこに敵がいるやもしれんからな」
そこは森の中らしく薄っすらと霧がかかっているのか白い靄の空間にいた。
「このすぐ近くには人里もある」
「こんな近くに人も住んでるんですか?」
「ああ、この辺りにはいい鉱石が出る山があるからな」
「ああ…」
アリシアはうなずきながら目を凝らして辺りを見た。
その瞬間、鞭のような光の帯が身体に巻き付いた。
「きゃっ!」
「じっとしてろ」
グレンははっと飛び上がり高い木の上に移動した。
下を見下ろして敵がいる場所を確かめたのかアリシアの後ろで雷鳴がとどろいた。
その途端巻き付いていた光は消えてなくなった。
「アリシア大丈夫か?俺から離れるな」
グレンはアリシアを抱える。アリシアは恐くてグレンにぎゅっとしがみ付いた。
「グレン殿下」
「!!」
グレンはぎゅっと顔を歪める。
えっ?私のせい?そんなに嫌なんですか…
「もらった!」
その瞬間すさまじい音がして火柱があがる。火はグレンとアリシアの周りを取り巻いた。
グレンは顔色一つ変えずに一つの方角を見据えるとその方角に向かって腕を振った。真っすぐにいくつもの刃が飛んでいく。
「グフッ」
どさっと何かが倒れるとアリシアたちを取り囲んでいた火が消えてなくなった。
「す、すごいです。グレン殿下ってやっぱりすごく強いんですね」
「当たり前だろう。これくらい、こいつらはまだ子供の魔族だ。殺してはいない。それに魔族はすぐに怪我も治る。しかしこうやって人の里の近くに魔族が現れるなんてな。まあいい。アリシア、俺はあいつに話をしてくるからここで待ってろ」
グレンはアリシアから離れていく。
少し離れたところには人型になった魔族がうずくまっていた。
「う~ん。いたいよぉ~お腹…ぐすん」
それはグレンが言ったように子供の魔族で10歳くらいの子供ほどの大きさだった。もしこれが大人の魔族だったら人の倍ほどあると言う。
アリシアは感心しながら獣の姿で横たわるキツネのような魔獣に近づいた。
「こんなに怪我して…可哀想ですよ。私やっぱり治癒魔法を…」
アリシアはグレンに問うように声を出す。
キツネ型の魔獣はお腹に傷を負っていた。
さっきのグレンの放った刃が突き刺さったらしい。
「いたいよぉ…お腹いたいぃ…」
「ああ…これは痛いよね。待っててすぐに治してあげるから…」
アリシアはそっとそのキツネの魔獣のお腹に口づけを落とした。
そして傷の周りに何度もキスをしていく。早く傷が治りますようにと…
その格好は身体をかがめてキツネの身体に覆いかぶさって見られたものではなかったが。
心から願いを込めて口付けをしていく。
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