第12話(下)いよいよ今回の使命を果たすべきと言うのに


 アリシアが大きくため息をつく。


 グレンはいきなりアリシアの腕を取る。


 「だからこんなにか細い腕をしてるのか?お前の身体は枯れ枝のように細いからな~。それでアリシアは聖女をつづける気か?」


 今日は一体どうしたのかと思うほどグレンの態度がおかしい。


 怒ったかと思えばそわそわしていきなり手を取ってこんな真似を。


 アリシアはどうこたえるべきかとも思ったが嘘はつきたくないと思う。


 「いえ、聖女はやめさせていただくことにしました。今回は初仕事と言う事でしょうか。これからまた新たな仕事を探すつもりです」


 グレンの瞳がキラリと光ったような気がした。


 「辞めるのか?だったらアラーナ国で仕事をしないか。お前ほどの力があれば…俺専属の‥いや、そうではなくて…」


 そこまで言ってグレンは口を閉じた。


 「殿下?専属って?」


 先ほどアリシアの腕を取っていた手はもうとっくに突き放されていて。


 「いや、いい。そうだ!俺に話があるんじゃないのか?」


 「ええ、そうでした。大切なお話があるのです。これはヴィルから話してもらった方がいいと思いますので」


 アリシアはふっとヴィルに視線を向ける。


 グレンはそれをじっと見ていたがすぐに目を反らした。


 ヴィルは一度きちんを座り直すと話を始めた。


 「グレン殿下。実はティルキア国で事故がありまして…」


 ヴィルフリートは魔狼が逃げ出して大変なことが起こった事を話す。


 「それで俺にどうしろと?」


 「はい、グレン殿下のお力でその魔狼を退治していただきたくお願いに参った次第です。どうか魔狼を退治していただけませんか?」


 「私からもお願いします。早く退治しないと魔狼が太陽と月を奪ってしまうかもしれません」


 「そんなに簡単に行くものか。太陽はとてつもなく大きくて熱い。そんなものが奪えるとは到底思えん。それに月もだ。あんなに形を変える月をどうやってもうすぐ朔の日だぞ。月は出てこない。安心しろ!」


 グレンは余裕とばかりにソファーにもたれて優雅に片脚を組んだ。


 「ですが…殿下どうかお力をお貸し下さい」


 ヴィルが再度頭を下げる。


 「殿下お願いします」


 アリシアも深く頭を下げる。


 「断る。これはティルキア国の失態だろう?俺にその責任を押し付ける気か?」


 「そんなつもりは…殿下のお力が必要なんです。大司教から特別な弓と矢も預かっていますし…それを使えるのはグレン殿下だけだと」


 「そんなものを?俺の力を信じてないのか?」


 グレンの眉がピクリと上がり一気に不機嫌になる。くっと口角が上がると白い牙がのぞいた。


 やはりグレンは魔獣の血が入っているだけあってとヴィルフリートとアリシアは互いに顔を見合わせる。


 「とんでもありません。ですが相手は魔界から逃げた魔狼です。きっと普通のやり方では息の根を止めれないのかもしれません」


 「じゃあ、お前は行けばいい。それにそのためにアリシアを使おうなんてその根性が気に入らん!」


 グレンはアリシア達に有無を言わせないつもりなのかその言い方はもう決まったという風で。


 アリシアは戸惑う。魅了魔法は効かなかったし、どうやってグレンを説得すればいいんだろう?


 「そうだ。アリシアお前聖女をやめたいんだろう?」


 「はっ?」


 今は魔狼退治のお話でしたが…と思っているとさらにグレンが話しかけて来た。


 「さっきの話の続きだが…」


 「さっき?…あっ!」


 アリシアの思考はすぐに先ほどの仕事の話に埋め尽くされた。


 アラーナ国で働くとか…いいかもしれない。


 思わずその話に飛びつきそうにもなるがここはよく見極めないと。


 アリシアはすっかり大切な使命を忘れていた。


 「殿下、そんな、いきなり過ぎです。どんな仕事をするのもわからないのでは返事のしようがありません。私これからは自分の意志で仕事を選びたいんです。一度仕事の内容を書類にしていただけませんか?」


 アリシアはここは曲げられないとばかりにグレンに食い下がる。


 どくどくと心臓が脈打ち脳の血管が引きつれそうになっているけど。


 それにじっと見られているその視線も恐いけど。


 そんなアリシアを見てヴィルは慌ててアリシアを自分の方に向かせる。


 「あ、アリシア。ここは殿下の言う条件を飲んだ方が…どうせ聖女をやめるならアラーナ国で仕事をするのもいいんじゃないか」


 向かい合わせになったふたり。互いの顔を見つめ合いヴィルはここは殿下の言うことを聞けとばかりにアイコンタクトを送る。


 「そうだけど…でも、条件ははっきりしてもらわないと…」



 「お前ら!さっきから。お、俺の目の前で盛る気か?どおーん!」


 グレンは勢いよく立ち上がった。


 「殿下、まさかそんな事。俺とアリシアは兄妹なんですよ。殿下こそやたらとそんな事を言って、女に飢えてるんじゃありませんか?」


 ヴィルはそう言って青くなった。


 まずい。本心がだだ洩れた。


 「お、俺が女に不自由してるだと?フン!女に興味はない」


 ヴィルをねめつけるような視線で見据えてから、ちらりとアリシアを見た。


 「俺は女など…」


 そう言いながらもなぜかアリシアから目が離せないようで…


 ヴィルは頭を抱えている。


 アリシアはふたりの顔を見合わせるばかりで…


 私って何かしました?




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