第12話(上)いよいよ今回の使命を果たすべきと言うのに
翌日アリシアとヴィルフリートはグレン殿下に会う約束を取り付けた。
「アリシア今日はグレン殿下に必ずいい返事をもらわなくてはなぁ」
「ええ、マティアス殿下の怪我も国王の病気も治したんです。きっといい返事をもらえますよ」
「ああ、そうだといいが…アリシア確か最初にグレンとキスしたよな?と言うことは魅了魔法が効いてるのか?」
「あれ、効いてると思います?あの態度。絶対に効いてませんよ。きっと彼には魔法なんか聞かないんだと思いますよ。だって魔族との混血なんですし私より魔力も強いはずだし」
「だよな。そうなると誠心誠意お願いするしかないだろうな。それにティルキア国だけの問題でもないんだし…」
「まあ、あの殿下が他国の心配も出してくれるかはわかりませんけど。とにかく全力でお願いするしかないですよ」
***
「失礼します」
グレンと会えたのはその日の午後だった。
アリシアはグレンから送られた淡いオレンジ色のドレスを着ていた。
ドレスと言ってもコルセットで機付きつに締め付けるようなものではなくゆったりとしたデザインのものだ。
彼の機嫌を取る目的もあったがそれ以上にドレスが着てみたかった。
やりたかったことまた一つゲット!とアリシアがガッツポーズをひとりでしたことは誰にも言えない。
アリシアとヴィルフリートは王宮のグレンの執務室の前で声を掛ける。
「どうぞ」
そう言って扉を開いたのはグレンの執事ベルジアン様だ。今日もきちんと髪を撫ぜつけ、そつのない身のこなしでふたりを招き入れる。
「殿下、アリシア様がいらっしゃいました」
「ああ、そんな事わからないとでも?わかっている。少し待て。今この書類が片付くまで」
グレン殿下は執務机の書類に目を落としてこちらを見向きもしない。ただ言葉の端々にイライラがほとばしっているのがわかる。
「すみません。急ぎの案件が舞い込んですぐに終わります。先にこちらにおかけになって…今、お茶でも」
ベルジアン様はすぐにお茶の用意を頼む。
ふたりはソファーに座るよう勧められる。
侍女がお茶とお菓子を乗せたワゴンで部屋に入って来てテーブルにお茶とお菓子が乗せられた。
アリシアはここに来てから毎日おいしい菓子や美味しいお茶が飲めてすごくうれしかった。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
ベルジアンから勧められるがグレンの態度が気になって手を付けていいかもわからない。
本当は喉から手が出るほど見た目も美しいタルトを食べたいのだけれど…
「でも、殿下が終わるのを待ちます」
そんな会話がグレンの耳にも入ったのだろう。
「飲めと言っているんだ。さっさと飲んで待っていろ!」
ひっ!今日は昨日より怖い。そう思いつつグレンにお礼を言う。
「はい、殿下ありがとうございます。では遠慮なく」
アリシアの手は待ってましたとばかりにカップに手が伸びた。
バラの香りがする紅茶はとても香りがよく美味しい。ついでにお菓子も。今日はイチゴタルトだ。すごく甘くておいしいそうでーす。
「ほんとにアリシア様はおいしそうなお顔をされますね」
ベルジアンはアリシアのすぐそばに立ったままで。
「はっ、い?だってすごく美味しいから…」
アリシアは真っ赤になる。そんなに見られていたとは気づかなかった。
「ベルジアン見るんじゃない。アリシアが…っ、減るだろう」
「殿下そんなつもりでは…失礼しました」
ベルジアンが口ごもって後ろに下がる。
はっとグレンと目が合う。今、減るって言いました?…もしかしてイチゴタルトは殿下の?しまった。これは殿下のご機嫌を取らなければ…
アリシアはグレンを見ると心配そうに声を掛けた。
「あの、グレン殿下お顔の色が悪くないですか?目の周りに隈が…お仕事が大変なんですね」
ついそんな言葉が出るとグレンは顔をプイと背けた。
「つ!……これはお前のせいで、俺は…いや、いい。何でもない!」
「すみません。余計なことを」
グレンは仕事が片付いたのか立ち上がってソファーに腰を下ろした。
「やっとドレス着たんだな。孫にも衣裳ってやつだな」
ちょうどその時アリシアがまたしてもイチゴタルトに手を伸ばそうとした時だった。
こら!悪い手。と自分の手をぺチッとはたく。
グレンにじっと目の前で見られていることに気づくといけないことを見とがめられたみたいな気分になる。
ああ。それにドレスが似合ってないって言ったし。
やっぱりドレスなんかに着るんじゃなかった。柄じゃないものね。でも一度着てみたかったからこれでもう満足。
アリシアは急にまぶたが熱くなったがそれをぐっとこらえた。
あっ、それに殿下はタルトが食べたかったんだと気を取り直す。
私って回復力早いな。そんな事を思いながら殿下に話しかける。
「あのすみません。これは殿下の分。ちゃんと残してありますからぁ」語尾が甘く上がり気味に。
「はい、あ~んして下さい」
もう…何してるんだろう私。と思いつつもイチゴタルトを乗せた手を伸ばす。
ぐっと後ろに顔を引いたグレン殿下。
「やめろ!そんな事をされたら…いや、俺は菓子は好きではない。お前が美味しそうに食べているから…」
「だって今まではこんなおいしいものは食べたことがなかったのでつい」
「年増の聖女のくせにか?お前くらいの年齢になると神殿では我が物顔に自由気ままかと思ったが違うのか?」
「と、年増は余計ですよ。私だってこんな年齢まで聖女をするとは思ってもいなかったんですから…だって大司教が私が聖女をやめる事を許してくれなかったんですから。それに食事だっていつも粗末な物でした。聖女は質素倹約を率先しなくてはとか何とかで…」
「そうか…でも25歳とはなぁ」
えっ?25歳って知ってるの?
「どうして?私の年知ってるんですか?」
「それくらい調査するのが当然だろう?」
はあ、今日の殿下何だか辛辣だとため息が漏れる。
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