第13話(下)アリシア、グレンの意外な一面を知る
グレンが戻って来るとアリシアはくにゃりと摘まみ上げられる。まるで猫みたいに。
「おい、何をしている?魔獣に盛る気か?相手はまだ子供だぞ!」
「盛るなんて!治してたに決まってるじゃないですか。相手は子供ですよ?」
「お前という奴は…油断も隙も。おい、小僧。森から出て暴れるんじゃない。魔獣は森で生活すると決まってるんだ。わかったか?もし人間に見つかっていたら殺されてたぞお前。もう早く帰れ」
「うん、わかった。お姉ちゃんありがとう。もうお腹いたくないよ」
「そう?良かった。気を付けてね」
「弟を手当てしてくれてありがとう」
別のキツネはこのキツネの兄らしい。ぺこりとお辞儀をするとふたりは仲良く森に帰って行った。
走り去ってすぐに子キツネは人型になっていた。
へぇ~魔獣って言うから獣の姿かと思ってたら以外に人に近い姿にも慣れるんだ。
アリシアは生れたから一度も魔族に出会った事もなかったのでそんな事を初めて知った。
「グレン殿下。見ました?あの子たちって人の姿になりましたよね?」
アリシアはうれしくってグレンのマントを引っ張った。
「はっ?お前そんな事も知らないのか?魔獣と言ったって真に獣って言うわけじゃない。人の姿に近い形にもなれるし理性もある。だけど一度理性を失えば魔力がある分だけ獣より厄介な事になる」
「そうなんですね。そんな知性がある魔族なら人間も仲良くできるといいんですけどね」
「人は見かけで判断するからな。魔族も人を嫌っているし…」
グレンは顔を上げると空をじっと見ていた。
何考えてるんだろう?
「あっ!」
アリシアは余計なことを言ったのではと思った。
そう言う彼こそ魔族と人間の血を持ち合わせているんだ。どちらでもないところ何だか自分と同じみたいだとも思う。
アリシアは幼いころから特別でみんなとは違うって目でいつも見られてきた。
自分は人と同じつもりでもみんなはそうは思ってくれない部分があって、それがいつも癪に障ると言うか歯がゆいと言うか…
グレンも同じ気持ちを味わってきたのだろうか?
ふと、癪に障るこんな男がそうではないのかもと思ってしまう。
…いや、ないだろうな。この人強いし何でも自分の思い通りにしてるもの。そんなやわな神経は持ち合わせていないに決まっている。
「おい、怪我してないだろうな?」
「ええ、グレン殿下って意外と優しいんですね」
「以外は余計だろう」
「いたっ!」
いきなり石が太もも辺りに当たってアリシアは驚いて飛び上がった。
「お前たち何してる?さっきまでこの辺りに魔獣がいたはずだ」
きっとこの近くに住んでいる人なのだろう。
「魔獣は追い払った。もう危険はない」
「追い払っただと?どうして殺さなかったんだ?あいつらは俺達の作った食べ物を散々だめにしやがったんだ。それなのに…それにお前は誰だ?」
「俺はグレン。シーヴォルトだ」
「シーヴォルトっていやぁ。あっ、もしかして王の身内か?」
そこにまたひとり男が現れる。
「そいつを知っている。そいつは魔獣の片割れだ。おい、早くに逃げよう。もしかしたら仲間を呼びに行かせたのかもしれないぞ」
「ああ、王が魔獣の娘を孕ましたって言う?それがこいつか…どうりで目つきが違うと思ったんだ」
グレンの瞳孔がぶわりと黒く膨張した。
「ほら、見たか?今の目は獣に違いない目だ。ひぇぇ逃げろ早く…」
ふたりの男は腰を抜かすように走って行った。
「ひどいわ。せっかくみんなを助けたって言うのに…何よ。あんな言い方しなくたって」
「ㇰッㇰッㇰッ…アリシア俺の為に怒ってるのか?いいから気にするな。あんな奴ら放っておけばいい。いつもの事だ。それよりさっきの…」
グレンは嬉しそうに笑ったと思ったら今度は顔をしかめてアリシアを見た。
「こんなのすぐに治ります」
「そうはいくか。見せてみろ」
「でも…」
グレンは遠慮なしにアリシアのドレスの裾をめくり上げる。
アリシアはドロワーズをはいていなかった。聖女の時は長い聖女の服とローブを羽織っていたのでドロワーズなどをはくことがなかったからだ。
「あの、ちょっと、やだ…恥ずかしいですから」
「お前、何を考えてる?ドロワーズもはいてないのか…ったく!ああ、大丈夫そうだ。すこしあざになるかもしれんが」
そう言うとドレスの裾を離した。
ばさりと落とされてほっと息をつくとグレンが真っ赤な顔をしていた。
「だから言ったじゃないですか!もぉ!」
「俺はお前みたいに下心はない。じゃあ、帰るぞ」
グレンは素知らぬ顔でそう言った。
どういう意味ですよ。人のドレスめくっておいて。ったく!
そうは言ってもこうやってみんなのために被害が出る前に出向いて事を収めているなんてちょっぴり見直したかも…
「殿下?殿下はいつもこうやって被害が大きくならないうちに魔獣を?」
「お互い痛い思いをする必要はないだろう。俺にはその力があるってだけの事だ。それを使わない手はない。そう思わないか?」
「だけど…」
アリシアだって人より違う特別な力があった。だからこそみんなはアリシアに敬意を払い聖女としてあがめてくれたのだ。
それをひけらかそうとは思わない。
でもそれなりの扱いを受けてもいいのでは?
彼はこの国の王子なのに?
それに彼って意外と優しいところもあるんだ。
以外に!
アリシアが目を凝らせば遠くにある畑が荒らされているのが見えた。
「少し待って下さい」
アリシアは地面に跪いて祈りを捧げる。
「オーディーンの神よ。神のご加護と祝福をこの大地に与えたまえ…生なるものの命の灯火をこの土地に導き給え…」
「おい、何をしてる。行くぞアリシア」
「は~い」
アリシアが立ち上がるとその周りに花が咲き乱れた。先ほどの荒らされた畑には作物がたわわに実っていた。
「アリシア何をした?」
「私も殿下を見習って…フフフ」
「俺にはそんな優しさはないがな」
そう言ったグレンの口角が少し上がった気がしたのは気のせいかも。
アリシアは春風に頬をくすぐられるようそんな感覚になってすごく気分が良かった。
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