第10話(下)国王にも治癒魔法を?どうすればいいのよ!
そこにグレンが現れた。
彼は白いシャツの袖をまくり上げて襟元は緩めた姿で現れた。白金と金色の髪をㇰシャリと描き上げるその仕草。まさに麗しきご尊顔。
アリシアは思わず生唾ごっくんとなる。
こ、これは目の保養とでも言いましょうか。ち、違うから。
「アリシア、お前国王にも盛る気か?」
せっかく見目麗しいお方と思ったのに何ですかいきなり。
アリシアの視線がジト目になったのは言うまでもない。
「まさか…殿下言っておきますがそれは誤解です。私は聖女です。治癒魔法でご病気の国王に少しでも楽になっていただけるようにするだけです」
「まあ、今回は俺もそばにいるからな。何しろ大切な父だ。お前と二人きりにするわけにはいかんからな」
「でも、それでは気が散ってしまいます。少しでも御父上を楽にしてあげたいなら二人きりにして頂かないと無理です」
「言ってろ。さあ、今から父に会いに行く。お前の来い!」
「あっ、ちょっと待って下さい。まだ身支度もしていません。それにマティアス殿下がお誘いに来られるとおっしゃっていましたが…」
グレンはアリシアの手を取っていたが次の瞬間、顔を赤くしてパッとつないだ手を離した。
「なんだと?お誘い?マティアスにもう手を出したのか?」
「何を!国王の所に連れて行くとおっしゃっただけです」
「お前なぁ。それならなおさらだ。すぐに支度しろ。ミーシャを呼んでやる。そうだ。どんなドレスがいいかわからなかったから適当に頼んでおいた。それを着ろ!いいな」
あからさまな態度を取ったと思うと優しくなる。一体何がしたいのだろう。
アリシアにはさっぱりわからない。でもはっきりしていることは魅了魔法は効いてないと言う事。
でも、万が一ということもあるかもと。
「ありがとうございます殿下。あの…殿下どこかお身体の具合に変化はございませんか?」
「俺の身体は魔族の血のせいですぐに治る。身体に変化などあるはずがない!」
「あっ、それはすばらしいお身体ですね。よかったです。殿下がお元気で…」
なんだ。やっぱり魅了魔法は効いてないって事だとがっかり。ううん、かかってなくて良かったじゃない。
だって、あんな人からぐいぐい迫って来られたらたまった物じゃないから。
それにしてもドレスの用意まで、どれほど気の利く男なの。やっぱり殿下は女に慣れた人なんだ。
そんな事を思いながらもアリシアはすぐにクローゼットを見た。
「す、すごっ…」
思わず見惚れる。
どれも繊細な美しい生地。アリシアには手にしたこともないような肌触り…思わずドレスを手に頬ずりまでしてしまう。
こ、これを私が着ても?
ああ、これで私のやりたかった事がまたじつげんする。夢みたい…
内心はすぐにでもドレスを着たい気持ちがせり上がって来るがさすがに国王に会うのにと勇気が湧かず握っていた手からドレスを引きはがす。
いいから、後でいくらでも着れるんだから!!
やっと気持ちを切り替えていつもの聖女服を着るだけ。
すぐに準備は出来た。
だが、アリシアの葛藤には相当時間がかかったらしくグレンから声を掛けられる。
「一体何をしている?準備はいいか?」
グレンは以外にも部屋の外から声を掛けた。
「はっ、はいすぐに!」
髪の毛もそこそこに慌てて扉を開いて廊下に出る。
「チッ!どうしてドレスを着ない?俺が見繕ったのが気に入らないのか?マティアスにはあんなに笑顔を振りまいていたくせに」
グレンは気に入らないと声をうならせた。
「あっ、殿下。あわわ。とんでもありません。あんなきれいなドレスもったいなくて…それに今から国王に会うのにあのドレスではいけないのかと…ほんとにありがとうございます殿下のお気持ちすごくうれしいですから」
えっ?私って素直。自分でも驚き。今まではいつもは文句ばっかり言っていた気がする。あの大司教を相手だものね。
「…礼など言わなくていい。調子が狂う。ったく。いいか、わかってるな。父には間違っても盛るなよ」
「また…冗談でもやめてください」
グレンはアリシアと距離を取りながら王の寝室に向かった。
グレンは大股で歩くのでアリシアは急ぎ足でついて行かねばならず廊下を曲がっても待っていてくれることはなかった。
もう少しで迷子になりそうになりながら必死で後を追いかけた。
ったく。絶対わざとでしょ。何よ。最低男。魅了魔法が掛かっていなくてよかった~
アリシアは何度も喉元から出そうにねる言葉を飲み込んだ。
でも、この人に頼まなきゃならないのよね。どうやって頼んだらいいんだろう。
脳内にまたしても次の心配がふってわいた。
ああ…もう最悪。それにしてもマティアス殿下ごめんなさい。
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