第10話(上)国王にも治癒魔法を?どうすればいいのよ!


 アリシアは部屋に戻るとミーシャに食事をどちらでするか聞かれた。


 「疲れたからこの部屋でもいいかしら?」


 「もちろんです。アリシア様がマーティン殿下のお怪我をすべて治されたと王宮は大騒ぎです。王妃様はそれはもうお喜びだと伺いました。本当にありがとうございました」


 「とんでもありません。私にできる当然のことをしただけで…」


 「本当にご立派で奥ゆかしくて…そうでした。お食事の用意を…ではすぐに準備いたしますので」


 ミーシャはすぐにワゴンを押して部屋に入って来た。


 まだお昼だというのに、肉のソテーやサラダ、フルーツや真っ白いふわふわのパンまである。


 アリシアは並べていかれる料理を見て驚く。


 今まで食べていた料理と比べたらこれはもう年に一度の豊穣祭や生誕祭の時ほどのごちそうだ。


 こんなごちそうが昼間から?食べていいの?これ私が?


 「取りあえずこれくらいお持ちしましたがまだ欲しいものがあればすぐにお持ちします。まだこの後お茶とデザートのご用意もありますので…ではごゆっくり」


 「えっ?ええ、そうさせて頂くわ。ありがとうミーシャ」


 アリシアはひとりになるとマナーなど気にすることもなく肉のソテーに貪りついた。


 おいしいっ!こ、これは口の中で肉汁が溢れんばかりに出ておいしーいったらないです。


 聖女だったらとてもじゃないけど味わえなかった代物です。


 サラダやフルーツも新鮮獲れたてでおいしいです。


 それに、なに?このふっわふっわの白いパンは。思わず頬ずりしたくなりそうなほど食べるのがもったいないくらいで。


 うん?口に入れたら蕩けました。今までは黒パンと呼ばれる日持ちのする固いパンばかりを食べていたので、ほんとに口に入れた瞬間小麦の芳醇な香りが広がって。ああ…しあわせです。


 やりたかったことまたひとつ実現です。


 アリシアはひとりで幸せ気分に浸りながら食事を取っていると、扉がいきなり開かれた。


 「アリシア様、あっ、失礼しました。お食事中とは気づかず…」


 入って来たのはマティアス殿下だった。


 「ちょ。もぐもぐ…ごっくん。すみません。何か?」


 アリシアは口の中のものを急いで飲み下す。ほんとはもっと味わっていたかったが仕方がない。


 マティアス殿下は少しバツが悪そうに話を始めた。


 「あの…実は父の具合が良くないのですがあなたに診て頂けないかと思いまして、そう思ったら少しでも早い方がいいと思ってしまって」


 「ああ、そう言えば国王の具合がよろしくないと伺っていたので私も一度お見舞いにと思っていたのです。でも、今日来たばかりですぐにそんな事をお願いするのもと思いましたので…」


 「アリシア様…ああ、あなたは本当に天使のようなお方です」


 マティアス殿下の顔がばら色のように輝いた。


 翡翠色の瞳はキラキラ輝き、唇からは零れ落ちんばかりの真っ白い歯が見えた。


 まさに殿下の周りには星が瞬いているのではと。


 「私がすぐに父に会えるよう計らいますので、まさか今すぐとは申しません。あっ、どうかそのまま。ごゆっくり食事をして下さい。そうだ。何かお持ちしましょうか?」


 「とんでもありません。もう充分足りてますので…では後程…」


 扉がバタンと閉まった。



 アリシアはほっと胸を撫ぜ下ろした。


 マティアス殿下ってほんとに子犬みたい。


 ひとりで微笑んでニンマリする。


 しばらくしてハッと思い出す。


 国王ってどんな病気なんだろう?病気の時には治癒魔法はどうすればいんだろう?傷は唇をどこに付ければいいあはっきりわかるが病気は‥頭痛なら頭だろうか。腹痛はお腹。国王はどんな病気なのだろう?


 アリシアは不安になって大司教に聞いてみることにする。



 首にかけているペンダントを手に取り鏡に向かって話しかけてみる。


 『大司教。大司教。返事していただけます?アリシアです。伺いたいことがあるんです』


 「……」


 しばらく待つ。だが、何の返事も帰ってこない。


 もう一度呼んでみるが返事は帰ってこない。


 もうこれって大噓じゃない。おかしいと思ったのよ。こんなもので話が出来るなんて…


 『なんだ。さっきからこっちも忙しいんだ。要件を話せ!』


 『大司教?ほんとに聞こえてたんですか?』


 『はい、治癒魔法って病気の時はどうすればいいんでしょうか?』


 『なんだ?シーヴォルト殿下は病気か?』


 『いえ、病気は弟のシーヴォルト殿下でしてそちらは完治出来たんですが今度は国王がご病気だとかで診て欲しいと頼まれまして、でもけがでなく病気はどうしたらいいのかと思って』


 「そんなことわかるはずがないだろう?私だって治癒魔法はほとんど使ったことがないんだ。悪いところに唇を付ければきっと治癒魔法が発動して患部を治してくれるはずだ。どこが悪いか国王なら担当の医者がいるだろう。そいつに聞けばすむことだ。それくらいの事でこの鏡を掴使うんじゃない!いいか、殿下の病気を治したのなら殿下に魔狼の事頼んでくれ、なるべく早く頼む。魔狼は東を目指しているらしいと情報が入った。きっと太陽が上る瞬間を狙っているんだろう。アリシア、事は一刻を争うんだ。いいな、頼んだぞ。プチン」


 と音がしたわけではなかったがこれで連絡は終わりとばかりに大司教はそう言うと部屋には一気に静けさが戻って来た。


 だから私にどうしろと?


 大司教あなたはまったく当てにならない人です。まあ、そんな事ずっと前から分かっていたんですけどね。


 ”大司教。おまけに魅了魔法効かないんですけど。ほんとにどうすればいいんです?”


 アリシアはそう心の中でつぶやいた。


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