6-2 お姫様、エスコートさせて頂いて宜しいでしょうか?




 翌日。

 いったいどういうわけか、朝起きていつもどおり仕事をしに洗濯場に行ったら、私は休暇になっていた。しかも休んでもお給料は出るらしい。ありがたいけどほんとイッタイ何ノ力ガ働イタンダロウネ?


「ま、誰の差し金かは分かってるけどさ」


 仕事にかこつけて約束をすっぽかすとでも思ってるのだろうか。どういったものであれ約束は大事。それをすっぽかすなんて……まあちょこっとでも考え無かったと言ったら嘘になるけどさ。

 しかし暇だ。急にやることがなくなっちゃったから時間を持て余してしまう。これが他の下女だったらベッドの上でゴロゴロするなり、そそくさと街に買い物へ行くんだろうけど。

 しかたないので早めに街に出かけ、なんとか時間を潰して約束の場所で待つ。私とどこで何をしたいのかしんないけど、さっさと終わらせてしまいたいなー。


「おまたせ、リナルタ!」


 そうやってぼけーっとしてると私を呼ぶ声。振り返れば、アルフが「フレッド」の姿で走ってきていた。魔導具を使って顔を変えててもイケメンはイケメン。さわやかな笑顔を振りまいてるせいで、すれ違う女性がみんな熱い視線を送ってるけど本人はまったく素知らぬ様子だ。まったく、罪づくりな男だね。


「ん? 僕の顔になにかついてる?」

「いんや、別に。アルフも大変だろーなーって思って」

「何の話だい?」

「私が勝手に同情してるだけだし気にしないでいいよ。それより、また勝手に人の仕事を休みにして、私をどこに連れてくのさ?」

「はは、それは到着するまでのお楽しみさ」


 少し怒った素振りを見せてみてもアルフは意に介さずさわやかスマイルでウインクしてくる始末。はぁ、ホントどこに連れてかれるんだか。

 ため息をついてると、アルフがかしずいて私の手を取り見上げてきた。おっと、これはなかなかの破壊力。


「お姫様、それではエスコートさせて頂いて宜しいでしょうか?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべ、しかもこんな気障な仕草も様になるから手に負えない。本人よりもむしろこっちの方が恥ずかしい。

 おまけに周囲の視線がだんだんとアルフへの羨望から私に対する妬みに変わってきた気がする。なので、アルフを急かしてその場を後にした。

 店も開き始めて徐々に賑わい出した皇都の街を二人で並んで歩く。手? アルフは繋ぎたそうにしてたけど、そんなのはもちろんソッコーで振りほどいたよ。恋人じゃあるまいし。

 しかし、ホントにどこに行くんだろ? フレッドの格好で来たから、まさかギルドの依頼を一緒に受けるとか? そうならそうと言ってくれれば別に付き合うのはやぶさかじゃないんだけど。


「こっちだよ」


 アルフに案内されながら一緒に歩くこと数分。程なくたどり着いたのはギルド――ではなく見るからに高そうな宝飾店だった。いや、私は下女だしこういうお店は苦手なんだけど。


「まあそう言わないで。今日は僕に付き合ってくれるんだろ?」

「そりゃそうだけど」


 渋々とはいえ約束しちゃったしね。仕方ないか。

 アルフがドアを開けると、中から香りが漂ってくる。しっかりとした匂いだけど、別に不快じゃない香り。これだけで分かる。絶対そこらの貧乏貴族じゃ入れない相当に良いお店だ、ここ。


「いらっしゃいませ、アルフレッド殿下。お待ちしておりました」


 入った瞬間、店長らしき女の人がにこやかに話しかけてきた。今のアルフは「フレッド」なはずなんだけど、迷わず本名で呼びかけてきたってことは……


「この店は皇室御用達でね。店長とも顔見知りなんだ。それに、今の皇室に対しても『良心的』な信頼できる店だからね」

「ありがとうございます。当店は品質の良いものをご予算に応じた適正な価格で提供することをモットーとしておりますし、何より身につけてくださった方の美しさを引き出すことこそが目的。故に美を損なう過度な装飾とならぬよう、皇室の方々にもご提案させていただいてます」


 なるほど。つまりアルフの事も昔から知ってるし、今の陛下は浪費家だけど、むやみやたらに高いものを売りつけたりはしないってことね。


「さ、今は僕らしかいないし、君の好きなものを選んでくれていいよ」

「いや、前も言ったとおり私は欲しくないし」

「君には色々と迷惑を掛けたからね。プレゼント、というより先日のお詫びのつもりなんだ。どうか受け取ってほしい」


 そうは言ってもねぇ……

 とりあえず店内を見て回る。さすがは高級店で下品に見えるような物は一つもない。指輪もブレスレットも目を引くようなものばかり。だけどうーん、そもそも欲しいとも思ってないからか、どれも私にはピンとこないなぁ。


「やっぱりいいよ。アルフから物をもらうってだけで余計恨みを買うだけだし、どうせこういうのもらったって普段つける機会もないしさ」

「君ならそう言うと思ってさ」


 アルフが手を挙げると、店長は一旦奥に引っ込んでいった。すぐにまた戻ってきたけど今度は箱を一つ持ってて、それを私の前でゆっくりと開けた。

 入ってたのは一つのネックレス。特段分かりやすい特徴的な装飾もないし、キラキラと輝いて自己主張が激しいわけでもない。なんというか、ひじょーにシンプルで、見る目がない人なら選択肢にも加えないような代物だ。

 だけど、こういった宝飾類は昔は頻繁に見てたから私には分かる。これもまた、ずいぶんとずいぶんな品だね。


「これならつけてても下女服に隠れて見えないし、いつも身につけていられるだろ? これでもダメなら、君の部屋に強引に置いてくから」

「引く気はないってことだね」


 はぁ、しかたないか。タダでくれるって言ってるんだし、いくらアルフだっていってもあんまり断るのも失礼だしね。それにまぁ……気に入らないかっていうとそういうわけでもないし。

 アルフにうなずくとすぐにその場で購入してくれて、おまけに私につけてくれた。首にかかったネックレスを手のひらに乗せて眺めてると、ちょっと気分が上がった気がする。


「ありがとうございます、アルフレッド殿下」

「よしてくれよ、改まって。さっきも言ったとおりお詫びだからさ」

「それでも礼儀はきちんとしときたいの。それで、付き合ってほしいって言った用事はこれで終わりかな?」

「そうだね。できればこの後、軽く食事でもどうかと思ったけど」

「それじゃデートじゃん」


 そりゃね? 皇都だからさ、アルフを目の敵にしてる連中の目があるかもしれないよ? けどお城を出る段階でどうせそういう連中にはアルフが私に会いに行ってるってバレてるだろうし、城の外でまでデートのフリしてアピールするまでもないと思うんだ、私は。

 そう言ってあげるとアルフが微妙に顔を引きつらして、それから小声で何か言ったけど聞き取れなかった。ごめん、なんて言った?


「いや、気にしないでくれ。ただの独り言だから。

 話を戻すけど、もしリナルタが行きたいところがあるなら付き合うよ。デートとか関係なしにね」


 お、いいの? 待ち合わせでボケーっとしてた時に、久しぶりに行ってみよっかなって思ってたところがあったんだよね。

 よし、決めた!


「なら、今度は私に付き合ってくれる?」




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