5-6 犯人をいい加減教えてくれない?




 ともあれ、そんなこんなでお姫様抱っこのまま城内を練り歩き、そりゃもう数多の好奇の目にさらされながらアルフの部屋に到着した。まったく、なんて羞恥プレイだよ。

 これがリズベット様だったら「どう? すごいでしょ?」みたいな感じで誇らしげにするんだろうけど、私には無理だね。皇族に見初められたってメリットどころかデメリットしか感じないし。

 部屋に入るとずっと我慢してたため息が思わず漏れた。んで、ふと視線を感じて見上げればアルフがなんとも楽しそうに微笑んでた。


「部屋に着いたんだから降ろせっての」


 それがなんか癪に障ったのでイケメン面に拳をめり込ませると、アルフの悲鳴が上がって私はようやく解放された。


「……君、仮にも僕は皇子なんだからさ? もうちょっと容赦というものをだね……」

「ご所望ならそう対応致しますが?」


 私は別に皇子様として扱っても一向に構わないんだけどね。恭しく一礼して敬語で話してみると、アルフは肩をすくめてため息をついた。


「素の君の姿の方が魅力だからね。痛いのは嫌だけど、かしこまった態度は遠慮しておこう」

「まーた歯の浮くようなセリフをスラスラと」

「本心だよ。ところで……コイツはどうする?」


 アルフがコンラッドから受け取った剣を差し出してきた。そういえばそうだったね。


「どうしよっかな……私の部屋だとまた誰が忍び込むか分かんないし」

「君さえ良ければ、僕の部屋で管理しておこうか? もちろん管理だけで勝手に使ったりはしないよ」


 仮にもレオンハルトが使ってた剣だ。剣自体はもちろん、歴史的な価値も計り知れない。見る人が見れば価値はすぐ分かるだろうし、せっかく手に入ったそれがコンラッドみたいなクソッタレ野郎に盗まれて好き勝手使われるのも癪だし……しかたないか。


「ならお願いします。面倒をかけるけど」

「これくらいお安い御用だよ」

「何事ですか……?」


 レオンハルトの剣の処遇に話がついたところで、男の人の声と一緒に机にあった書類の山がガサゴソと動いた。

 紙の白とインクの黒で斑な山の下から紫色の髪がぬるっと現れて、何かを手探りしたかと思うと丸い眼鏡をめっちゃ濃いクマができた目に掛けた。あ、起こしちゃってゴメン……って、どなた?


「ああ、誰かと思えばリナルタさんでしたか。ここにいると言うことは、無事に疑いが晴れたということですね」

「紹介するよ、リナルタ。コイツはジェフリー・ローダム。ローダム男爵家の次男で、子供の頃から僕の侍従として使えてくれてる唯一無二の存在だ」

「唯一無二とおっしゃって頂くのは光栄ですけど、それならもうちょっと僕を大切に扱ってほしいものですよ。

 おっと、失礼。ご挨拶するのは初めてですね。よろしくお願いします、リナルタさん」


 アルフに悪態をつきながら、ジェフリーが私にも恭しく一礼してきてくれた。それに私は少し驚いた。なにせこちらは一下女で、次男とはいえジェフリー様は男爵家のご貴族様だし。


「女性にまったくと言っていいほどご興味を示さなかったアルフレッド殿下が懇意になさっている方ですから。侍従として礼を尽くすのは当然です」


 そう言って微笑みながらもジェフリー様の視線は鋭い。私を見定めようとしてるみたいだ。てか「懇意にしてる」って言うな。

 外堀を埋められてるようでちょっと腹立たしいけれど、それでも礼を尽くしてもらったのなら私も礼は尽くさなきゃね。

 エプロンドレスの裾をつまんでカーテシーで返してあげる。すると、今度は二人が驚いた表情を見せた。


「君、もしかして何処かの貴族の出自かい?」

「まさか。長らく皇城に勤めてますから自然と覚えてしまっただけです。それで、殿下――」

「ああ、ジェフリーのことは気にしなくていい。二人きりの時同様に『アルフ』で構わないよ。言葉遣いもね」

「そう?」


 チラリとジェフリー様の様子を伺うと、微笑みながら小さくうなずいた。ならお言葉に甘えさせてもらって。どうせジェフリー様に嫌われたところで特別何か困ることはないし。


「なら、アルフ。アンタの部屋に連れ込まれたわけだけど、私に濡れ衣着せた犯人をいい加減教えてくれない?」

「人聞きの悪いこと言わないでほしいな? 安心して会話できる場所が城内だとここだけだったんだ。

 それで君を陥れようとした犯人についてなんだけど……残念ながらハッキリとは分かってはいない」


 おっとぉ? 「答えを知りたいかい?」なんて散々もったいぶっといてそれはないんじゃないの?


「言いたいことは分かるよ? だけど、残念ながらまだ僕たちも全容が全然つかめてなくてね」

「全容? どういうこと?」

「そうだね、僕らが今しようとしていることも含めて話すことにしよう」


 そう前置きしてアルフが語ってくれたのは、なんともまあ悲惨なこの国の状態だった。





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