5-3 私の趣味、知ってる?
「えっとぉ、確かあの二人は……」
同じ部屋だったはず。各部屋の入口に掛けられてるプレートを眺めていけば目的の部屋にあっという間にとうちゃーく。
ヘアピンを髪から外して鍵穴に差しててきとーに動かせばカチャリと音が鳴って、ドアをそっと押せばあっさりと扉は開いた。下女の部屋の鍵なんてこんなもん。ここらへんはちょっと年季の入った下女なら誰だって使える「技」だ。だから私の部屋にしたみたいに、忍び込もうと思えば誰だって入り込み放題ってわけ。
「……気持ちよさそうに寝てること」
私が侵入したのは――フリーダとハンナの部屋だ。そう、リズベット様の付き人をやってる上級下女のあの二人。ベッドから揃いも揃って幸せそうな寝息が聞こえてくる。
下級下女の時代からリズベット様に同調して散々嫌がらせしてたから期待はしてなかったんだけど、人を貶めといてこんなにも健やかに寝てられるってどんな神経してんだろ。ま、それも今日で終わりだけどね。
消してた気配を醸し出し、寝てるフリーダにまたがって寝顔を覗き込む。起きてる時と違って寝顔は可愛いじゃない、とかどーでもいい事を考えてるとさすがに寝苦しさを覚えたのか、彼女がもぞもぞし始めた。
そして彼女の目がゆっくり開いた瞬間、にこやかに笑う私と目が合った。
「……! ギャア――」
起きたら目の前に私がいるんだからね。そりゃさぞびっくりしただろうさ。でも残念ながら今は夜中。たいそうな悲鳴を上げてもらっちゃぁ困るの。
口を塞ぎベッドに力付くで押し付けてニコリと笑ったんだけど、隣のハンナは眠りが浅かったみたい。一瞬だけ漏れた悲鳴に反応したのか、むっくりと体を起こした。
「なによ、フリーダ。まだ夜中じゃ……り、リナルタ!?」
寝ぼけ眼で目をこすってたけど、私の姿を認めた瞬間一気に覚醒したらしく、目がギン!って見開いた。そのまま大声を上げられそうだったから、夕食の時にくすねてた食事用のナイフを投げつけてハンナの真横に突き刺してやると静かになった。うん、宜しい。
「二人とも。深夜なんだからお静かに。ね?」
そう言うと、二人とも今にもおしっこチビリそうなくらいガタガタと震えて私の言葉に頷いた。理解が早くて結構、結構。
「じゃあ始めよう。こうしてこんな夜中に私がわざわざ来たか。用件は分かってるよね?」
「な、なんのことだかさっぱりよ……?」
あら、とぼけちゃう? いや、あっさり認めてくれるなんて期待もしてなかったし、そう思ってこっちもちゃーんと準備してる。
スカートのポケットから琥珀色の石を取り出して、魔力を込めて転がす。すると石から鮮やかな光が飛び出して空中にとある景色が映し出された。その瞬間、二人の顔色が一気に青ざめた。
そりゃそうだよね。だって――自分たちの
「……」
二人揃って歯をカチカチ言わせながら映像を呆然と見上げた。
私が投げたのは記録石ってやつで、魔力を込めて設置しておけば一定時間ある領域の風景を記録できるってやつ。
んで私が持っていた記録石には、私の部屋に忍び込んだフリーダとハンナが宝石とか大量の金貨が入った袋をクローゼットの奥に隠して笑い合う様子が記録されてて、現在はそれがエンドレスリピートで絶賛上映中っていうわけ。そりゃ顔も真っ青になろうってもんだよ。ま、この映像自体は完全なる捏造なんだけどね。
二人が忍び込むタイミングで記録石をセットしてるなんて、そんな都合の良いことあるはずがない。この記録石と映像は私が「魔法」で作り出したものだ。だけどじゃあ全くの嘘っぱちかというとそういうわけでもない。
あくまで映し出された中身は紛れもない事実。つまり、二人は実際にこの映像と同じことをやってたってわけ。おかげで半日くらい魔法が使えない程度の代償で済んだ。これが全く事実無根な映像だったら年単位で魔法が使えなくなっちゃうところだけど、リズベット様がフリーダとハンナの事を教えてくれたから助かったよ。
「さて、嘘っぱちな証言で人を牢屋にぶち込んでくれたわけだけど……覚悟はできてるよね?」
「ご、ごめんなさい!」
「ゆ、ゆゆゆ、許して!」
「許す?」
ずいぶんと面白いことをおっしゃるお二人だこと。まさか、謝ったら許されるなんて本気で思ってるわけじゃないよね?
「明日、わ、私たちの勘違いだったって証言するから!」
「そ、そうだ! 私たちが持ってる宝石やお金も分けてあげる! だから、ね? お願い!」
ふぅん。それってつまり、私に本当に泥棒になれってことかな?
「別にいいじゃない! どうせ貴族様たちの贅沢に使われるお金よ? 少し私たちがおこぼれに与ったって問題ないってば」
「大丈夫、大丈夫よ。私たちと貴女が黙ってればどうせ分かんないって。それに私、知ってるんだから。アンタがギルドで働いてるの。お金が必要なんでしょ?」
はぁ……助かりたいのは分かるけど、この期に及んで本気でこんな事を言ってくるなんて、まったく。
「なるほど、面白い提案だね」
笑顔で二人の肩を一度ポンと叩く。勘違いした二人の顔に安堵が浮かんだ。
「ところで二人ともさ。私の趣味、知ってる?」
「……? い、いいえ?」
「なら教えたげる」
だけど次の瞬間には私は胸元をつかみあげていた。
力付くで二人を引き寄せ、息が掛かりそうなほどに近くで告げてやる。
「――アンタたちみたいなクズをぶちのめすことだよ」
そして私は拳を振り抜いた。
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