1-4 下女たるもの、いつでも下女服が当たり前でしょ?




 助けてくれたお兄さんのことはさておいて、ぐるりとギルドの受付カウンターを眺めてみる。

 この時間、客というか傭兵はあまりいないから受付はそれなりに空いてる。とはいえ、事情を鑑みるとエルヴィラの窓口がいいんだけど……今日は休みかな?


「しかたないか。ニコラで我慢しよっかな」

「なんかずいぶんな発言が聞こえたんだけど?」


 私のぼやきを耳ざとく拾われてしまった。相変わらず地獄耳だね、ニコラは。


「僕の武器は品質の良い『耳』だからね」


 そう言って笑うニコラ・サヴィーニの待つ窓口に向かう。彼の手元にはコーヒーカップがあって、鼻歌を歌いながらドボドボと大量の砂糖を入れ、さらにそこにはちみつを大量にひねり出した。仕上げにレモンのスライスを浮かべると、それを美味しそうに飲んでいく。どう考えてコーヒーの味なんてしないと思うんだけど。


「分かってないなぁ、リナルタは。この甘ったるい中にかすかな苦味と酸味があるのが美味しいんじゃないか」

「普通は逆じゃない?」


 こんな味覚壊滅ヤローが皇都の傭兵ギルド支部長なのだから終わってるね。まあニコラが優秀なのは確かだけど。でも支部長がコソッと受付までやってるのは趣味が悪いんじゃない?


「書類仕事ばかりだと、人を見る目が鈍るからね」

「仕事サボりたいだけでしょ?」

「あはは……ま、まぁそれはいいとして――肩の荷物を見る限りだと、やっぱりクロだったんだね?」


 急に真面目な仕事モードに変わったニコラに私もうなずく。

 私が傭兵ギルドから受けた依頼。それは、マッサたち三人の監視と、尻尾をつかんだらその捕縛をする、というものだ。

 元々マッサたちを訝しんだのはニコラで、皇都に来た時に三人の過去の依頼履歴を見ればB級昇格も目前か、というところだったんだけど、履歴を深堀りしていったら彼らと組んだポーターが何度も死んでたみたい。それを怪しんだエルヴィラとニコラが、ギルドからの指名依頼という形で私に話を回してきた、ってわけ。

 てなわけで一通り今回の顛末を話し、三人を奥の部屋に放り込んでから完了書類にサインをする。これで依頼はすべて完了っと。


「ホント、もったいないねぇ……こんなに強いのにポーターだなんて」

「傭兵待遇になったらお城の仕事ができないじゃん」


 傭兵として登録すると、月に一度は何か仕事受けなきゃいけなくなるし、長期の護衛依頼なんかもある。だけど私の本職はあくまでお城の下女。報酬は安くても自由に契約できるポーターが副業としては適してると思う。

 それを示すようにスン、と澄まし顔で下女らしく一礼してみせる。


「だとしても、ポーターの仕事中も下女服なのはやり過ぎだと思うけど」

「下女たるもの、いつでも下女服戦闘服でいるのが当たり前でしょ?」


 そう教えてあげると、ニコラは盛大にため息をつきつつ報酬金を差し出してきた。うん、契約どおりだね。


「そういえば、マッサが持ってた魔導剣。あれはどうなんの?」

「一度こちらで預かって、盗品じゃないか調べるよ。そのうえでマッサたちの罪が確定次第、資産は没収されて被害者救済に当てられることにあんるだろうね。リナルタも一応は被害者って扱いになるから、ほしければ後であげるよ?」

「じゃあお願い」


 別に私は剣を使わないけれど、あの剣自体はたぶんレオンハルトが大昔に使ってたやつだと思う。こうして私の側にやってきたのも縁だし、他の人間に渡るくらいなら私が持ってたい。

 差し出された受取用の書類にサインし、ふと顔を上げるとニコラの後ろにかかっているボードが目に入った。あれ? また魔力石のレート上がってない?


「ああ、そうなんだ。ここ最近需要が急激に増えてるみたいでさ」

「どこかで大規模な開発が行われるの?」

「そんな話は僕の耳にも入って来てないけど、可能性は否定できないな。国か大貴族か大商会か……何を企んでるか分からないけど、それらの誰かが買い集めてるのかもね」


 さっきの行商のおじさんもぼやいてたし、ここまでレートが上がると魔導具をよく使う人たちは大変だろうね。私は皇城暮らしだし、普段の生活でも魔導具を使うことはほとんどないから関係ないけど。

 顔も知らない不利益を被る人たちに表面上の同情をしつつ、もう一度話を聞くため私は行商のおじさんのところへ向かった。





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