1-3 どっかで見たことがある気がする




 マッサたちをボコボコにぶん殴って気絶させると、私は三人を担いで近くの街に戻った。


「よいしょっと」


 街中に設置されてる長距離移動用のポータルに三人をポイポイーってな感じで投げ込み、最後に私が中に入って皇都側のポータルに出ると、警備の兵士さんたちがぎょっとした顔で私を見てきた。そりゃ三人立て続けで気絶した人間が出てきたらそうなるよね。


「お疲れ様でーす。あ、これギルドの依頼票と身分証」

「あ、ああ……」


 こちらとしては特にやましいことも無いので兵士さんたちに必要な書類を差し出すと、あっさりとそのまま通された。ただ相変わらず目を丸くして私を見つめてたけど気にしない気にしない。しかし、ポータルが一人ずつしか通れないの、何とかならないのかな? いや、戦争のこととか魔獣のこと考えると小さくせざるを得ないのは分かるけどね。

 そんな事を考えながら人があふれる皇都の街中を歩いてると、ふと知り合いを見かけた。


「やっほー、おじさーん! ひさしぶりー!」

「おう、嬢ちゃん。久しぶりだな」


 声をかけると、暇そうに油を売ってたおじさんがニカッと笑って、それから私の肩に乗った荷物を見て首を傾げた。


「今回も無事に皇都に来れたぜ。ところで……その肩の兄ちゃんたちはどうしたんだ?」

「あ、これ? これはギルドに届ける荷物」

「……嬢ちゃんは皇城の下女って聞いてた気がするんだが?」

「本職はね。ギルドはお休みの日限定の副業。ところで、今回は何処から商品持ってきたの?」


 おじさんは行商人で、ガラの悪いお兄さんに絡まれてたところを助けてあげて以来、見かけたらこうして会話するくらいの仲だ。行商人らしく色んな情報を持ってるから、基本皇都から外に出ない私にとっては貴重な情報源でもある。


「今回は北のベルナードからだ。乾物からオモシロ商品まで色々取り揃えてるから、また後で顔出してくれよ」

「あはは、もしお城からお使いの命令が出たらついでに寄るね。ところで、道中はどうだった? 特に変わったことは無し?」

「変わったことか……そうだな、魔獣が前に来た時より目に見えて増えたな。おかげで護衛の傭兵が一人やられちまった」


 そう言っておじさんはため息をついた。

 行商人が雇った護衛の傭兵が死んじゃうっていうのは、多くは無いけどそこまで珍しくない。整備された街道であっても魔獣は出てくるし、野盗だっているしね。


「そうは言っても今回はベルナードから皇都までだったからな。そこまで魔獣に出くわしたわけじゃなかったが、もっと北の方はやべぇらしいぜ? そこかしこに魔獣がいて、街道でもまともに通れねぇとこもあるらしい」

「そんなに?」

「ああ。あんまりに多いから魔王でも復活したんじゃねぇかって話も出てるよ。ま、そりゃ冗談交じりだがな。あの辺りは元々帝国内でも人の手があんま入ってねぇとこだし。

 とはいえ、しばらくはあっちの方を回るのは控えとこうと思ってるよ」

「迂回すれば良いんじゃない? ま、無理に私も危ないところに行けとは言わないけど」

「迂回したらただでさえ旅費が嵩むからな。魔力石の値段が高騰してる今、魔導具のランニングコストも馬鹿にならねぇし、あっち方面を回るのは得策じゃねぇ。魔力石の値段が元に戻ったら考えねぇでもねぇけどな」


 なるほど。弱い魔獣避けの魔導具であっても魔力石は結構使うし、かと言って他の商品の値段も上がってるわけじゃないから、よほどの大商会じゃない限り損するだけかもね。

 とりあえずおじさんとの話はそこで切り上げて別れた。北の方の話はともかく、皇都周辺でも魔獣が増えてるっていうのは気になる。後でもうちょっと詳しく話聞いてみよっかな。

 マッサたち三人を担ぎ直して傭兵ギルドに向かう。週末の皇都だから人が多くて、大きな荷物担いでると歩きにくいのなんの。すれ違う人からも不思議そうな視線をたくさん頂戴したけれど、簀巻きにした人間を抱えてる怪しいスタイルにもかかわらず誰にも咎められなかったのも皇都ならではかもしれないね。


「ふぅ、到着っと」


 歩くこと十数分、ギルドにようやく到着した。設立されて二百数十年、ギルドの中でも最も古い皇都のギルドは当時のままほとんど改築されてないから見た目から古びてて、入口なんかもスイングドアのままだ。

 それを押し開けて中に入る。と、入った途端に不意に後ろに引っ張られた。


「おっととと」


 見ると、フィリアのひらひらした服がドアに引っかかっちゃってた。なんとか踏ん張って間抜けな姿をさらすのは免れたけど、バランスは崩したまま。なので一回肩の三人を放り出そうか、と思ってたら――


「おっと、危ない」


 目の間に急にイケメンが現れて、背中を支えてくれた。びっくりしてつい顔をマジマジと見つめてしまったけれど、初めて見る人だ。武装してるから傭兵ではあるんだろうけど、それよりも気になったのはその顔だ。

 どうやら魔導具で顔を変えてるらしい。私には魔術が効きにくいから薄っすらと本当に顔が見えて、それがまた変装後の顔よりも美男子だからなおさら驚き……なんだけど。


(なーんかどっかで見たことがある気がするんだよね)


 このお兄さんの方も、私を見て少し驚いてるっぽいし、結構日常的に見かけてるような気がする。でも普段あんまり人の顔なんてこうしてじーっと見ることがないから誰だったかいまいちピンと来ないんだよね。

 とか考えてるとふと、昔にずいぶんと馴染みのあった勇者レオンハルトのことが思い浮かんだ。そういえばアイツにちょっと似てるような気もするなぁ。


「大丈夫か?」


 おっと、つい考え込んじゃった。


「うん、大丈夫だよ。ちょっとバランス崩しちゃっただけだし」

「ならいいさ。気をつけてな」

「ありがとね、お兄さん」


 お礼を言うとお兄さんは、キラキラと周囲に星がきらめくような笑顔で手を振ってくれた。魔導具で顔を変えてるとはいえ、それを考慮しても結構な威力のある微笑みだ。実際、ギルド内にいる女性の視線を一身に集めてるし。

 ま、人の見た目ほど信用ならんものはないって言うし、「イケメンだな」ぐらいにしか私は思わないけどさ。






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