第25話 量産体制に向けて
ソフィーを工房の隅へと追い詰め、笑顔で圧を掛ける俺。
敢えて何も言わない。
さらにプレッシャーを与えるため、ソフィーに顔を近付けていく。
「あ、やめ……顔、ちかっ……息が……ひゅ……分かったわよそうよ私が全部仕組んだのよごめんなさぁい!」
ようやくゲロった。
長々しい弁明だがまとめるとこうだ。
「つまり、あまり人数が増え過ぎると工房内をまとめきれなくなる。特にリコとリーゼロッテがいるせいで、ゴタゴタは避けられない。確実にソフィー達で何とかできる人数も含めると、この7人が限界だったと?」
「そ、そーゆーこと!」
ソフィーが全力で頷き、アメリアたんもコクコクと頷いている。
何か誤魔化された気がするが、アメリアたんに免じて許してやる。
「それに……」
ソフィーは俺の怒りが収まったことを確認してボソボソと耳打ちしてくる。
「アメリアに対して問題の無い人選がコレだったのよ。家柄的にも最適解なの。勇者2人は自覚無いかもしれないけど、最悪アメリアの激ウマご飯で釣れば変なことできなくなると思う。それでも、ここにいる者達は大丈夫」
くっ、全てはアメリアたんのためだと?
確かに庇護欲を唆られるアメリアたんだが、逆に言うと虐めやすいということだからな。そんな輩には遅効性の毒をたっぷり仕込んで自ら命を絶ちたくなるように仕向けてやるけれども。
そういうことならしょうがない。
しょうがないのだが!
「次からは事前に相談してくれ。いい加減量産体制を整えないとマジで間に合わん」
ソフィーはシュタッと立ち上がり、いつもの仕事顔になる。
「そこは抜かりありません。このハイルン工房はあくまで研究開発機関です。量産体制の確立は王宮の仕事です。すでに抗生物質について、どう作製したかのレポートは上げています。私の理解がまだ足りていないので追加のレポートを送って来いと言われるでしょうが……」
「ちゃんと話が進んでるなら良い。じゃあ工房で貯蔵する薬は10人分を目安にするとしよう。今の内に伝えておくが、薬を使う優先順位は余所者ではなく、工房内で働く者が上だ。なぜなら全員が薬を創れる者になるからだ。特に重要な抗生物質は裏ストックとして13人分。ここにいる人数分は必ず確保しておくこと」
俺の言葉に全員が息を飲む。
俯いていたリコも、リコに寄り添うリーゼロッテもだ。
「リコ、リーゼロッテ。当然2人が何にも手伝いをしない場合、裏ストックは2人分減らす。魔物を狩れと言う訳じゃない。魔王を倒せという訳じゃない。俺が無理矢理手籠めにするとかいう噂話もホラだったと証明された。どうするかは自分で決めろ。何にもしない場合でも寝るところだけはくれてやる。メシは抜きだがな」
「私に、何ができるというのですか……」
まだブーたれるリーゼロッテ。
クランケンハオスで相当拗らせたか、擦れたか。
そりゃ治癒魔法使いの勇者が治癒魔法使えなくなればこうもなるか。
ある意味で、俺がこうなるかもしれなかった。
もし、俺がリーゼロッテみたいになった時に、誰にも手を差し伸ばされないのは本当にツラいと思う。
幸いにして俺がリーゼロッテに何かされた訳では無い。
リーゼロッテが何かをしてくれるのであれば、最低限の支援はしてやっても良いと思っている。
「掃除でも洗濯でも何でも良い。工房は清潔さが第一だ。それぞれに特化した者もいるかもしれない。教えを請う態度で教えてもらっても良いだろう。この広さでこの人数だ。何もかも担当を決めて1人でやるには大変だからな。分担してやるにも、できることが多いに越したことはない。という風に、探せばいくらでもやることはある」
「……そんなの……分からないです……」
リコと同じように三角座りで俯いてしまったリーゼロッテ。悩めるお年頃ならしっかり悩みな。
対して、リコは立ち上がった。
「私は……時間をくれ。少し冒険者ギルドと向き合いたい。緊急の要件があれば手伝おう。それでどうか、ソウヤよ」
申し訳無さそうに俺の前に立つリコ。
俺は容赦無く言ってやる。
「それ時間とか関係ないだろ。リコは冒険者ギルドで魔獣を狩りつつ、ここも手伝う。俺が一番欲しいのは情報だ。冒険者ギルドなら冒険者の情報が入ってくるだろ? それに珍しい素材も手に入るかもしれない。とにかく情報だ。情報に価値があるのは分かるだろ? なぁリコ先生」
俺の言葉に目を少し見開いたリコは、ふっ、と一言吐き出し、続けて言うのだ。
「そう……だな。その通りだ。分かった。それで頼もう」
うっし。何気に不安材料だったハウプトシュタット外からの情報源確保。
ただ、懸念事項がある。
「リコ先生、そうは言っても、冒険者ギルドが取り合ってくれるんすかね?」
冒険者ギルドとは仲がよろしくない的な話を聞いたばかりである。
そう簡単にリコが冒険者ギルドに入れるのだろうか?
「G級……一番下っ端からなら迎え入れると常に言われていた。それを私が断っていたのだ。勇者に相応しくないと。仕事としてドブ浚い……下水処理もあるからな」
「あー、それはキツいっすね」
日本育ちの妙齢な女性にその仕事は辛いだろうな。元がどんな女性かは知らないが。
「我々の持つ慣習は捨てろ、と言ったのはソウヤだろう。だから、イチから始めてみよう。それでも他の勇者よりはマシであろうからな」
遠くを見るリコは、嘗ての仲間を偲ぶようだった。
ついでと言わんばかりにみんなに聞くとしよう。
「今の内に、仕事の希望を言うと良い。全員だ。基本的に創薬の手伝いをやってもらうが、それだけじゃ生活ができん。護衛騎士である2人にも、護衛以外に荷物運びや一部の買い出しをやってもらう。文官、側仕え関係無く色々とやってもらうが、優先してやりたい仕事があるなら希望を聞こう」
俺の言葉に、アチコチで手が挙がるのだった。
どうやら、本番はここからのようだな。
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