第20話 厄介者の新人達

 片付けを終えて少し休憩していた俺は、夕飯に呼ばれたので二階の食堂へと向かう。


 アメリアが笑顔で料理を出してくれた。


 【翻訳鑑定】では、すっぽん鍋、ウナギの蒲焼、牡蠣のニンニク炒め、と出てくる。


 精の付きそうな料理ばかりである。


 こんなの我慢できなくなるぞ?


 娼館にでも行けというのか?


 行って良いなら行きますよ?

 どこにあるのか知らんけれども。


 先に食堂にいたソフィーがチラチラと俺を見てくる。


 ソフィーに出されている料理と随分違うな。【翻訳鑑定】ではアボカド、牛ヒレ、豆煮と出ている。女性ホルモンに良さそうな食事だな。


「ソウヤ、明日王宮に行って、リストの7人に声を掛けてくるわ。準備は終わっていると思うから。片付けの間に手紙出したし」


 やはりソフィーは有能である。


 そんなソフィー厄介者扱いした上司どもは見る目が無かったとしか言いようが無い。


「さすがに今日のこれからは……心の準備が無理ね……」

「ん? 何の準備だって?」

「べ、別に何でもないわ! 明日は早くに出て、働鐘には戻って来るつもりだから、ソウヤも出迎えの準備を怠らないようにね!」


 あっれー? ソフィーってこんなツンデレキャラだったかな?

 アメリアたんもいつにも増してニコニコしてるし、早速大浴場を使ってきたらしいミーナ、ナディ、クララもニッコニコのツッヤツヤである。


 そんなに新居が良いのか。いや、風呂が良いんだろうな。あんな風呂に毎日入れるのなら、確かに気分はアガる。


 俺は食事を終えた後、背中に熱い何かを感じながら部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドで眠るのだった。

 ちゃんと窓もあって丁度良いサイズの部屋なので、王宮よりもぐっすりと眠れた気がする。

 なんだかんだ疲れたもんな。


 そして翌日。

 ソフィーから報告されていた通り、働鐘が鳴る頃には新人達が着くという王宮からの早馬から知らされた俺は、アメリアにお願いして身支度を整える。

 昔の貴族が着るみたいなゴテゴテした服だ。

 悪代官的な成金貴族と紹介されたら100人中99人は頷くぞ。1人は違うと言うのかって? アメリアたんは違うと言ってくれるはずだ! 多分!


 表でしばらく待っていると、遠くから馬車を連ねてやって来た。

 先頭にソフィー。後方に馬車が6台だ。

 ん? 6台?


「ソウヤ様、お待たせ致しました。後ろに控える者達が、新たに仕える6名の者達でございます」


 仕事なので敬語になっているソフィーだが、俺は気にせずに問う。


「ソフィー、ご苦労だった。だが、7名では無かったのか?」

「それは……ご説明しますが、まずはこちらの者達の紹介を」


 後ろの馬車から4人が走ってきて、2人はゆっくり歩いて来る。2人はソフィーのすぐ後ろの馬車だったが、4人が駆けて来る中で歩いているのでビリとブービーだ。


 4人が緊張の面持ちであるのと対照的に、遅い2人は俺を睨む。

 初対面なのになんで敵意マシマシなんですかね?


 俺から見て右側、ソフィーの隣にいる者から自己紹介が始まる。


 本来なら中に入ってするべきことだが、まだ本採用が決まった訳では無いらしい。


 俺は本採用のつもりだったが、他のみんなが仮採用扱いにしろと言うので、みんなの意見を尊重することになった。


 そんなにヤベェのがいるのかよ……。

 と、その時は思ったが、すでにヤバそうなのが目の前に2人いる。


 俺は面接と様子見を兼ねて、外で軽く自己紹介してもらうことにした。

 ソフィーが最初に声を掛ける。


「では順番に名前、年齢、意気込みをお願いします。外ですので、簡潔にどうぞ」


 ソフィーの言葉が終わると同時に、まずは細目オレンジ色のくせっ毛ロングヘアーな細目のお姉さんが前に出る。


「美味い酒が飲めると聞きました! ベルティーナ・ヴァーゲ、18歳です! ベティとお呼びください!」


 地球で言えば25歳前後か。

 カッと見開いた目はギラギラしている。

 思いの外声が低くて驚いたが、ただの酒好きなら問題あるまい。

 アル中じゃないかどうかだけは要確認だな。


 次に、深いブルーの髪色をポニーテールでキュッとしていて、非常に清楚感のある女性が前に出る。


「エマ・ワッサーマン、16になりましてございます。呼び名はお任せ致します。美味しいお酒? いいえ、お酒は水でございます。どうぞ、よしなに」


 ベティのせいで意気込みが酒に関する話になってるぞ……。しかし酒は水だと? アメリアたん以上の酒豪か? 特濃スピリッツを口にして同じセリフを吐けるか見ものだな。


 次はぽわわんとしたグレーのツインテール少女だ。

 アメリアやミーナよりはお姉さんに見えるが、大人の女性と言うよりは少女っぽさの抜けていないくらいに見える。


「フレデリカ・シュタインボックと、申しますぅ。歳は16でぇす。フレディとお呼びくださいませぇ。私はぁ、お酒よりもぉ、動物がぁ、大好きですぅ」


 おっとり系だ。動きはゆっくりではないが、フレディの言葉が始まるとスロゥの魔法を掛けられたかのように世界の速度が落ちる。

 まぁ日常生活や仕事に差し支える程ではないだろう。

 ただ、みんなそろそろ酒から話題を変えないか?

 聞きたいのは好みではなく意気込みなんだぞ。


 次は緑と茶色を真っ二つに割ったマッシュショートの女の子。


「私、ルーリー・ツヴィリンゲ。15歳。ルーで良い……です。お酒は……飲ませない方が身のため……です」


 酒から話題を変えて欲しかったが、逆に気になるなぁおい。下戸か? それとも酒乱か? 無口無表情系が感情を露わにして暴れ出すのか?

 ちょっと怖いもの見たさで気にな――じゃくて酒から話題を……。

 いや、もうダメだ。ここまで来といていきなり酒の話題がダメって言うのは不公平だな。


 次は俺を睨んできた問題人その1、クリーム色のふくらはぎまである長い髪の女性だ。

 睨む目はちょっと怖いが、綺麗系の人なので、人によってはご褒美かもしれない。

 俺? 何とも感じぬよ。

 ナディとクララで間に合ってるからな。


「なぜ名乗るのか意味不明でしたが、私の知らない勇者でしたか。リーゼロッテ・ヴィッダー。歳を言う意味が分かりません。それにこんなに少女や美女を集めて……その上私まで……。くっ、辱めには、決して屈しません。例え私の力が失われたとしても!」


 指まで指されて宣戦布告とも言える発言。


 何言ってんだコイツ、とさすがの俺もカチンと来たので前に一歩踏み出すのだが、その瞬間最後の1人が動いた。


 赤髪を後ろで一本縛っているだけだが、アホ毛の主張が激しい少女。チビと言っても良い。130cm無いと言われても納得してしまう。


「【不斬無ボータルメッサー】」


 こう言った赤髪女の手には身の丈を遥かに超える長剣が現れており、それを以て俺を斬――死――。


 ミーナが赤髪女の懐に入り、顎をつま先で真上に蹴り上げる。

 赤髪女は左手の平を顎に当てて直撃は免れたが、空高く浮かされたままだ。

 ミーナは追うように跳び上がり、赤髪女の背の服を掴んだ。

 そこから目にも止まらぬ速さでクルクル回転し、落ちる頃には赤髪女を地面に叩き付けて抑え込むのに成功していた。


 ナディとクララはリーゼロッテに剣を向けている。


 どうやら事前にヤベェ奴の対応は話し合われていたらしい。


 なるほど、こうなる可能性があったから工房内には入れなかったのか。


 驚いているのが俺とソフィーの横に並ぶ4人だけなのだから、つまりそういうことなのだろう。


 ミーナが赤髪女に、冷たく言い放つ。


「早く名前を言え。我が主、ソーヤ様がお求めなんだから」


 凄まじい殺気だ。こんなの直接向けられたらチビるぞ。

 と言うか、ミーナ強くない?


 俺の疑問を余所に、赤髪女は藻掻く。そしてどうにもならないと理解させられてから、悔しそうに名乗った。


「リコ・スコルピオーン……。名乗るまでも無いだろう……それを……くそっ……」


 赤髪女は泣きそうな声で、地面に顔を力無く落とした。


 これで全員の名前を聞くことができた訳なのだが、どう収集を付けるのかマジで分かりませんよ。


 頼みますよ、ソフィーさん!

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