第21話 救えぬ者を救う者
赤髪チビ女ことリコの暴挙により、新入り達にとっての波乱の幕開けになるのだが、俺だって一緒だ。
「ここから先をどうするかはソウヤ様次第です」
ニコッと微笑まれるが、全部をソフィーに丸投げしようと思っていたのに、ボールを場外ホームランされてしまった。
え? 無理だけど?
いきなり殺そうとしてくる奴を迎え入れるとか無理だけど!
だから俺の選択肢は1つだ。
無視する。
「ナニ言ってるんだ? ソフィー。自己紹介が終わったんだ。7人目がどうなったのか教えてくれ」
俺は実質的に拘束されている2人を無視したまま、話を進める。
ソフィーは、目を閉じて悩む素振りを見せた後、苦々しく言葉にした。
「……ソウヤ様の採用条件に、健康である者、とありましたので、不採用とさせていただきました」
「ん? つまり不健康な者がリストに入れられていたということか?」
どの貴族がそんな非道なことをしやがるのかと、俺の眉がピクッと動く。
ソフィーは慌てて否定する。
「違います。リストに名を入れた時は健康だったのです」
「じゃあ直近で体調を崩したと?」
「……症状は咳。そして大量の
「はぁ!?」
俺の驚き様に、俺以外のみんながビクッと体を反応させる。
「……言っていなかった俺が悪いが、治癒魔法もポーションも使えない今、王宮、ひいてはサージェリー王国の民の命は病を如何に抑えるかだ。正直、ハイルン工房の新規採用をやってる場合じゃない。隔離と――」
「隔離はすでに済ませてあります。抱えていた貴族や濃厚接触者も隔離済みです。あとは本人の処分をどうするか。その話し合いが行われているところです」
俺はその言葉を聞いて安堵する。
大量の喀血なんて、最悪のパターンは結核である。
鑑別手段が無い以上、結核として対処しなければならない。
「本人と周辺の隔離ができているなら良い。……よくその対処ができたな。以前からやってたのか?」
ソフィーは悩ましい顔で首を横に振る。
そしてミーナに拘束されているリコに目をやる。
「……我が指示を出した。元医者だからな。地球の、日本で」
「え? マジで? あ、先生でしたか。あれ? リコ先生も転移されたので? それとも転生されたんですか?」
思わず敬語になってしまうが、ミーナの拘束は解かせない。いきなり襲い掛かってくるような輩は元医者だと言っても信用ならん。
「感染率は大した事ないと言え、それでも蔓延すると手が付けられん。抗生物質が無い以上、肺炎球菌性肺炎でも隔離し、出来うる限り処分すべき。そう進言したのだがな」
この達観したロリ娘は何を言っているんだ?
「大量の喀血があったのに肺炎球菌性肺炎だと?」
「大量の赤褐色の痰だ。アレを喀血とは言わん。結核ではない。鑑別診断くらいできる。私ではなく、リゼがな」
リコに言われてリーゼロッテを見る。ナディとクララに剣を向けられ、顔が青いままだが頷く。
「治癒の勇者としての権能を失った今、私に残っているのは【
アドルフィーナとは7人目のことだろう。
「あんたら勇者なんだな」
俺はミーナ、ナディ、クララに目で合図し、工房の中に拘束したまま連行させる。
「……ソウヤと言いましたね。私達の事を知らないのですか? 魔王を倒した勇者2人ですよ?」
「まさか、本当に知らんのか? こう見えて私達は英雄だったのだぞ」
リーゼロッテとリコの言葉に、ピクンと耳が動く。
そういや見たことある顔だと思ったら、夢で見た奴らか。
「生憎魔王を倒した後で喚ばれたんだ。まだ日も浅いし、バッタバタなんだよコッチは。それでも少し落ち着いて、これからサージェリー王国の内情を聞こうかってところに、この事態なんだよ……」
マジでゆっくり休む暇なくない?
「どうせ【治癒魔法】が使えなくなって価値無し扱いされた挙げ句、魔王のみならず女神様まで一緒に封印されて王宮どころか街中で、でっっっかい顔ができなくなったとか、そんなパターンだろ?」
俺の言葉に、耳まで真っ赤にして恥ずかしさを耐えている。
おいおい、真実かよ。有りそうで無さそうなこと言ったのに。
俺は培養済みの陶器をドンッと作業台に置く。
「【癒しの勇者】に【元医者】。だったらやるぞ」
俺の言葉に、リーゼロッテとリコの目に殺気が宿る。
殺気を向ける相手が違うっての。
「相手が肺炎球菌なら希望はある。救えぬ者を救う者。それが勇者なんだろ? だったら創るぞ、抗生物質。そしてアドルフィーナを助けてみせる。薬剤師を舐めんなよ」
俺の言葉に、リーゼロッテやリコだけでなく、ソフィーやミーナ、アメリア、ナディとクララ、そして他の新入り達がみんな揃って目を丸くするのだった。
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