第19.5話 第2回シュテルンビルト乙女会議
アメリアが先に下り、ソウヤも下りた後、残った私達は互いに目を合わせたわ。
アメリア抜きの、裏シュテルンビルト乙女会議、と言うべきかしら。
「ねぇ、ソーヤってアメリアにすぅ〜っごく甘くない?」
ミーナの苛立ちを含んだ言葉に、私だけじゃなくナディとクララも頷く。
ただ、ミーナと違って私もナディもクララも要因は分かっているわ。
「アメリアは、言葉が上手く出てこないだけで、それ以外は超の付く有能なのよ。あの魔力で下級側仕えなんて本来有り得ないわ。王族側仕えの筆頭を狙える程よ」
「しかも掃除や料理は完璧だろ? 向上心の塊だぜ? それにオレ達と違って、毎日役に立ってる。オレ達は何かあった時だけだからな」
「そうですわね。あの喋り方のせいで不遇の扱いを受けてきたのでしょうが、それを全く意に介さないソウヤ様です。ソウヤ様から見れば、
私達がそれはしょうがないと言う感じで言うと、ミーナがぷんぷんし始める。
「じゃあなんで3人ともここに残ったのよ! アメリアを何とかするためじゃないの!?」
私達は、もちろん、と頷く。
ナディもクララも青筋を浮かべつつ笑顔で口を開く。
「別にそれだけなら問題ねぇんだよ。ただな、アメリアのソウヤ様スキスキオーラが溢れ出てんのは……ちょっとばかし行き過ぎてっと思うぜぇ」
「その通りですわ。公私混同は避けていただかなければなりませんもの。少しでも暇があれば即座に熱い視線をソウヤ様に……くっ……うらやま――けしからんですわ!」
プンスカしているのはナディもクララも一緒ね。
こうなった以上、もう誰がソウヤの寵愛を受けるかは競争でしか無い。
私も未来のために参戦する。
ちょっと前までは女コマシ野郎と陰口を叩いてきたし、出会って間もないのに……とか中級文官の同僚達に言われそうだけど、ソウヤは王族に対して直に結果を出した。
そこは評価するし見直した。
それに仕事を正しく評価してくれる。
上司として、それだけで仕えたくなる。
しかも私の笑顔も不気味だけど良いって言ってくれる……。
そんな人物、この先きっと出てこない。
だったら、全力で獲りに行くわ。
私はアメリアの行為が目に余ると提案し、牽制するつもりだったけれど、ミーナが率先してやってくれそうだからヨシ。
目下のライバルはアメリアだけだもの。
みんなでアメリアの足を引っ張るわ。
ミーナとナディとクララ?
この3人には爆弾を持たせているから大丈夫。
そのために私が手紙を代筆したんだから。
私が全部の文言を考えて書いたと知ったら、3人は多少なりともソウヤに不誠実さを抱く。
それまでに……最悪……既成事実を作る。
そのための工房設計図面よ。
私とソウヤの部屋は繋がっている。
私の部屋の西側と、ソウヤのシャワー室を隠し通路で繋げてもらったわ。
ソウヤの緊急避難通路として、設計にはオッケー出してもらったもの。
私はミーナより発育は良い。
ナディとクララには負ける……。だけど、2人は騎士団の仕事もある。
私も王宮とのやり取りがあるけれど、ソウヤとの繋ぎ役だから縁が切れることは無い。
ナディとクララには悪いけど、2人に力尽くでソウヤを奪われる前に、ヤラせてもらうわ。
「じゃ、早速アメリアのところへ行くわよ!」
鼻を鳴らすミーナは、私達を引き連れて早速二階のアメリアの部屋へと向かった。
そしてやんわりと事情を話すと、アメリアの顔がボッと赤くなり、ぶんぶんと顔を横に振る。
「ぉあ……の! たひか、に! わだ……じ、ソーヤ様、だいひゅき……ででふか! むすば……烏滸がまちっ……です! ソフィー、さ、ん。ナディア……さ……ん。クラーラ、さ……ん、…………、がっ! ソーヤ様、ふふさわしきか、とーもぃ……まふっ!」
アメリアは、ゆっくり、確実に伝わるように教えてくれたわ……。
ソウヤ争奪戦から降りる?
私かナディ、もしくはクララの方がお似合い?
想定外過ぎるアメリアの返答に、ミーナ以外唸ってしまう。
「だからなんで私の数は入れられてないのよっ!」
ダンダンと地団駄を踏むミーナは無視ね。
「いやでもよぉ、そうは言ってもアメリアだってソウヤ様と結ばれたいだろ? 好きなのは好きなんだよな?」
ナディの直球に、アメリアはまたボンと顔を爆発させる。
「ゆ夢、は、寝て、み……、まふっ! ソーヤ、様は、あこ、がれ! おおお、推し……でふしゅ!」
その言葉を聞いた私達は「あ〜なるほど〜」とミーナも含めて納得する。
「それは分かるなぁ。ある意味でオレらも似たようなもんだし」
「憧れ、とは違うかもしれませんが、理想の殿方がポッと現れたら……。推し……ですのね。確かにしっくり来ますわ。この気持ちに」
「私は憧れの方が分かるわぁ。まさに理想の勇者よね。見た目はパッとしないけど、これだけの実力があるなら見た目なんて気にしてる場合じゃないわ。むしろダメなの見た目だけじゃない?」
「そ、んな……ことあ、あらま、せん! ソーヤ様、かっかこ良い……てです!」
いつの間にかアメリアも一緒になって会議してるわね。
もうこれ第2回ってことで良いわね。
「むしろ、夢で終わらせるのもったいねぇだろ。アメリアも参戦しろよ。ソウヤ様争奪戦」
ナディの言葉に、アメリアだけじゃなく、言った本人以外が全員吹き出した。もちろん私もよ。
「だってこれでアメリア参戦させねぇの騎士道精神に反するだろ。なぁクララ」
「た、確かにそうですが、最強のライバルですわよ?」
「そこはほら、オレ達はオコボレを……なっ? アメリアにはしっかりソウヤ様の胃袋を掴んでもらってよ」
「……確かに。私達は最悪、子さえ孕めばどうとでもなりますものね。実家も勇者の子を宿したとなれば邪険になど絶対しませんわ」
ダメに決まって……あぁもうエルフとヒトとの文化の違いがぁあああ!
「ナディア、クラーラ! ダァメに決まってるでしょーが! 結ばれるのは男一人と女一人! ハーレムなんて……ソーヤが死ぬわよ?」
「そこはほら、アレだよ、アレ」
「そうですわ。専用のおクスリを創っていただいて死なないようにしてもらうしか……、ふふふ」
「あ、そっか。ソーヤは【治癒の勇者】だったわね。ちゃんと私にも出番が回ってくるなら良いのよ」
ヨシイケと思った私が馬鹿だったわ……。
そして私以外のみんなが私を見る。
私主導のはずが、いつの間にか私が孤立しているのよ? 頭を抱えたいけれど、ソレは後。
こうなった以上、私が取るべき手段は1つしかないのだから。
「分かったわ。完全に納得、とは言えないけれど、この5人でちゃんと同盟を結びましょう。『独り占め禁止。この5人で平等に』と言う同盟よ」
なんで同盟を組むの? とは誰も聞いてこない。
すでに理由は話したし、答えは出ているからだと思うわ。
「ソウヤが雇うって言った7人も手強い女達になる、と思う。欠陥品の厄介者と言われた私達の力を遺憾なく発揮させてくれるソウヤだもの。その7人の秘めた力を全解放させかねないわ。でも、そんな彼女達の排除はできない。この国の、私達の命が懸かっているから。だから、私達が優位性を失わないための同盟よ」
私の言葉に、みんなが頷き、出した手を乗せ合う。
ここに、ソウヤ同盟は結成された。
ともかく、ソウヤを振り向かせる。そのためなら、何だってやってやるんだから。
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