第18話 設立、ハイルン工房(前)

 四階建ての白い建物は、要望通り石造りだ。


 火を扱うことが多いので火事対策のためにお願いした。

 それに、今後は重たい機材も入れる予定だから、木よりも耐えてもらわねばならない。

 鉄筋コンクリートなんて無いだろうからな、多分。


「ふふーん、ソーヤ、どう? これがサージェリー王国の建築技術よ」


 ミーナが無い胸を張ってなぜか威張る。

 そしてミーナに張り合うように胸を張るソフィー。もうちょっと手心というものをだな……。


「各所で一階、二階、三階、四階の部屋を造り、それをここに運んで組み上げることで大きく工期を短縮しました。王宮近くのハウプトシュタット中心部では道の関係で行えなかったので、こうして郊外で実証実験が行われたこと、そしてここを拠点にできることは誉れ高いことなんです、ふふん」


 ほら〜、ぽよよんさせるからミーナが睨んでる……え? なんで俺を睨むの?


「すぅ……ごぁいです。厨房、だのしむみですっ」


 大天使アメリアたんを盾に逃げる。

 唸るミーナだが、噛み付いてこない。さすがアメリアたん。


「なぁ旦那、オレ達の扱いってどうなるんだ? オレ達は旦那の護衛騎士だけど、騎士団所属のままらしいんだよ」


 俺は知らないのでソフィーを見る。


「ナディとクララは出向扱いよ。2人は上級騎士だもの。戦力的にも抜けると騎士団が痛いわ。とは言え、優先は護衛よ。護衛しなくても大丈夫そうな日は定例訓練や王宮騎士業務に出て良いそうよ。日給も出るし、部屋もそのまま使って良いって確認したわ」


「そりゃありがてぇな。だったら荷物をある程度置いてて良かったのか……」


「いえ、ナディ……悩ましいところですわ。アメリアの食事を取るか給金を取るか……。わたくしとしてはソウヤ様とずぅっと御一緒したいのですが、それだと体が鈍ってしまいます。やはり定期的に訓練には参加すべきでしょうね。魔獣狩りの実戦から遠ざかるのも不安ですわ」


「それは各々の裁量に任せる。俺も外に出る予定は出来る限り早めに伝えるつもりだ。そこはその時々で相談して決めよう。では……」


 俺は真っ直ぐ前を見る。

 目線の先は入口の扉だ。

 日がしっかりと差していて明るい。南側玄関ということだろう。


 俺が一歩前に出ると、みんなが後ろを付いてくる。


 扉だけはミーナが開けてくれた。


 エントランスに入ったら、左右に広い長方形の空間がある。正面には5歩程度の位置にカウンター。

 日本の薬局みたいな間取りだな。このカウンターから薬のやり取りができそうだ。

 左右の端には商品が置けそうな戸棚がある。

 戸棚から近いカウンターは扉になっており、左右のどちらからも奥に行けるようだ。


 カウンターの奥は戸棚と大きな台がある工房スペースになっており、学校の教室くらいの広さがある。

 左に水回りで、左の奥がトイレっぽいな。階段下のスペースを上手く利用してある。


 さらに奥に階段と裏口があった。右手には物置がある。部屋にもなりそうな広さだ。裏口の扉も大きいな。家具や機材搬入の際は裏口を利用することになる。


 二階に上がる。階段も広い。一度曲がる階段を上がったら、その先は通路があってベランダだ。南の正面の通りが見え、付近には二階以上の建物が無いのでかなり遠くまで見渡せる。

 ここで食べる昼飯は美味いことだろう。

 ベランダの広さは、小さなテーブル席を3つ置ける程度だ。南側全てがベランダでは無い。半分から先は通路だ。階段より狭い通路だが十分に広い。

 東側には三階に上がる階段がある。上ってきた階段は西側だ。

 二階中央やや東には広々とした食堂。中央西は給湯設備、シャワー室とトイレ。

 食堂の北側は立派な厨房である。


 アメリアがザッと飛び出した。

 石床を靴でキュキュッと鳴らしながら華麗にターンし、階段下の陰に消える……。

 何という俊敏な動き。俺じゃなかったらその星みたいな目の輝きを見逃してたね。


 バン、バンと扉の開け閉めの音がしたと思ったら、アメリアがスンッとした顔で戻ってくる。

 まるで何事も無かったかのように戻って来たけれど、何が言いたくてウズウズしているように見えなくもない。


「アメリア、厨房は満足の出来か?」

「……か、ん、ぺ、き、でーーーすっ!」


 アメリアはゆっくり、そして誰にでも理解できる声で大満足そうに叫んだ。


「がんぃがづがいてぉんおあよんるちざいぉいろびろしくりょーこのぃぉさんもつごぃんぇずがぁにぉいれいぞーちうこれいこーしつっばであぅんでふもぉくぁあんねぁえずつごぃでつソーヤ様がいふゅしです! ぁ……ぁの……そ……の……」


 くっ、アメリアたんの興奮度合いからして凄いたくさん良いことを言ってくれていると思うのに解読できん。

 愛が足らんのか……。『ソーヤ様がいふゅしです』がめっちゃ気になる。ソーヤ様が、いふゅしって何だってばよ?


 暴走し、てれてれしているアメリアたんと、アメリア語の解読に唸る俺に、ソフィーは大きな溜め息だ。他のみんなは、うふふとかあははとか、微笑ましく見てくるクララと、ミーナとナディは苦笑いである。


「ソウヤ、アメリアにも説明するわ。階段下が食糧庫、厨房の北東部に冷蔵室と冷凍室を用意させたわ。ただ、魔力がとんでもなく必要なんだけど、アメリア大丈夫なのよね? 一応あなたの希望なんだけど」


 ソフィーに説明され、アメリアたんは冷蔵室と冷凍室の扉に手を触れる。


 蒼い光が手に灯ったと思ったら、その光は扉に吸収されて扉が蒼く光った。


「うそ……どっちの魔力も満たした……」


 アメリアたんはコッチを向いて、腰に手を当て、えっへんのポーズ。

 俺は讃えるために拍手した。


「……問題無いようで良かったわ……。ちなみに、中央通路の奥、北の部屋はアメリアの部屋よ。食糧倉庫番も兼ねてるから、しっかり食材の管理をしてください」


 ソフィーの言葉に、ビシッと姿勢を正して礼をするアメリアたん。

 ここはアメリアの城だな。あんまりお邪魔はしないようにしよう。


「トイレやシャワー部屋も共同だから、掃除の仕事もお願いね」


 アメリアだけでなく、ミーナも任せてと胸を張るのだった。

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