第16話 王族からの謝罪と報酬
集団食中毒の危機から脱した俺は、貴族や大臣が勢揃いの謁見の間に呼ばれ、王族全員から頭を下げられていた。
「すみません、王族方に頭を下げられると、どうしたら良いのか……。大臣や他の貴族方も困っていらっしゃいますよ?」
俺は慌てて頭を上げてくれと頼む。
そりゃそうだろう。
いきなり総理大臣や閣僚達に呼び出されて頭を下げられてみろ。
一般良識のある日本人なら恐縮する以外ないわ。
若作りしたおっさん王様は顔を上げる。
「今までの非礼、許してもらえるのか? ソウヤ殿」
「勝手に呼び出されたことはまだ怒っていますし、それに関してはきちんと戻れると分かった後に許します。しかし、こうして衣食住を保証され、優秀な側仕え、護衛騎士、文官まで付けていただいているのです。非礼とは感じておりませんでした」
俺はニコリと王様に微笑む。
王様の顔がひくついている。
直球過ぎたな。だが、おかげで俺のペースに持ち込める。
「ただ、今回の件で理解されたと思います。治癒魔法やポーションが使えない以上、薬を頼るしかないと。
俺がこう言うことで、ようやく王族全員の顔が上がる。
そして改めて、俺は王に跪く。
「相分かった。聖の女神アルハイルミッテルの神託通り、【治癒の勇者】ソウヤ・シラキはクランケンハオス・オーネアルツトの希望である。そのことはサージェリー王国のこの王宮内で証明された。異議のある者は今すぐに前に出よ!」
王の言葉が謁見の間に響く。
不満そうな声でザワザワと騒ぐ大臣や貴族達。
やっぱり治癒魔法を使えない勇者をあんまりよく思ってなかったようだな。
それが今回、王族を薬で治すことで俺の実用性が証明された。
文句を言いたくても言えない。
そんな顔をしている奴らがいっぱいいる。
貴族社会って怖いわぁ。
「異議ある者は居ないと、ここに出席した者全てが証人である! ソウヤ殿、褒美は何とする? 今ならそなたの望むモノを与えよう」
マジで? 富と名声と女が欲しい!
と、声を大にして欲望塗れの発言をしたい気持ちを堪える。
落ち着け。ここで選択肢を間違えたらゲームオーバーならぬ死が待っている。
「薬を創るには、何もかもが足りません。広い工房と人手と金、この3点を早期に要望致します」
「まさに【癒しの勇者】に相応しき言葉である。分かった。最優先で用意しよう。金はもちろん、人材も出来る限り回そう。ソウヤ殿が良いと思う者を引き抜くことも許可する。これは王命である。頼むぞ、ソウヤ殿」
「ハッ、身命を賭して創薬に取り掛かりましょう」
そうして、胃がキリキリしまくった謁見タイムは終了となった。
自室に戻って、ミーナの茶を飲む。
「ぷへぇ〜」
大仕事の後の1杯は格別……。
体の中の空気が抜けそうなくらい気が抜ける。
「ふふ、ソーヤ。なかなかにカッコ良かったって、ソフィーが言ってたわ」
ミーナが優しく労ってくれる。
なんだか笑顔も優しいな。疲れたか? まぁ疲れるわな。3日間ずっと走り回ってたし。俺もミーナも。
「そのソフィーがいないけど……」
周囲を見ても、いつもいるソフィーはいない。
「大臣や貴族達と話してくるって。最優先で工房が作られるんでしょ? 忙しくなるって、息巻いてたわ」
そうか。ソフィーもあんまり休んでないだろうに。
「ナディとクララ、それにアメリアもナニやってんの?」
遠くで3人は片付けをしているように見える。
大きな箱に、色んな物を詰めているようだ。
衣類に食器、雑貨……まるで引っ越しだな。
「すでに工房の建築は進んでいたみたいよ。だからあと2日もあればできるんだって。問題は人材ってソフィーが言ってたわ。どこからも優秀な人を引き抜くのは大変そうだって」
「まぁ人手が足らんのはどの世も一緒だよな。それにしても明後日には引っ越しか」
「ナニ言ってんのよ。今から荷物を運ぶわ。そのためにナディとクララが動いてくれてるんだから」
おーぅ……いつにも増して行動が早いな。
休む間も無い。だが、しょうがない。俺が言い出したことなのだから。
俺はおかわりで淹れてもらった茶をグビッと飲み干し、早速荷造りのために席を立つ。
その時、ミーナに言われたんだ。
「ねぇ、ソーヤ。改めて聞くんだけど、私、クビにならないわよね? だって雇い直してくれるって――」
「ナニ言ってんだ? ミーナ、冗談キツイって、そんなの――」
ミーナは驚いた顔をして、目に涙を浮かべ、脱兎の如く部屋を出て行ってしまった……。
なんでや……。
今の言葉が聞こえていたらしいナディとクララが、俺の下へと歩いてくる。
そしてヘルムを被って言うのだ。
「やっぱな、んなことだろうと思ったぜ。……良い夢だけは見れたよ。ありがとな、ソウヤ様」
「それでも、今の言葉はあんまりだと思いますわ。信じて……おりましたの。残念です」
そして、ミーナを追うように、2人は去って行った。
どうして……。
そしてアメリアたんも近寄ってくる。
その目には、涙が今にも溢れそうに……あ、溢れた。
「っひー、どい……でつ。ソウヤざま……わた、ひ達は、ともがく……ミー、ナとは、約束……ばもって……あげて……」
なぜアメリアたんが泣いてるのか訳が分からなかったが、何となく分かった。
「違う、アメリアたん! それは違うぞ! 俺が冗談キツイって言ったのは、まるで俺の側仕えを辞めるみたいに言うから、そんな冗談キツイって言ったの! そもそもここにいる全員は一緒に行かないのか!? 俺としてはソフィーも、ナディも、クララも、ミーナも、アメリアたんも一緒に来てくれないと困るんだけど!?」
俺はアメリアたんの肩を持って強く訴える。
「それ、じや、みみんな……また、いっしょ、でさずが?」
「みんなが嫌と言わなければだ。強制はしない。アメリアた……ん゛っ! アメリアは、俺と来てくれないのか?」
やっべ。めっちゃアメリアたん連呼してた……。
そのアメリアたんは……雨空から日が差し始めた向日葵のような笑顔で言ってくれた。
「はい、喜んで」
後光と言うか天使の輪っかが見えたぜ。マジでマイエンジェルアメリアたん。
「ででふが、ソウヤ、さまも、わる……いどおぼいます……。わだじ……、たち、王宮ででしか、働げま……せん。工房……にでーるー……いあこと、わわたしだち、クビっで……す」
マジかー。そんなん知らんかったもんな。
でも頬を膨らませるアメリアたんもマジでカワイイぞ。
「認識の違いだな。薬のことだけに集中した結果がこうだ。工房にも入り浸りになってはならない。時々外を散歩したり買い物したりしなくちゃならん。アメリア、案内を頼むぞ?」
膨らませた頬を戻して、笑顔になるアメリア。
俺も思わずニッと笑い、アメリアの頭を撫でてしまった。
「ふにゅ〜」
ぶはっ……死ぬ。アメリアたんがプリチー過ぎて死ぬ。
俺が口元を押さえたのが、変な声を出して笑ったと捉えたらしいアメリアに、ポコポコと腕を叩かれてしまうがダメージはマイナスだ。むしろ回復している気さえする。
ただ、平和の時間もソレまで。
アメリアたんと対照的な暗黒オーラを放つソフィーが手をバキバキに鳴らしながらやってきたからだ。
どうしよう、ミーナより怖い。
俺はひたすら内庭を逃げ回りながら説明するのだった。
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