第13.2話 大天使アメリア・フィッシェ

 私はアメリア・フィッシェ。


 幼く見られますが、15歳にはなっています。

 ミーナと一緒です。お酒、ちゃんと飲める年齢です。


 お仕事は1人でなら問題無くできるのですが、私は吃音症という病気らしく、他の方とお話しても私の言葉を理解してもらえないので、厄介者扱いされていました。


 ずっとそんな生活が続くのだと思っていました。


 ソウヤ様に付けと言われた時も、得体の知れない男の癒しの勇者に誰が?

 となって、1番に押し出されました。

 ミーナも、厄介払いのついでと言わんばかりに命令されていました。


 これからどうなるのだろう、と不安いっぱいでしたが、ソウヤ様に仕えることができ、私は幸せいっぱいです。


 私の言葉が病気であることを教えてくれて、私の仕事を正しく評価してくださる。

 料理も美味しいとお褒めいただき、掃除も同様。

 私は料理が好きなので、褒めていただけるならもっと頑張ります。

 ご予算もそれなりについているので作り放題です、えへへ。


 お酒を飲んで失敗してしまいましたが、そんな私を解雇通報や性奴隷にすることもなく、こうして続けて使ってくださるなんて、ソウヤ様は神様か何かなのでしょうか?


 あ、勇者様でしたね。


 まさに理想の勇者様です。

 一緒のお布団で寝てしまい、手を付けられていないことは残念でしたが、当然です。勇者様と一夜でも結ばれるなど、下級の側仕えには身に余ります。

 ですが、抱き着いてしまう夢を見るくらいは……でへへ、また見たいな〜。


 魔力は他人よりあるという自覚はありますが、体力は人並み以下です。


 そんな私を気遣ってくださるソウヤ様は、やっぱり勇者様です。


 ただ、私が買った荷物を持っていただくのは止めてほしいです。嬉しいのですが、周囲の視線が痛いです。それに勘違いしてしまいます。

 ソウヤ様は勇者様で、私は下級側仕えです。

 それ以上でもそれ以下でもありません。

 夢は夢だからこそ良いのです。


 だからミーナはちょっぴりソウヤ様との仲が良過ぎると思います。


 嫉妬ではありません。


 節度を保てと言いたいのです。


 そんなミーナがソウヤ様に呼ばれました。


 いいなぁ〜。


 私もソウヤ様の役に立って撫でてもら――。


 ダメです。

 妄想は夜、お布団の中で、です。


「アメリア、ソウヤ様から、このクリーム何かに使えないかってー。使えないなら捨てて良いって」


 ミーナが小皿を持ってきます。その上にはクリーム。匙で少し取って口にします。

 まろやかな油です。

 味はクーミーシュですね。

 ゾーカーと混ぜてファンクーフェンに盛ると美味しそうですね。ソウヤ様の言葉ではシュガーとパンケーキということらしいですが。

 今日はこの甘味を追加です。

 急遽ソフィーさんも夕食を御一緒することになりましたから、これで嵩増しです。


 ファンクーフェンを作り終えたところで、血相を変えたソフィーさんが厨房にやってきます。


「ソウヤ様は風呂に入ったわ……」


 お風呂の準備はすでにやってありましたから。ですが一体ナニが――。


「ミーナ、あんた、ソウヤ様の風呂を覗いたようね?」

「んげっ! なんでソレを!?」

「あぁんだ……ってぇえ?」


 私のどこから出たのか分からないくらい低い声に、ミーナだけでなく、ソフィーさんまでもがギョッとした顔になります。


 私は微笑みました。


「んみー……な、どーーーいーーうーーことっ?」


 ちゃんと伝わるように、ゆーっくりお話します。


 なぜかミーナは尻餅を付き、ガタガタと震えながら後退あとずさります。


「アメリア、抑えて。そして後ろを見て。大神である光神モルゲンロートが眷属神、アーツェンゲルが見えてるわ……。大天使を王宮に降ろすのは、さすがにマズイわよ。ソウヤ様に迷惑、かけたくないでしょ?」


 ソフィーさんに言われてハッとします。

 ソウヤ様に迷惑なんてかけたくありません。


 血の気が引いた私は溢れ出ていた魔力を慌てて抑え込みます。


「昨日タオルと着替えを持って行ったらソーヤがちょうど出るタイミングだったの! 事故よ事故!」


 昨日顔が赤かったのはそーゆーことだったのですね?

 てっきりお酒を摘んだのだとばかり思っていました。


 ミーナに肩を掴まれて言われます。


「アメリア、ソーヤは下級側仕えが体を拭いたり着替えをしたりすることをしない、ということを知らないわ」


 それは当たり前のことですが、なぜソウヤ様が知らない、と言うことを知っているんでしょう?


 …………。

 まぁ、そういうことですよね。

 ヤッちまったんですね。


「アメリア!? だからアーツェンゲルが出てる! ミーナもなんで火に油を注ぐのよ!?」


「アメリア、昨日の事を不問にしてくれるなら、この役目を譲ってあげる。昨日の今日だから、ソーヤも疑問に思わない。絶対に」


「そ、……れは……、ど――」

「不問にしてくれるなら、譲るわ!」


 ミーナはもう何も聞いてほしくないようです。


 私の返事は、私の人生で一番の笑顔を見れば分かっちゃうと思います。


 手早く食事の支度を終え、タオルと着替えを持ってお風呂場へ。


「……あぁ、今日はアメリアか……。じゃあ、慣れないけど、お願いしまーす」


 背を向けたソウヤ様……の……はだ……ぶふっ……考え無しに行動し過ぎました。

 細めるフリをした目を閉じ、ニッコリな笑顔を固めてソウヤ様に近付きます。


 拭きます。

 これが男の人の、勇者様のソウヤ様の背中……。


「あとは拭くから、タオルを」


 さすがにこれ以上は私の心臓と精神が耐えられません。


 これがこれから毎日なんて……。ミーナには料理用の蒸留酒を少し回してあげましょう。


「食事……の……しだぐ……、でできました。こごごゆっ……くくり……どーぞー」

「あぁ、いつも美味い飯をありがとうなアメリア」


 私、明日死んじゃうんじゃないですか?

 神様、私、大丈夫ですか?


 夕食は、ソウヤ様が美味しそうにパクパク食べてくれるので、私も嬉しくなってたくさん食べました。

 ソフィーさんもお腹ペコペコだったのか、そこそこ食べましたね。

 ミーナは……いつもの半分です。何かあったのでしょうか?


 ですが、こんなに肉や魚の豪勢な食事は今日までです。

 無事に配給された食材を使い切れて良かったです。

 明日からは、しっかり下味を仕込んでから料理していきますね。

 素材の質が落ちても、手間暇で補って頑張ります!

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