第11話 整腸剤を作ろう〜資本金
特製煎茶を飲み干したアメリアとクララは、「ウッ……」「ごふっ……」と咽る。しかし吐き出さない。
なんだかイケナイことをしている気分になってくる。
俺の心は汚れ過ぎているようだ。
「ふふん、マズイでしょう?」
ミーナがなぜか威張る。
まさかとは思うが、道連れにしたかっただけなのではあるまいな?
「でも、魔力を巡らせてみなさい。癒しの力を感じない?」
ミーナの言葉にハッとしたように、目を閉じで集中するアメリアとクララ。
そんな2人のコップにもう1杯ずつ特選煎茶を注ぐミーナ。
煎茶が淹れられるなり、今度は黙って飲む2人。
苦みで顔を顰めるが、すぐにパァっと笑顔になった。
「あああたま、い痛くな、くらりまし、た」
「胸のもたれた感じが無くなりましてよ。これがクスリ……確かにポーション程の効き目はありませんが、無いと有るでは全く違いますわね」
アメリアとクララのキラキラな視線が俺に注がれる。
外道に落ちなかった代わりに、癒しの勇者としての好評価ポイントが上乗せされた。
結果オーライだからヨシとするか。ミーナには2番の蒸留酒を精製してやることを褒美としよう。
「にしても、そんなにハッキリ効果が出るのか。なんだかんだ地球の生薬とは違うな。ともあれ、まずは朝食だ」
そうして復活したアメリアたんの指示の下、足りない準備を整え、4人で朝食を済ませる。
少し傷みかけているが、今日くらいは問題無いだろう。
片付け終わったところで、働鐘が鳴り、ナディとソフィーがやって来た。
ヘルムを被ってやってきたナディだが、ヘルムを取っているクララを見て、何か言いたそうにしている。
その前に、クララがナディに笑顔で噛みついた。
「ナディ、貴女のおかげで、ソウヤ様と同衾することができましたわ」
「ふぁ!? どどどど同衾!?」
「は? ソウヤ様?」
ナディだけでなく、ソフィーにも飛び火しちゃったんだけど。
「ソフィーやミーナのおかげで、アメリアも一緒に同衾することになりましてよ」
「アメ……リア……も?」
「え? さすがに冗談よね? ミーナ、貴女は知っているんでしょ?」
ガシャンと膝を折るナディに、ミーナに詰め寄るソフィー。
飛び火どころじゃなくなってきましたけれども。
「私が見たのは、ソーヤ様のベッドで気持ち良さそうに寝ていたアメリアとクラーラですわ」
クララの口調を真似するミーナの言葉に、ソフィーの膝も折れかかる。しかし、ソフィーはアメリアを見た。
ソフィーに見られたアメリアは、頬をポッさせながら微笑んだ。
それを見たソフィーの膝は完全に折れた。
もうダメだろ。これ以上放っておいたら延焼が止められなくなる。
「俺が気付いた時には朝だったからな? 何事も無いことはミーナも確認済みだし、クララとアメリアも何もされてないって確認済みだからな?」
俺の言葉に、ハッと顔を上げるナディとソフィー。
2人はクララの顔を見る。
「もう罰は受けましたわ。ですが、放置した2人に何も無いのは……不公平ではありませんこと?」
ニィッと悪戯に微笑むクララも可愛いな……じゃなくて、遊ばれただけと気付いたナディとソフィーの頬が膨れたように感じた。
「ふふふっ。それに、わたくしは事実しか述べておりませんわ。まさかナディに置いて行かれるとは思いも寄りませんでしたのよ? なぜ昨晩食事中に意識を失ったのか、それすら覚えていないのです」
「覚えて……無いのか?」
ナディがクララだけでなく、俺も見てくる。
「俺も乾杯した記憶はあるんだよな。そこからガツガツと飲み食いして……それから先はあんまり……」
アメリアたんにぎゅーされた夢を見たとは言えない。
「すすすみま、せ、……ん。わたわたぁ私もでぃす!」
クララ、俺、アメリアの言葉に、ナディとミーナ、ソフィーは3人で集まってコソコソと話している。
何の口裏合わせだろうか。
「美味い飯に、強い酒をあんだけ飲めば……な。オレもクララに止められて無かったらヤバかったかもしんねー」
「そうね。これからは自重しましょう」
「アメリアなんて3番まるまる1本飲んだんだから」
何か誤魔化された気はするが、俺もクララもアメリアを見る。
「それは飲み過ぎですわ……」
「アメリア、いくらお酒が強いと言っても限度があるぞ……。以後気を付けるように。俺もクララも気を付ける」
「は、はぃ……ごごめ……なさぎ……」
「肝に銘じますわ……」
そうして話のケリは着いた。
ナディはクララに倣ってヘルムを外す。
とは言っても、クララは昨晩からここにいるので被るヘルムが無いだけなのだが。
昨日の懇親会の効果かな?
ナディもクララも、俺に顔を見せるのは何とも無くなったようだ。
俺も昨日の懇親会で慣れたのか、凝視しなければドキドキしない。
そして、準備ができたらしいソフィーの報告から始まる。
「それでは今朝の報告をします。朝鐘と同時に王に面会依頼を出し、朝食の準備が終わるまでということで報告を行いました。完成した『消エタ』はもちろん、蒸留酒1番2番3番も献上済です。1番と2番は王も喜んでおられました。技術献上の報酬として、とりあえず金貨10枚を。残りの報酬は上級文官と話して決めるそうです。ソウヤ様の希望はありますか?」
思った以上に好感触のようだ。
やはり美味い酒の献上は効果があるな。
「俺の希望は工房というか、研究所だな。栽培と調合ができる環境がほしい。で、金貨10枚の価値が分からん。クランケンハオスの貨幣の価値が知りたい」
ソフィーは羊皮紙に俺の希望を記載しながら教えてくれる。
「工房の希望は承りました。問題無く許可されるはずです。金貨には帝国金貨、王国金貨などがあり、金貨も小金貨、大金貨の2種類がありますが、今回の報酬は王国小金貨10枚ですね。私の月の給金が大銀貨2枚です……。大銀貨10枚で小金貨1枚です。大金貨のみ、小金貨100枚での交換になります。大商いか国と国と間でしかまず使われませんが。大銀貨以下は中銀貨、小銀貨、大銅貨、中銅貨、小銅貨となります」
ソフィーは確か中級文官だったはずだ。
単位的に、日本で言うところの20万か。
貨幣の価値はほぼ日本と同じと見た。
小金貨10枚は1000万。大金だが、薬を創るとなると全く足らんな。
まぁ元手としては十分か。これは資本金として活用しよう。
これで抗生物質……の前に、乳酸菌製剤から作ろう。
ゲンノショウコは苦味健胃薬という部類の整腸剤だが、軽い食中毒用に乳酸菌製剤が欲しい。
環境が変わるとまず腹に来るからな。
すでになんとなく調子悪いし。
手間暇かかる抗生物質も当然創るが、簡単に創れるものはどんどん創ろうと思う。
となると、今日はこれから買い出しだな。
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