第9話 消毒液を作ろう〜完成
夕鐘が鳴ったので、アメリアとミーナに耳打ちして夕飯の支度をしてもらうよう指示を出し、さっさと完成させる。
「ソフィー、もうすぐ完成するから、できれば王様への献上と報告は明日にしてもらいたい。不都合はあるか?」
「本日の進捗状況だけは説明せねばなりません。明日の朝に完成、献上予定とお伝えしてきてよろしいですか?」
「それで良いよ」
「では王付きの文官に説明して来ますので少しお待ち下さい」
ソフィーは一旦退室した。
「あとどれくらいで完成するのですか?」
ナディの問いに答える。そりゃそうだ。残業させてるもんな。
「あとは3番を薄めるだけだ。ソフィーがどれくらいで帰ってくるか分かる?」
「王付きの文官が捕まるか次第かと」
「じゃあ2人とも風呂かシャワーか湯浴みか、やってきて良いよ。但し、ご飯は抜いてくるように」
「は? 風呂だけ入ってメシは抜きだと?」
おっと、ナディがお怒りだ……。
でも、クララがナディの肩にそっと手を置く。
「ナディ、察しが悪いですわよ。アメリアだけで十分なソウヤ様の料理に、危険を伴うミーナを同行させる理由。そして極上のお酒がある。分かりませんか?」
クララの言葉を聞いて、ハッとしたように跪くナディ。
「早合点しました。ご相伴に
察しが良くて助かるぅ。
「じゃあナディの飲む酒の量はクララが決めると言うことで」
「しょんなぁぁああああ!」
まるでこの世の終わりが来たかのように泣きそうな声で縋るナディ。
やばい可愛いぞ。顔が見えないのが残念極まりないが、多分見えていたら鼻血ものだったので救われたのは多分俺だ。
「うふふ、あらあら。うふふのふ」
いや、うふふのふって何ですかね?
「1杯はあげるように」
「あらぁ、残念ですわぁ」
「ソウヤ様、最大の感謝を!」
クララに委ねるイコール酒無しと同義だったか。
それは悪いことをした。
本当に1杯しか貰えないようなら俺からお酌してあげよう。
「じゃあソフィーがいつ戻ってくるか分からないなら、早く行っといで」
「楽しみにしております! ひゃっほぅ!」
「少し厨房を覗かせていただきますわ。料理のできる頃合いを見計らって戻って参ります」
本当にお酒が大好きらしいナディとクララは、超の付く上機嫌な足取りで自室に一旦帰っていった。
その少し後にソフィーも戻って来た。
「早かったな、ソフィー」
「ソウヤ様、ルンルンで自室方面に向かうナディとクララを見ましたが、何があったのですか?」
すれ違った訳では無いようだ。遠くから見たのだろう。遠目で見ても分かる程に楽しみにしてくれているらしい。
「せっかく良い酒があるんだ。俺一人で楽しむのも悪いだろ? だから懇親会も兼ねてな。さすがに仲間や上司部下と食事する文化くらいはあるだろ?」
「それは確かにありますが……」
小声で「私は抜きですか、そうですよね」と段々泣きそうになっていくソフィー。
「ソフィーは俺の専任文官なんだろ? ちゃんと誘ってやるし、もう用意するようアメリアに頼んでるから。但し、仕事が終わってからだぞ。寝坊助さん」
俺がニィッと笑って言うと、むーっと頬を赤くして膨れてくれる。
打てば響くとはこのことだな。
からかい甲斐のある
俺は真面目な顔に切り替える。ソフィーも仕事顔になった。
「この3番の瓶が96%のアルコールだ。アルコールと言うのが消毒液の素になる。さっきも言ったが、安酒の濃度が分からないから一旦最大まで濃縮した」
「100%が最大ですよね? なぜ96%が最大濃縮なのですか?」
「気液平衡って言ってな、簡単に言うと100%にしても、空気に触れると96%に戻るんだよ。そういうもんだって考えてくれ」
「はぁ……分かりました。ともかく、これを消毒液になるまで薄めるのですね?」
俺は煮沸した鍋の水を指差す。
そして献上用とは別に用意した3番の瓶を取ってくる。
そして同じ形のコップを5つ用意する。
1つのコップにいっぱいまで水を入れ、他のコップに全部移す。それを繰り返す。
「どのコップにも同じだけの水が入ることが確認できた。計量カップが無いから、等分で調整するしかない」
だいたい70%〜80%になるように作れば良いからな。等分でも問題はあるまい。
3番の瓶の中身を4つのコップに移す。5つ目のコップに少しだけ入りそうだったが、もう入れない。
そして5つ目のコップに煮沸した水をいっぱいまで入れる。
そして5つのコップの中身を4番と書いた瓶に入れる。
軽く振って、完成だ。
もしかすると少しだけ濃いかもしれないが、放っておけば勝手に薄まっていくので、そんなに気にしなくても良いだろう。
「ほい。これが、完成品。消毒用エタノール。通称『消エタ』な」
「これが『消エタ』、消毒液なのですね」
ソフィーの目がキラキラだ。こういう実験が好きなのかな?
手に取ってみる。ソフィーも手を出してきたので乗せてやる。
「臭いは酒ですね。まぁ濃過ぎて飲む気にはなれませんが」
「傷口に使うと、とてつもなく
傷口にエタノールは本来禁忌なんだが、代わりの薬ができるまではこれでやる。だって命の方が大事だもの。
「分かりました。その情報も含めて王に献上します。明日の分の書類を用意しますね」
そうして、俺は軽く片付けしてから、ひとっ風呂浴びる。
湯船とシャワーはタンク式。湯がタンクから無くなれば水も湯も出て来ない。ちなみにトイレもタンクだが水洗式だ。
全部アメリアが用意してくれているらしい。
母親かよ。
ラブリーエンジェルアメリアママかよ。最高か?
いや、水出すくらいミーナがやれよ……。
体をヘチマみたいなスポンジと体用と書かれたオイルで洗い、頭も専用のオイルで洗って湯船に浸かる。
魔法が科学をカバーしている有りがちな異世界。
おかげで大して変わらない生活は出来ているけれど、魔法が使えなくなった瞬間に終わる世界。
いや、地球も大して変わらんな。
電気が無ければ何もできんし、水道もやられたら水さえ飲めない。
ただ、変わらないのはそこまでだ。
地球……特に日本は自力で復旧できる。科学は知識さえあれば誰でも再現できるからな。
でも、クランケンハオスはどうだ?
他力本願を通り越して他世界本願だぞ。
ダメだろそれじゃ。
「まぁ今のところは楽しいだけだし、女神様の言う通り観光気分に浸りつつやることやってくか……。抗生物質の準備も進めないとな。他にも揃えなきゃならんモノが多過ぎるけど」
俺は独り言を口に出して、明日以降の予定を脳みそに刻みつけながら風呂から出る。
ミーナが居た。満面のスマイルで俺の全部を見ている。なんで?
「タオルと着替えよ。どーぞ、ソーヤ様」
俺の裸を見ても微塵も動じていない。
え? これが普通?
あ、そうか。メイドだもんな。側仕えだもんな。
本来は着替えもやってくれるのか。
背を見せると、ミーナが背中を拭いてくれる。
背中以外はちゃんと拭いてて良かった。
「昨日はまだ着替えが用意できなかったのよ……ですよ。今日から私が、ソーヤ様の着替え担当に――」
俺の背中から袖口に通す時に、肩を掴まれてゴキッと鳴らされた。
超痛い。
危うく脱臼するところだった。
「着替えは自分でやる……」
「えー! ちょっと力入っちゃっただけで、次からは――」
「内定取消……」
「分かったわよ! 自重しますぅ! うぇーん!」
ミーナに触れさせたら俺は死ぬ。
ちょっとでもドキドキした俺がアホだった。
そして、風呂から出ると、ソフィーの書類は片付き、アメリアは食事の準備を終え、ナディとクララが戻って来た。
メットは外してある。
仕事終わりに見るイケ美女2人は最高の肴だな。
さぁ、これから楽しい楽しい懇親会だ。
みんなと更に仲良くなるぞ!
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