第6.5話 第1回シュテルンビルト乙女会議
会議室は押さえ、全員揃った。
椅子は無いから立ったままよ。
「第1回シュテルンビルド乙女会議の開催を宣言します。議長は発案者でもある私、ソフィー・シュッツェが務めます」
王に報告している間に、ナディとクララには動いてもらったわ。
だから私とナディとクララの他にも、アメリアとミーナがいる。
この会議は書類と建前上『【癒しの勇者】ソウヤ・シラキを円滑に支援するための別部署との打ち合わせ』と言うことになっているわ。
でも実際に話し合う内容は違う。
「真の議題は『あの
私の言葉に、ナディとクララは同時に顔がポッとなる。
「いやぁ、正直オレ……もう騙されても良いかなって……。だってこの頬の傷を見てカッコいいだぜ? キズモノになって早10年、ここに居て初めて言われたしなぁ。同僚のヒト族も『うわぁ』って目を逸らすばっかなのによぉ。なぁクララ」
「そうですわぁ。ソフィーにはこちらに戻されて以降色々と良くしてもらっているので、こういった助言も嬉しく思うのですが、今回ばかりは……というか最後の機会ですもの。行き遅れと後ろ指を指されるわたくし達にとって、ソウヤ様は最後の希望です。この傷を褒めてくださる殿方は、恐らくこの先一生現れませんことよ? それにしても、あの熱烈な……そんなにわたくし達に抱かれたい? ふふふ、こんなに疼くの、初めてですわぁ。お望み通りに……ふふ」
ダメねコレは。
ナディとクララの目がヤッバイもの。
完全にメスの顔よ。
まぁいつも酒場で叫んでたものね。
この傷ごと愛してくれるならヒトとだって結ばれてやるって。
本来ヒトとエルフの婚姻は御法度なんだけど、それって基本エルフの事情だし、エルフの国から追い出された2人ならソウヤと結婚できるのよね……。
まぁでもソウヤって見た目弱そうだし、ナディとクララに食い殺される未来しか見えないから良いか。
って、ダメダメ。
「ナディ、クララ。暴走はダメよ。ソウヤは私の協力者なんだから。癒せないとは言え【癒しの勇者】であることは女神降臨もあって間違いないし、先に搾り取らせなさい。一滴残さず搾取した後でなら、ソウヤを好きにして良いわ。あ、もちろん情報のことよ!」
変な誤解をされたくないから先に言っとく。
でも、ナディもクララも身体が萎みそうな程に、背中を丸めて溜め息を吐く。
「なぁソフィー。それ、その自分の顔。今どうなってるか分かってんのか?」
「すぐに鏡を見ることをオススメしますわ」
2人に言われ、手を体のあちこち当てて手鏡を探す。
アメリアが自前の手鏡を貸してくれたわ。
「ありがとう、アメリア」
「いーーーえ、すすす素敵な……笑顔……です!」
パカッと手鏡を開いた瞬間、アメリアの言葉が耳に突き刺さる。
私は自分の不気味な笑顔に失神しそうになった。
そして顔が赤くなるのを感じる。
穴があったら入りたいとはこのことね。
全部ソウヤが悪い。
私は折りたたみ式の手鏡をアメリアに返した。
「はぁ〜、ごめんアメリア。手間をかけさせたわ」
「いいいいいえええええ。こう……してここ声を掛けてくだ、くださったのですーー。わたっしっ……それだけで………うーれしっくてっ!」
アメリアに手を握られ、感謝を口にされる。
こうして接点を持つのは初めてなんだけど、根が良い子なのは知ってるのよね。
よく他のメイド達に苛められたり、上司のはけ口にされていたのは見掛けていたわ。
「感謝なんて不要よ……。今まで見て見ぬフリをしてきたのに、利害一致の関係者になった途端にこうして声をかけるようなヤツなんだから。それが私よ?」
私の言葉に、アメリアは不思議そうな顔で首を傾げるわ。
アメリアの横に立っていたミーナは、当然のことのように言ってきた。
「それって、普通のことじゃん? 自分の利益になるように動く。当然よね? 利益にならないのに、誰かと仲良くなる必要あるのかな? 言っちゃえば友達すらもそーゆーもんじゃん? 理由はどうあれ、こういう場で、こういう話ができるのって、私はすごく助かるよ。みーんな揃って訳アリなお家柄みたいだし」
…………。
何がへっぽこメイドよ。
ミーナもアメリアも、中身は優秀だわ。ちゃんと分かっていてココにいる。
「周りがへっぽこだと苦労するわね」
「お互いにね」
ミーナの言葉に、コクコクと頷くアメリア。
そして私の言葉に深く頷くナディとクララ。
私は大きな溜め息を吐く。
「深く理解できているのなら、この会議は必要なかったわね」
「んなこたぁ無いだろ、ソフィー。見解の擦り合せは必要だぜ」
「そうですわよ。アメリアとミーナが、ソフィーの裏の議題を理解しているかどうかですわよ。ふふ」
くっ、さすがエルフ式帝王学を修めたナディとクララ。私じゃ刃が立たないわ。だからこそ、私は2人に近付いたんだけどね。味方としてはコレ以上に強力な味方なんていないもの。
アメリアは筆談用の小さな黒板を取り出し、白い石筆で文字を書く。
それをミーナに差し出した。
ミーナはそれを持って、見て言ったわ。
「『裏の目的は2つです。1つ、ソウヤ様の地位を上げる。そうすれば仕えている私達も評価されます。2つ、ソウヤ様が追い出される場合ですが、私達を連れて行ってもらう。【癒しの勇者】なら、変な追い出し方はしませんし、ソウヤ様は頭も良い。特にクスリは間違いなく、これからのクランケンハオスに必要です。』アメリアの書いた通りになると、私も思う。だから私もソウヤに雇い直してってお願いした訳だし」
ミーナがソウヤに泣きついていたのは演技だったの?
まぁ良いわ。
「アメリアもミーナも分かっているなら問題ないわ。それぞれの思惑はどうあれ、ソウヤを全力で支援することが確認できれば良かったもの」
「そうだな。ヒトでも【勇者】なら外聞も良い」
「どこぞの王子に嫁入りするよりも良いですわ」
「わ……たしはっ、お傍、で、働く、かせてもらえればっ」
「え〜、ソウヤのお嫁さんかー。私はまだそこまでじゃないかなー。でもアリっちゃアリか。まずはお茶淹れ係から頑張んないと〜」
ナディとクララの頭はピンク。
アメリアとミーナはまだ現実的ね。
「あんまり考え無しに行動しないでよね……」
誰それとは言わないけど、一応釘は刺しておく。
「いや、時間の問題だろ」
「遊女を宛てられる前には食しますわよ?」
確かに、ソウヤが有能過ぎたら王も態度を変えるかも。
「そうならないための護衛騎士と側仕えでしょ? 私も娼婦達の動きには注意しとくから、下手な行動は慎むように」
私の言葉に、みんな頷く。
その時、外で夕鐘が鳴る。
側仕えは主の夕食の準備に取り掛からなければならない。
ミーナが全然使えないので、アメリア一人でソウヤの夕食を拵えなければならない。
「じゃあ時間ね。またソウヤ様の部屋で逢いましょう」
私達は急ぎ足で会議室を去った。
そして英気を養うのだ。
明日からの仕事のために。
私達の存在そのものを変えてくれるソウヤのために。
私は久し振りに、ぐっすりと眠ることができた。
翌朝、寝坊して遅刻する程に。
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