第6話 欠陥品の厄介者達(後)
護衛騎士であるナディとクララがヘルムを取った。
跪いて顔を下に向けているから顔は見えないが、長い耳がピクピク動いている。
素晴らしい。
でもどこが欠陥品の厄介者なんだろうか?
「エルフなのが駄目なのか?」
ソフィーは首を横に振る。
「エルフは優秀な種族ですよ。もれなく美しいですし、長命で、魔力も豊富です。2人は13歳からサージェリー王国で働いております。もう12年のベテラン騎士です。頭脳明晰で、武力、魔力共に上位騎士に相応しい実力の持ち主です」
非の打ち所が無いのでは?
「欠点なくない? まぁエルフ文化を何も知らない俺が言うには早いかもしれないが」
ソフィーは目を伏せるようにして頷く。
「あとは2人に語らせましょう。私の口から軽々しく言ってよいものではありませんから」
そう言って、ナディとクララに目を向ける。
俺も椅子の向きを変えて、2人の方を向く。
ナディから口を開いた。
「ソフィー、感謝する。ソウヤ様、改めまして。私はナディア・レーヴェ。御歳25になります」
続けてクララも発言する。
「わたくしはクラーラ・ユングフラウ。歳はナディと同じですわ。ソウヤ様はエルフのことを存じておられないので申し上げますが、本来エルフは、サージェリー王国に貸し出され、
20歳と言うと地球で言うところの27歳くらいか。
ん? 待て待て。今25? 地球で言えば35くらい?
マジカヨ。
ナディもクララもお姉様じゃん。
しかも美人確定。
異世界に転移したら強くて美人なエルフの騎士が2人も護衛についた件ってタイトルのラノベ書いて良いかなぁ? 語呂も悪くないし。
「婚姻のための帰投となります……。エルフは子がデキにくいので、早くに結婚し、子を成す準備をするのです」
俺が妄想を繰り広げていたら、話が進もうとしている。ナディの声が暗くなった。
結婚できなかったか、子ができなかったか……不妊治療も無さそうだもんな、この世界。
クララも諦め口調で話してくれる。
「わたくしもナディも、一度婚姻のために帰投したのですが……相手方の一方的な婚約破棄となりました。さらには家を追い出され、サージェリー王国に拾ってもらったのですわ」
「ん? なんだそれ? 2人揃って何かやらかした? 軍法会議ものの事件を起こしたとか?」
2人は顔を伏せたまま首を振る。違うらしい。
「え? じゃあなんで家を追い出されるんだ? 婚約相手を殴ったとか、向こうの家族と揉めた訳でも無いんだろ? 一方的なって言うくらいだし」
その時、背中からクソデカ溜め息が聞こえてきた。
ソフィーである。
俺は椅子の向きは変えないまま体の向きを変え、椅子の背もたれに右腕を乗せ、何か言いたげなソフィーの言葉を待つ。
「ナディ、クララ。言いたくないのは分かるけど、ここまで来たら諦めなさい。…………。そう。そうするのね」
ザッと後ろで鎧の立ち上がる音がして、ソフィーは座ったまま頭を下げ、俺に言ったのだ。
「ソウヤ様、エルフは美しいことが何よりも重要なのです。ナディもクララも美しかった。言葉の意味をよく考え、振り返ってくださいませ」
美しかった……ということは、そういうことだろう。
勤続12年ということは、10年前のポーション飢饉が直撃した世代。
そう考えれば、予想は着いた。
でも、予想通りなのだが、想定外だったよ。
ナディの右頬には大きな十字傷の痕。
クララは額の真ん中から左目、左頬にかけて太い爪の傷の痕。生々しいが、目は見えているようだ。
2人共に超絶イケてる美人だ。
ナディは中性的な顔をしているが綺麗だ。
クララはザ・お嬢様的な美人なんだよ。
でもそんな2人に傷痕って――。
「やだ……カッコいい……」
俺は思わず両手を口に当て、乙女のように目を煌めかせ、呟いてしまった。
「いや反則級のカッコよさだろ歴戦の年上お姉様エルフ騎士だぞ見る目なさ過ぎるだろエルフ共こんなの滾るし抱かれたい以外の思考に陥るなんて考えられないしそもそも名誉の負傷だしでも傷の位置が絶妙過ぎてハァもぅ無理コレが乙女共が感じる胸キュンかよクッッソ俺がエルフだったら2人まとめてでも重婚は犯罪かいや待てここは異世界だまず法律を調べ上げねば……。……ハッ!?」
やっばい。さっきと違って本音の本性が脳から溢れ出してしまった……。
無音、静寂、視線が痛い……。
ナディとクララがイケメン特有の「は? てめぇみてぇな雑魚興味ねぇし」的な安いヤツには靡かないオーラ出してきてるし……言い訳を考えろぉ……。
ダーメだぁ〜。
ここに来て墓穴を掘ったぁ。
「よし、解散! 今日はみんな、色んな話を聞かせてくれてありがとう。ほら、ソフィーは王様に報告な。急いで急いで。ナディとクララも護衛の準備が大してできてないだろ? 俺はもう今日はここで大人しくしてるから休んで準備してきな。アメリアとミーナも片付けたら戻って休んでくれ。食事だけ頼む。本格始動は明日から! と言うわけで、解散! ほら、帰った帰った!」
俺は全てを誤魔化すように、ナディとクララの背中を押して追い出す。
ソフィーは俺の後ろをついて歩き、そのまま出て行った。
アメリアとミーナはティーセットを片付けたのを見てから追い出した。
ようやく1人だ。
天蓋付きのベッドに寝転ぶ。
ふかふかだ。品質は最高みたいだ。
「あぁ〜、やらかしたぁ〜。明日からどんな顔で過ごせってぇ〜? むーりー!」
俺はベッドで足をばたつかせながら、悶えつつも明日からの薬作りに必要なことを考えていくのだった。
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