第5話 フェルリアの街にて

 フェルリアの城壁前。

 街への出入りを監視する門番の一人があくびをかいている。

「なぁ、交代っていつだっけ?」

「馬鹿言ってんな、交代したばかりだろ」

 もう一方に立つ、真面目な門番がそう答えた。

「……そういやお前、南の前線基地で何が起きたか知ってるか?」

 そう切り出したのは、真面目な衛兵。

「いや、知らん。でもあそこはセインブルクの聖騎士達が抑えてるって話だろ?」

「それが、そうでもないんだと」

「は?なんだよそれ。進行してきてるのは魔物共の群れだろ、聖騎士が居なきゃどう太刀打ちすんだよ」

「それこそ知らん」

「はぁ……?おまえなぁ……」


 ふと、視線を正面に移した門番。

 その眼前には信じがたい光景が広がっていた。

 森の中から上がる砂煙。そして、その先頭を走る三人の人影。

「おい、あれ!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 遠方から響く声。

「何やってる!早く門を閉めるぞ!」

『閉めるなぁああああああああ!!!』

 よくよく見れば、一人の男が二人の女を担いで走っているのがわかる。

「うわぁあああ!ゴブリンだ!!!」

『開けろぉおおおおおおおおおおおおお!!!』


 錯綜する現場。

 その混乱は門を管理する開閉係たちにも伝わっていく。

「おい、どっちだよこれ」

「馬鹿!門番が閉めろって言ってんだから閉めるに決まってんだろ!」

 そうして閉まりゆく城門。

 二人の門番も気を見計らって中に入っていった。


 そしてその様子を見せつけられるエイゼル。

「閉めるな!って言ったのに!」

「ハハハッ!ゴブリンと間違われてたぞ、エイゼル」

 左肩に担いでいるフリージアがからかう。

「無理もないですよ。こんな美少女二人をオジサンが両肩に担いでるんですから」

 右肩に担がれている村娘がすかさず茶々をいれた。

「なんでこの女共はこんなに自己肯定感が高いんだ!」

「ホラホラ、早く走らないと後ろの魔物に追いつかれるぞ」

 ばしばしとエイゼルの背中を叩くフリージア。その様はまさしく、馬車馬に鞭を打つ御者そのものであった。

「……お前、後で覚えとけよ」

「オー、コワイコワイ」

「オジサン!前!前!」

 いつの間にやら迫り来ていた城門。

 それを前に、エイゼルは立ち止まる事を余儀なくされる。

「オイ!こんな所で死ぬなんてワタシはまっぴらだぞ!」

 先ほどまでとは打って変わり、弱気な態度を見せるフリージア。

 その視界は、すぐ後ろまで迫りくる魔物の群れを鮮明にとらえていた。

「くそっ!背に腹はかえられねぇか……!」

「聖刻よ我が身脚に摂理を裁く力を与えたまへ」

 詠唱ののち、エイゼルの脚には刻印が浮かび上がる。

 そして、刻印はエイゼルが加える力に呼応し、淡い光から徐々に強い光へと変化していく。

「跳ぶぞお前ら!歯ぁ食いしばれ!!!」

 跳躍。と同時に、エイゼルの脚からは聖刻が剥がれ落ちる。

 剥がれ落ちた聖刻は自然と形と性質を変え、衝撃波へと転じた。


「ぶぁるるるるうぁうぁうぁう!」

 跳躍した先で落下を始める一行。

 落下の勢いと、吹き付ける風によりエイゼルの唇はとてつもない震えを披露している。

「オジサン!下!下!」

 村娘の言う通り、下を見るエイゼル。

 そこには、フェルリア独自の意匠が施された街道が眼前まで迫り来ていた。

 叩きつけられる。

 一行の全員がそう思った時。

「もう、何やってるの?エイゼルちゃん」

 声と同時に、全身を包む浮遊感。

 一行の体は不思議な力により、街道を目前にして浮遊していた。

「ゲ。」

 救世主の正体を目前したフリージアの声。

「久しぶりね、フリージア」

 そして、一行はゆっくりと着地を果す。

 事態を呑み込むため、エイゼルはゆっくりと顔を上げる。

「げ。」

 カツン、カツンと。甲高く街道を叩くピンヒールの音。そこに居たのは、黒いとんがり帽子に、体の線が見えるほど、いやらしい格好をした長い緑髪の女性。

「お久しぶりね。エイゼルちゃん」

「……アリーシャ?」


 知人との再会、そして……ビバ!不法入門!

 

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