第3話 ちょっとだけかっこつけてみたりして
気絶し、横たわる村娘を隠す様な形で、エイゼル・アルスタインは魔物に立ちはだかる。
「それ、治せるか?」
「ダレに言ってんだ、ヨユーに決まってるだろ」
そう言って、顕現する右手。少女はその手を喰い折られた鎖骨にあてがう。そして、村娘に対して生命の自由を行使した。
だが、その権能はすぐに失効してしまう。
「余裕じゃなかったのか?天下の権能サマ」
「ヨユーに決まってんだろ、はっ倒すぞ。」
そう言って、再び権能を行使する少女。今度は既に顕現している右手ではなく、左手を用いて事にあたる。
しかし、今回も同じ結果に終わってしまった。
自信に満ち溢れていた少女の顔に焦りが浮き彫りになる。
「ウソだろ……。ワタシの権能が効かないなんて……」
「はははっ!自分より乳のでかい女は治せないってか!」
茶化すエイゼル。が、しかし。反論する余裕がないのか、少女は焦りに満ちた顔を、不安で歪めていく。
だが、そんな少女を置き去りに、事態は悪化していく。
止まらぬ血。黒に縁取られた血溜まりが霊体である少女の足元を通り過ぎた。
「おいおい、マジか。」
流石のエイゼルも異変を感じ取り、振り返る。
「うるさい!大マジだ!」
権能の出力を上げる少女。両手から先が、剥がれ落ちる鱗の様にみるみるあらわになっていく。
「コッチはワタシが死ぬ気で何とかする!」
「大丈夫なんだろうな?」
「うるさい、集中しろ!目の前のソイツが、そろそろ墜ちるぞ!」
視線を戻したエイゼル。
少女が言う通り、異変は起きていた。エイゼルはたちまちに、狼の首を落とした剣を魔物達のほうへ向ける。
その切っ先が狙うのは、退路を塞いでいた他の狼。ではなく、首を撥ねられた狼の、その体。
「畜生、最悪だ。」
台詞と皮切りに、狼の影が広がっていく。
そして、影が狼の体を吞み込んでいく。
狼の全てを呑み込んだ影は、次第にうねりを帯びていく。
のらり、くらりと、立ち上がる。
首のないその体を動かし、遂には揺らぎが黒炎となり、狼は魔獣へと墜ちて変貌を遂げた。
変貌。と、同時に大きく踏み込むエイゼル。そこから、絶妙に瞬間をずらした横なぎを繰り出した。
しかし。その一撃は跳び上がった魔獣に避けられる。
「チッ。意外に耄碌してんな、俺!」
虚を突き損ねた一撃に対し、悪態をついて気持ちを入れ変え、次いで、切り反し。
だが、それが悪手となる。
その一手は着地した魔獣にとって格好の道を作ってしまったのだ。
エイゼルの懐に跳び込む魔獣。
「しまっ…!」
黒炎に灼かれる脇腹。だが、魔獣はそのまま通り過ぎ、村娘たちの方へ向かう。
「そっちに行ったぞ!避けろ!」
少女の視界に跳び込んだ魔獣。
「…ハ?」
それは、一瞬の出来事だった。
それは、それは、見事に少女らを仕留められる一手だった。
が。
「ナニやってんだ?この犬ころは」
「知らん、頭が無ぇからだろ。脳みそもなけりゃ、目玉もついて無ぇからな」
少女の視界に入った瞬間、突如としてその姿を再び消した魔獣。
そして、次に少女が見たのは、徘徊する魔獣の姿だった。
何かを探すように、くるくると円を描き始める魔獣。
「痛ってー……。そういうオチなら、仕掛けなきゃ良かった、ぜっ!」
だがしかし、めざとくもエイゼルはその隙を見過ごさなかった。
言い終わると同時に、持っていた聖剣を投げ放つ。
聖剣はくるくると飛んでいき、見事に魔獣の腹を貫いた。
「聖なる力だ。受け取れ、クソオオカミ」
空中に聖刻をきざみ、聖剣に封入されている祈祷の力を解放する。
解放した、はいいモノの。魔獣は消滅すること無くその場でもがき苦しむばかり。
「何だよこの聖剣、三級品じゃねぇか」
聖剣の悪態をつくエイゼル。それを他所に、少女は魔獣へと近づいていった。
「フン!」
踏みつける。
と同時に足が顕現する。少女の一撃で魔獣の黒炎は燃えつき、存在が消滅した。
「何だよ、コノ!ビビらせやがって!!!」
「フン!オラ!フン!美少女の生足だ、嬉しいだろ!オラッ!」
だが、魔獣の炎とは違い、少女の中では怒りの炎が燃え盛っていた。
「……って、おい!それどころじゃねぇだろうが」
少し呆気に取られていたエイゼルだったが、不意に視界に写り込んだ巨乳により本来の目的がある事を思い出す。
「んん?ああ、そうだったナ。そういえば、死にぞこないのデカ乳が居たな」
「忘れんなよ!そもそも助けに行くって言い出したのはお前だろうが」
二人は和やかに会話をしながら、村娘に近づいていく。
「……で、治ったのか?」
「この水たまりを見てそう思えるなら、お前はヤバいぞエイゼル」
「開き直んな、この貧乳!」
「なんだと?……ワタシだってな好きで貧乳なんじゃないぞ。そりゃあ大きい胸の方がアタシも好きだし?てか、何よ。男って胸がデカいか小さいかでしか物事を判断できないワケ?ああやだ…………」
変なスイッチが入ってしまった少女の言葉を完全シャットアウトし、エイゼルは村娘の体をじっくり見ていく。
顔。
胸。
肩。
脇。
腹。
脚。
村娘の意識が無いことをいいことに、少々の性癖も交えて見下ろしていった。
そして。
「通りで権能が行使できないわけだぜ」
エイゼルは村娘のスカートをめくり上げ、その太ももと下着を露わにさせる。
(……白か)
一瞬の眼福を味わった後、エイゼルはもう片方の手で村娘のむちっとした太ももを掴み上げた。まるで革袋の水筒の様な感触に心躍りながら、容赦なく肉をもち上げる。
ありとあらゆる肉がそれに付いて行くようにゆったりと動くさまはとても壮観で、それを見た時、得も言われぬ高揚感がエイゼルを襲っていた。
しかし、エイゼルは気づかなかった。
自分の鼻から見事に垂れ下がった興奮の結晶に。
「魔障か。でも、これさえなくなれば……っと」
再び、空中に聖刻を刻む。刻んでから、村娘の魔障にそっと触れた。
ジワリ、ジワリと黒曜石の様な色をしたシミが消えていく。
「おい、これで治せるはずだ。もっかいやってみろ」
「……大体、乳ってなんだ!乳って!ただの脂肪のカタマリじゃねぇか!」
「まだやってたのかよ。そんなの良いから、早くこいつを治してやれ」
「うん?あぁ……。」
エイゼルに言われた通り、村娘を治そうとする少女。
「待て。」
だが、それをエイゼル自身が止める。
「どうした、治すんだろ?」
「その中途半端に顕現した状態でか」
右足と両手が肩まで。確かに、どう見ても魔物の類にしか見えない状態であった。
「……しょうがねぇな、このアタシの可愛い姿がそんなに見たいってコトか」
「よっ」
少女の霊体が輝きを放つ。放たれた輝きを浴びた村娘の傷がみるみるうちに治っていく。
そして、輝きの中から。ひざ下くらいの長い金髪を振り乱しながら少女の真の姿が露わになる。
色白な肌に端正な顔立ち。尖った八重歯が特徴的なメスガキチックな女の子。が、全裸で出てきた。
「おー。久々だな、それ」
感動したエイゼルの拍手。
「どうだ!恐れいれ、この変態!」
「変態って、おいおい心外だな。俺は身も心も紳士なんだぜ?」
「……鼻からそんな大層なものをブラ下げたヤツが良く言うぜ」
やれやれと体を使って表す少女に対し、エイゼルは疑問符を浮かべる。
「鼻からって……」
疑問を拭えないまま、鼻を拭うエイゼル。そして、自分の現状を思い知る。
「わぁ、鼻血だ。」
十秒後に、悲惨な運命が待ち受けているとは露知らず。エイゼルはあっけらかんとした声で、そう鳴いた。
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