003 シャルルマーニュ十二勇士のロランは名将か?

 ファンタジー小説の多くは中世ヨーロッパ風の世界である。当然、そうした作品を書くなら中世騎士物語などは読んでおきたい。


 定番のひとつが「ロランの歌」だ。ローズマリー・サトクリフの小説「運命の騎士」でも、主人公ランダルと深い関わりをもつ吟遊詩人エルルアンが歌う場面がある。ロラン愛用の名剣デュランダルの名をご存じの方もいるだろう。


 デュランダルは知ってるけどロランの歌は知らない、あるいはロランもデュランダルもガンダムしか知らないって人のために、簡単にあらすじを書くと……


 ━━━━━


 ・シャルル皇帝(カール大帝のフランス語発音。以下彼の陣営はフランス軍と呼称する)、異教徒の王マルシルを追いつめる


 ・ロラン、停戦交渉の使者に騎士ガヌロンを推薦


 ・ガヌロン、危険な任務を押しつけられたとロランを恨みマルシルに寝返る


 ・ガヌロン、帰国の際の殿しんがりにロランを推薦


 ・マルシル、裏切ってフランス軍を攻撃


 ・ロランの相棒オリヴィエ、角笛を吹いて本隊に知らせろと言う


 ・ロラン、自分たちだけで敵をやっつけたるとこれを拒否


 ・多勢に無勢、フランス軍壊滅的損害


 ・ロラン、ようやくヤバいと気づき今さら角笛を吹く


 ・時すでに遅し。シャルルの本隊が到着したときロランらは全員死亡


 ・シャルル、怒りに燃えて反撃。マルシルとその援軍バリガンを撃破


 ・ガヌロン、帰国後裁判により有罪となり処刑


 ・俺たちの戦いはこれからだエンド


 ━━━━━


 ……てな感じである。ロランは一般に悲劇の英雄みたいな扱いになっているが、果たしてそうだろうか?


 否。私に言わせれば、彼は己の名誉欲とプライドのために本来の任務を放棄……というかそもそも任務の要点を理解しておらず、無用の損害を出したあげく自らも命を落とした愚将だ。戦士としては最強だったかもしれないが。


 殿しんがりの役割は味方を安全に撤退させることだ。当然、マルシルの裏切りを知った時点で全軍に知らせなくてはならない。彼の任務は個人の武勇を示すことではないのである。オリヴィエはすぐ角笛を吹くよう促しているので、現代人に限らず騎士の感覚でもロランは猪武者なのだろう。


 結局彼は「敵と戦うより先に助けを求めるなんてみっともないマネができるか」と自分たちだけで応戦し、十二勇士と二万のフランス軍を死なせてしまう。すぐに角笛を吹いていたら、少なくとも全滅は避けられたはずだ。残念だが擁護はできない。


 シャルル皇帝はロランらの死を知って悔やむが、確かに彼の人選ミスだ。ロランは皇帝の甥なので同世代のオリヴィエを大将にできないのは仕方ないとしても、十二勇士とは別枠の大司教(十二人のひとりとする異説あり)にして年長のまとめ役であるチュルパンを選んでいれば、ロランの顔を立てつつ悲劇を回避できたろうに。


 もっとも角笛を預けていた限り、ロラン本人の死は避けられなかった。なんせ彼の直接の死因は、思いっきり強く角笛を吹いたことで頭の血管が破裂した脳内出血なのだから。



【ロランの歌こぼれ話】


話はそれるが、マルシルの后ブラミモンドは夫の敗走後「こんなご利益のない神様なんぞ要らんわぁ!」とブチ切れ、アポラン、マホメ、テルヴァガンの神像を破壊している。異教徒に対する無知がにじみ出てるというか、アメリカ人が想像するニンジャみたいで面白い。


ところでアポランってギリシャ神話のアポロンだよね。女性関係のだらしなさを考えたら悪神扱いされても仕方ないのかもしれないが、ちょっと気の毒。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る