ツッコミ過剰（AI使用）

前編

日本の教育で「反実仮想」なる概念を取り入れられることになった。これは江戸時代の寺子屋やら薩摩藩やら松下村塾やら水戸学やらが採用していた教育方針らしく、例えば「もし我が藩に外国の軍船が来たらどうする？」と先輩生徒が問うて、「打ち払います」と後輩が答えたら、「その後倍の軍船が来たらどうする？」と問い直す。「もう一度打ち払います」とか「話し合います」とか返したら「お前オランダと我が藩の海軍力の差はわかってんのか？」とか、「大砲向けられたままでこっちに有利な話合いできるのか？」とか先輩が返す。そういうやり取りを吉田松陰みたいな先生が見守りながらたまに一言二言助言していくというスタイルだ。こうしてたから薩長土肥の維新志士たちは黒船来航という予想だにしていなかった出来事から明治政府の樹立、日本の列強入りといった偉業を成し遂げられたんだ。逆に江戸幕府では先生が用意した答えを生徒が出す、先生に褒められるために勉強するというスタイル、現代日本の教育と同じだったから日本の危機で駄目だった、という話だ。最近の日本は未曽有の危機だから江戸時代の日本の教育で行くぞという話になった。

それで実際の学校現場はどうなったかというと、それは酷いものだった。例えば、「Aというアーティストの新曲配信が楽しみ」と言ったら、「そのAが不祥事起こして配信が全部停止になったらどうすんの？」みたいなことを言い出すような輩が老若男女問わずがあちこちに現れ、芸人で言うツッコミやいじり、茶々を入れるなどといった行為が上手い子供が学校カーストの上位に上がれるという事態になってしまった。知識人はこの様子を「過剰ツッコミ社会」と名付けた。

教室の授業風景:生徒が発言するたびに、他の生徒からツッコミが入る。教師は生徒同士の応酬を見守りながら、たまに適切な助言を加える。雰囲気は活発だが時折険悪になりそうでもある。

教室の前方には黒板が大きく横たわり、古びた木製の教卓が置かれている。生徒たちは古い木製の椅子に座り、汚れた窓の外は桜の木が疎らに茂っている。

国語の授業が始まると、ひとりの生徒が手を挙げて発言する。

「あの小説の主人公は、親友を裏切らずに最期まで情け深い人物でした」

するとすぐさま、後ろの席から低い吠え声のような声が響く。

「でも、もし主人公が金に目がくらんでいたら?親友なんかバカにして金を選んだかもしれないだろ?」

そして別の生徒も言う。

「いや、もし主人公が貧しかったら、親友に金を恵んでもらうために親友につきまとい続けただろう」

生徒同士の応酬が始まる。言い換えや追及の言葉が次々に飛び交い、教室の空気は徐々に白熱していく。

教師は静かにメモを取りながら、時折生徒たちの発言に一言二言付け加える。

「なるほど、金銭的な事情で人情が変わり得るという見方もありますね」

「しかし、主観によっては親友との絆を裏切れないという意見も出てくるでしょう」

生徒たちの発言は次第に熱を帯び、互いに矛盾を指摘し合い始める。一人の生徒が机を叩く音がする。教師が制止の一喝を入れると、ぴったりと発言が止む。険悪な空気が一時的に教室に満ちる。

しかし、やがて別の生徒の発言で論議は再び活発化していく。教師はそんな生徒たちの言葉の応酬を見守り続ける。

家庭の食卓:子供が「おいしい」と言うと、両親から「でも調理中に手が滑って失敗していたら?」「材料が腐っていたら?」とツッコミが入る。食事そのものよりも仮想の事態を想定する会話に時間が費やされる。

汚れた食卓には、母親が作った手料理が並んでいる。焼き魚の香ばしい匂いが部屋に満ちている。家族は食卓を囲み、いつものように会話を弾ませながら食事を始める。

10歳の娘が箸を動かしながら「わぁ、おいしい!」と口に運んだ料理を誉める。

すると父親が即座に、「でもさ、もし母さんが調理中に包丁を滑らせて指を切っていたら?血が料理に混ざってたかもしれないぞ」と指を摘んで見せながら言う。

母親も続ける。「それに買い物に行く前に、冷蔵庫の魚が腐っていたらどうしようと思った?せっかく作った料理が台無しになるところだったわ」

弟も負けじと、「そうそう、電車が遅れて魚を買いに行けなかったらどうするの?みんな腹ペコで夜を過ごさないといけないよ」

娘は困惑した表情を浮かべる。「でも、今は美味しいものが食べられているのに…」

しかし、家族はまた新たなシナリオを次々に出し始める。

「スーパーに魚が無かったら?」

「台所がぐちゃぐちゃで料理できなかったら?」

食卓は仮定と反例の応酬でいっぱいになり、実際に口にしている料理そのものについてが疎かになってしまっている。

通学路:友達同士が会話する度に、「でも〇〇だったらどうするの?」と仮定が重ねられ、単純な話題が複雑に発展していく。時に過剰に突っ込みが入りすぎて喧嘩になりかねない。

朝日が差し込む住宅街の路地を、2人の男子中学生が並んで歩いている。カバンを背に負い、ユニフォームの服装は華奢な体つきが目立つ。

「昨日のテストさ、国語が8割台で良かったんだ」とひとりが言う。

「へえ、でも問題が全部簡単だったらどうする?」と相棒がすかさずツッコむ。

「いやいや、そんなことあるわけない」

「あるぞ。もし試験中に地震が起きて、全員点数がバラけたら?」

「・・・そんなのを想定しても仕方ないだろ」

やがてもうひとつの話題に移る。

「君、春休みになにか予定ある?」

「海に行きたいなあ」

「でも家族がみんな食中毒で具合が悪くなったらどうする?」

「ちげえよ!誰がそんな想定をするもんか」

「でもあるかもしれないじゃん。旅行に行けなくなったらかなしいよ」

二人とも気分を害し始め、口調が荒くなっていく。

「家族が病気になったらそれは残念だが、俺は一人で行く」

「おいおい、一人で行っても何も楽しくないだろ」

「黙れ!楽しいかどうかはこっちが決めることだ」

二人は言い争いになり、次第に大声で威勢を張り合うようになる。すれ違う通行人が振り返るほどの騒ぎ具合だ。

「お前さあ!こんな調子でいつまでも反証づくめだぞ!」

「そうと決まったらなんだ!想定外のことが起きりゃ何とかするんだ!」

二人はいつまでも平行線をたどり、結局この日の学校に遅刻することになった。単純な話題が複雑に発展し過ぎたために、本来の会話が成り立たなくなってしまったのだ。

テレビ番組:常にリアリティ番組のように、出演者に対してツッコミが入る。司会者はスムーズに話をつなげられず、スタジオの空気が重くなる。

スタジオの照明が眩しい。カメラマンが一同に合図をすると、司会者が舞台中央のソファに僅かに背筋を伸ばして腰を落ち着ける。

「みなさん、本日のゲストは人気グループ・レインボーロケットの皆さんです!」

ワイドショットが全員の顔を映し出すと、スタジオからどよめきが起こる。レインボーロケットの4人がソファに座り、フアンの歓声に手を振って応える。

司会者が口を開く。「皆さん、新曲のリリースが間近に控えていますね。どんな思いを込めて作られたのでしょうか?」

すると突如、スタジオの観客席から低い男声が響く。

「でもさあ!もしメンバー内に不仲があって、グループが解散することになったら?」

一同ビックリした表情で振り返ると、観客の中年男性がマイクを手に持っている。

「え?そ、それは想定していません」とリーダーがたじたじと答える。

「ふむふむ、では逆に人気が出すぎて、メンバーがソロ活動を始めたらどうするの?」

今度は別の観客の声が飛び込んでくる。

司会者が間に入ろうとするが、質問の嵐は止まらない。

「スキャンダルで干されたらどうする?」

「脱退や脱退というリスクは?」

「作詞作曲する人がいなくなったら?」

レインボーロケットのメンバーは羽交い絶えずに問い詰められ、当惑の色を隠せない。司会者が制御しようとするが、観客のツッコミの勢いは収まらない。

やがてスタジオの空気は重たくなり、番組の空白が出始める。最悪の事態を想定されたメンバーたちは沈痛な表情で口を噤んでしまい、テンションは地に落ちていった。

知識人はこのような日常のありふれた場面でも、絶えず仮定が重ねられ、問題意識が注入される社会になっているということを指摘し、知的好奇心を養うには良いかもしれませんが、対立や軋轢も生じやすく、社会的緊張感が高まっている可能性があると論じている。

「我々は今、過剰なる仮想と反証の時代に生きている。日常のありふれた場面であっても、絶えず"もし〇〇だったら"と仮定が重ねられ、問題点が指摘され続けている。確かにこの"反実仮想"の教育方針により、子供たちの知的好奇心は刺激され、課題に対する探究心や批判的思考力が養われているだろう。しかし同時に、過度の仮定の応酬が対立や軋轢を生み出し、社会的な緊張感を高める懸念もある。教室では発言の度に生徒同士が言い合いになり、家庭の食卓でも食事そのものよりも"もしも"の会話に時間が費やされている。友人同士の何気ない会話も、過剰な反証によりけんか腰になりがちだ。テレビ番組ですら、スムーズな進行を阻まれ重苦しい空気に包まれてしまう。このように日常生活のさまざまな場面で、仮定と反証のテンポが過剰になり過ぎると、共感や理解を深めることよりも、かえって対立を生み出してしまう恐れがある。確かに問題意識を常に保つことは大切だが、時として現状への肯定的視点も必要なのではないだろうか。私たちは、仮定と反証のバランスを失わず、建設的な議論を行うことで、知的な好奇心を満たしつつ、人々の絆や安心感をも維持できる賢明な社会を目指すべきなのである。」

「もし江戸時代にスマホがあったらどうなると思う？」

教室中がざわめき立つ。山田高等学校の1年B組、担任の佐藤先生が突然の質問を投げかけた。彼は黒板に「反実仮想」と大きく書き込み、満足そうに生徒たちを見渡している。

「スマホでインスタグラムとかやってたら、徳川家康もフォロワー数で天下取ってたかもね！」と、一番前の席に座る田中翔太が早速手を挙げて答えた。

「おいおい、それじゃあ石田三成はTikTokで踊ってたってのか？」と、隣の席の鈴木拓也が茶化すように言う。教室は一気に笑い声で包まれた。

「じゃあ、もし徳川家康がSNSで大炎上したらどうなる？」と佐藤先生がさらに追い打ちをかける。生徒たちは一斉に手を挙げ、あちこちから「それなら関ヶ原の戦いはコメント欄で決まったかも！」、「いやいや、フォロワー同士の大討論だろ！」などと勝手な仮定を次々とぶつけ合う。

教室はまるでお祭り騒ぎ。あちこちから生徒たちの手が挙がり、賑やかな仮定の嵐が吹き荒れる。

「もしも織田信長がYouTubeで毎日ライブ配信してたらどうなる？」と、後ろの席の山本美咲が大声で言う。

「絶対に天下布武の秘密を暴露して、再生回数が爆発してるよ！」と、その横の斎藤健が続ける。

佐藤先生はにやりと笑って、「それじゃ、豊臣秀吉がインフルエンサーだったらどうなる？」

「インフルエンサーどころか、広告収入で大阪城のリフォームがバッチリ進んでたかも！」と、教室の隅から声が上がり、再び爆笑が起こる。

「もしも戦国時代の侍が全員、スマホで戦略会議をしてたらどうなるんだ？」と、佐藤先生がさらに仮定を投げかけると、田中翔太が顔を真剣にして答えた。

「絶対、通話中にバッテリー切れで大混乱だよ！敵味方の区別もつかなくなって、戦場がカオス！」

その瞬間、教室中が笑い声と拍手で満たされた。佐藤先生は満足そうにうなずきながら、さらに話を進めた。

「では、もしもこの反実仮想が今の日本でどんどん使われるようになったらどうなると思う？」

クラスは一瞬静まり返ったが、すぐにまた手が挙がり始めた。

「もしも、家庭の食卓でも『もしも話』が続いたらどうなる？」と、山田美奈が言うと、佐藤先生はうなずいて答えた。

「そうだな、例えば夕飯の時に『もしもこのカレーがフランス料理だったら？』なんて話が続いたら、みんな実際の料理に集中できなくなってしまうかもしれないな。」

教室は再び笑いに包まれた。佐藤先生はその様子を見て、次のステップを考えていた。

「じゃあ、みんな。次は自分たちがこの反実仮想をどう使って未来を良くしていけるか、考えてみようか。」

生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で、新たな仮定の冒険へと心を躍らせていた。教室中に広がる笑顔と笑い声が、今日も山田高等学校の一日を明るく照らしていた。

教室の片隅、窓際の席に座る中村亮介は、周りの騒ぎにうんざりした表情を浮かべていた。彼は反実仮想教育にまったく興味を持っておらず、この無意味な仮定の話に時間を費やすのが嫌で仕方がなかった。

「またかよ…」と亮介は心の中でつぶやき、窓の外に視線を移した。風に揺れる木々を見つめながら、彼は現実に戻りたいと強く願っていた。彼にとって、今日もただの無駄な時間だった。

クラスメイトたちが笑い声を上げるたびに、亮介の心はますます冷めていった。「もしも話なんて、ただの空想に過ぎない。実際の生活に何の役にも立たないじゃないか。」彼の頭の中にはそんな考えがぐるぐると巡っていた。

佐藤先生が「みんな、次は自分たちがこの反実仮想をどう使って未来を良くしていけるか、考えてみようか」と言ったとき、亮介は深いため息をついた。

「現実の問題に目を向ける方がよっぽど重要だろ…」と亮介は心の中で呟き、ノートに無意味な落書きを始めた。彼にとって、これ以上の仮定の話に付き合うのは耐えがたかった。

周りの生徒たちが熱心に議論を続ける中、亮介は一人、教室の喧騒から離れた静かな場所を夢見ていた。彼にとって、この教室は仮定の話で満ち溢れた、居心地の悪い場所でしかなかった。

佐藤先生が「未来を良くしていけるか、考えてみようか」と言ったとき、亮介の隣の席に座る内田真由が手を挙げた。彼女はクラスの中でも特に熱心に議論に参加するタイプで、反実仮想教育の信奉者だった。

「先生、もしも全ての国が核兵器を放棄したらどうなるでしょうか？」真由が質問を投げかけた。

クラス全体が一瞬静まり返り、佐藤先生が微笑みながら答えた。「それは興味深い仮定だね、真由さん。皆さん、どう思いますか？」

亮介は心の中でまたため息をついた。そんな大規模な仮定よりも、もっと現実的な問題に目を向けるべきだと彼は思っていた。ふと視線を前に戻すと、クラスメイトたちがそれぞれに意見を出し合い始めた。

「それなら世界平和が実現するかも！」と、田中翔太が言う。

「でも、新たな戦争の火種が生まれる可能性もあるよね」と、鈴木拓也が反論する。

「何のためにこんなことを議論するんだ…」亮介はまた心の中でつぶやいた。彼の中には苛立ちが募っていった。

そのとき、亮介の前の席に座る木村直人が振り返り、亮介に話しかけた。「中村、お前も何か意見ないのか？いつも黙ってるけどさ。」

亮介は一瞬戸惑ったが、ため息をついて言った。「いや、俺は現実の問題に目を向けたいだけだよ。仮定の話をしても、結局は空想に過ぎないし。」

木村は少し驚いた様子で、「でも、仮定の話をすることで未来の問題に備えられるんじゃないか？」

「そうかもしれないけど、今目の前にある現実の問題を解決する方が大事だと思うんだ。」亮介の声にはいつもよりも強い意志が感じられた。

佐藤先生もそのやり取りを聞きつけ、亮介に向かって言った。「中村君、現実の問題に目を向けることも大切だよ。でも、時には仮定の話をすることで新しい視点が得られることもあるんだ。バランスが重要なんだよ。」

亮介は佐藤先生の言葉に一瞬考え込んだが、結局はうなずくことができなかった。彼にとって、この教室はまだ仮定の話で溢れる無意味な場所でしかなかった。彼は再び窓の外に視線を移し、心の中で早くこの授業が終わることを願った。

その日の放課後、亮介は一人で帰り道を歩いていた。頭の中では今日の授業のことがぐるぐると回っていた。「俺が間違っているのかもしれない。でも…」

ふと、友人の田中翔太が走って追いかけてきた。「おい、中村！さっきは言い過ぎたかもな。だけどさ、あんたの意見ももっと聞いてみたいんだよ。俺たち、友達だろ？」

亮介は少し驚いたが、顔に微笑みが浮かんだ。「ありがとう、翔太。でも、俺はやっぱり現実の方が大事だと思うんだ。」

その日の放課後、亮介は一人で帰り道を歩いていた。頭の中では今日の授業のことがぐるぐると回っていた。「俺が間違っているのかもしれない。でも…」

ふと、友人の田中翔太が走って追いかけてきた。「おい、中村！さっきは言い過ぎたかもな。でもさ、あんたの意見ももっと聞いてみたいんだよ。俺たち、友達だろ？」

亮介は少し驚いたが、顔に微笑みが浮かんだ。「ありがとう、翔太。でも、俺はやっぱり現実の方が大事だと思うんだ。」

「分かったよ。でも、時々は俺たちの仮定の話にも付き合ってくれよ。そっちも面白いことがあるかもしれないしさ。」

亮介は頷いたが、心の中では納得していなかった。彼は自分の考えを曲げるつもりはなかったし、仮定の話が無駄だという思いも変わらなかった。彼にとっては、現実の問題に真剣に取り組む方がよほど重要だった。

「まあ、考えておくよ。でも、俺は現実の方に集中したいんだ。」亮介はそう言い残し、再び歩き出した。翔太もそれ以上は何も言わず、彼の後ろをついていった。

夕日が沈む頃、亮介は家に帰り着いた。部屋に入ると、机の上に積まれた課題と教科書に目をやり、深いため息をついた。「反実仮想なんて…俺には関係ない。」そう言いながら、彼は机に向かい、現実の課題に取り組み始めた。

その晩、亮介はベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い返していた。彼は自分の信念を貫くことを決意し、明日もまた同じように現実の問題に立ち向かうつもりでいた。彼にとって、仮定の話はあくまで空想に過ぎず、実際の生活に役立つものではないと確信していた。

それでも、亮介の心の奥底には、友人たちとの議論を通じて何かを学ぶ可能性があるのかもしれないというわずかな疑念が残っていた。しかし、その疑念は深く埋もれ、彼の日常には影響を与えることはなかった。

翌日も、亮介は変わらずに教室の片隅に座り、周りの騒ぎに耳を貸さず、自分の道を進む決意を新たにしていた。反実仮想教育がどれだけ流行ろうとも、彼の心は現実に向かっていた。

しかし、ある日の放課後、亮介の前に思わぬ人物が現れた。「おい、中村！」そう叫びながら教室に走り込んできたのは友人の田中翔太だった。彼は息を切らしながら亮介に近づき、言った。「次の日曜さ、みんなで集まる予定なんだけど、来ないか？」

突然の申し出に面食らいながらも、亮介は戸惑いながらも答えた。「いや……俺はちょっと……」

すると翔太は身を乗り出して言った。「頼むよ！お前の意見が聞きたいんだよ。クラスのみんなもお前の考えを聞きたいって。」

亮介の心は揺らいだ。彼は、自分が反実仮想教育の信奉者ではないことを証明したいという思いに駆られていた。「わかった、行くよ。」と、彼は答えた。

日曜日の朝、翔太の家の前で待ち合わせた二人は自転車で出発した。彼らは近くの公園に集まり、そこで他の友人数人と合流した後、街へと繰り出した。

歩きながら、亮介は周囲の景色を眺めていた。彼はいつも一人で学校から帰ることが多かったため、友人たちと一緒に街を歩くのは久しぶりだった。

公園から少し離れた場所で、彼らは雑談に花を咲かせていた。翔太が「もし反実仮想の授業を習うなら、どんな授業にしたい？」という話題を持ち出すと、他の友人も興味津々で耳を傾けた。

亮介は少し考えた後、自分の意見を述べ始めた。「俺は、仮定の話や議論を通じて現実の問題への理解を深めていくような授業が良いと思うな。」と彼は言った。「例えば、『もしも』という言葉を使った問題に対して、現実と空想の区別や考え方の違いを理解することができるような授業が理想的だと思う。」

他の友人たちも頷きながら亮介の意見に共感した。「それは良いアイデアだな。俺もそういう授業なら参加したいよ。」

その後も彼らは様々な仮定の議論を続けながら街を散策し、楽しい時間を過ごしたのだった。

その夜、亮介は翔太の家で遊んだことを思い出していた。彼は友人と一緒に過ごした時間がとても楽しかったことに改めて気づいた。しかし同時に、自分の考えを曲げることなく貫き通すことも大切だと感じた。

もしも翔太が「反実仮想」の授業を提案したときに断っていたとしたら、今日の楽しい時間は過ごせなかっただろう。仮定の話や議論を通じて現実の問題への理解を深めていくことは、人生をより豊かで充実したものにしてくれるはずだ。そう考えた亮介は、心の中で決意を新たにした。

その夜、亮介は翔太の家で遊んだことを思い出していた。彼は友人と一緒に過ごした時間がとても楽しかったことに改めて気づいた。しかし同時に、自分の考えを曲げることなく貫き通すことも大切だと感じた。

もしも翔太が「反実仮想」の授業を提案したときに断っていたとしたら、今日の楽しい時間は過ごせなかっただろう。仮定の話や議論を通じて現実の問題への理解を深めていくことは、人生をより豊かで充実したものにしてくれるはずだ。そう考えた亮介は、心の中で決意を新たにした。

また、別の夜には、亮介の友人である田中翔太が彼に向かってこう言った。「なあ中村、お前って本当に頭いいよな！俺はいつもお前の考えに感心しているんだよ。」

田中翔太は、亮介が学年でトップの成績をとっていることを知っていた。彼の答えは常に明確で論理性があり、教師からも高い評価を得ている。そんな彼に対して、翔太自身もある種の尊敬の念を抱いていたのだ。

しかし、同時に彼は、そんな亮介にも悩みがあることも理解していた。「でもさ、時々お前は一人で考え過ぎちゃうところがあるんじゃないか？もっと俺たちと一緒に話したり笑ったりしてくれよ！」と翔太は言った。

その言葉に亮介はハッとした表情を浮かべた後、「確かにそうだよな……翔太、ありがとう」と答えた。

翌週の授業日、佐藤先生は再び「反実仮想」の時間を設けた。生徒たちは慣れた様子で手を挙げ、賑やかに仮定の話を重ねていった。しかし亮介だけは相変わらず窓の景色を眺め、無関心を装っていた。

そんな亮介の様子に気づいた佐藤先生は、亮介に直接問いかけた。

「中村君、今度はお前から仮定の話を出してみないか?」

亮介は渋る素振りを見せたが、クラスメイトの視線を感じて仕方なく立ち上がった。

「わかりました。では…もしも私が総理大臣になったら、まず何を政策に掲げるべきでしょうか?」

しかし亮介の言葉に、クラスメイトたちからは予想外の反応が返ってきた。

「総理大臣ってなんだよ?亮介はいつも本気で現実離れした話ばっかりだな」

「そんな無茶なこと考えるよりさ、日常の問題から解決したほうがいい」

亮介は戸惑いを隠せなかった。自分の意見を伝えようとしたのに、突き放されてしまったからだ。田中翔太さえ、亮介の仮定の話を聞く気がないようだった。

「おい中村、そんな無理な話より、もっと身近な問題を考えようぜ」

翔太はクスクス笑いながら言った。亮介は心なしか翔太の目からは軽蔑の色が見え隠れするようにも思えた。

その場は一気に険悪な空気に包まれた。亮介は周りから浮いた存在となり、友人知人からも理解されなくなってしまったのだ。仮定の話を徹底的に無視する亮介の姿勢が、かえって孤立を生んでいた。

「ちっ...」

亮介は舌打ちすると、そのまま椅子に腰を下ろした。これ以上発言しても無駄だと悟ったのだ。

授業終了の合図が鳴ると、亮介はいちはやく教室を後にした。翔太が「おい!」と呼び止める声が聞こえたが、亮介は無視して歩き続けた。

放課後、翔太は亮介の家に足を運んだ。亮介の母親に「中村くんはいますか?」と尋ねると、母親は心配そうな表情で言った。

「ええ、亮介くんは今、部屋で一人で勉強をしているみたいですわ」

翔太は亮介の部屋のドアを軽くノックした。

「亮介、俺だよ。ちょっと話がしたいんだけど...」

しかしドアの向こうから返事はなかった。翔太は何度かノックを繰り返したが、最終的にあきらめてその場を後にした。

その夜、亮介の部屋では燈火がつけられたままだった。彼は課題に没頭し、友人のことなど考えもしなかった。現実の問題に向き合うことが、亮介にとって最大の喜びだったのだ。

一方の翔太は、友人を取り戻せなかったことが悔しかった。しかし今の亮介を動かすことは難しいと悟り、ひとまず亮介に距離を置くことにした。

このように、"反実仮想"をめぐる考え方の違いから、亮介は周囲の人間から次第に遠ざかり、ついには完全に孤立してしまう運命にあった。現実と仮想、その狭間で揺れ動く彼の姿は、時に痛ましくさえ見えた。

その後も亮介は一人きりの生活を続けていった。授業中はひたすら黙り込み、昼休みになれば誰ともつるまず、図書館で一人読書に耽っていた。

翔太をはじめ、かつての友人たちも亮介から距離を置くようになった。度重なる無視に嫌気がさし、最終的に完全に絶交状態に陥ってしまったのだ。

「あの亮介、完全に現実とかけ離れちまったよ」

「そうだろうな。もうあいつとは関わらないほうがいい」

廊下ですれ違う度に、そんな冷たい視線が亮介に向けられた。

一方で亮介も、人間関係を完全に断ち切ることで、ようやく解放された思いを抱いていた。「みんなは俺の考え方が理解できなかった。だから一人でいることにした」そう独り言を呟きながら、亮介は没頭できる課題を見つけては夜な夜な取り組んでいた。

唯一の楽しみは、週に一度の図書室での読書だった。そこでは誰からも邪魔されることなく、自由に本を読み漁ることができた。世の中の深遠で難解な問題について、亮介は黙々と知識を養っていった。

ある日のこと、図書館のカウンター前に並んでいると、ふと後ろから知らない声が聞こえてきた。

「図書室で勉強に励むあんたは立派だと思うよ」

振り返ると、そこには翔太の姿があった。かつて親友だった男は、亮介を心配そうに見つめていた。

「おい、どうしちまったんだ?もっと人と付き合えよ。あんたの知識は、みんなで共有したほうがいい」

しかしその言葉には冷たい視線しか返すことができなかった。あまりに長い時間をかけて、亮介は人間不信に陥っていたのだ。

「知ったこっちゃない。俺はこれでいい」

そう言い残すと、亮介は図書室の書架へと消えていった。教科書や参考書を手に、ひとりで勉強に没頭するのが、彼にとって最後の楽しみだったのである。

このように、"反実仮想教育"への考え方の違いから、かつての親友関係は決定的に破綻してしまった。亮介は孤独な道を選び、誰ともつるむことなく現実の問題に向き合い続けた。

周りの声に耳を傾けず、ひたすらに自らの信念に従う。それが亮介の生き方となり、遂には人間不信に陥ってしまったのだった。友情や人と人とのつながりといった、人間らしい営みから離れていった亮介の姿は、あまりにも寂しく哀しいものだった。