うみのそこ Side:B

──海は広い。陸とは比べようがない程広いけど、どの海も必ず一つに繋がっている。──


 あなたはその後、なんて言っていただろうか。


──だから、そう悲観するな。例え沈んでも、その先では皆一緒だ──


 そう言っていた気がする。
でも…なんでそんな話になったんだっけ。

 ああ、そうだ。
ボクがまだ造られたうまれたばかりの頃、これからのことに怯えていたから、あなたはそうやって励ましてくれたんだ。
それで、ボクはなんて答えたんだっけ。
そんなの嘘だ って、言ったような気がする。
だって、人間も死んだら死後の世界へ行くって話があるけど、みんながみんなそれを信じているわけじゃないし、誰も本当だって確信を持って語れない。
それに、天国と地獄っていう話もあるけど、あれも信じられない。
天国に行くのがいいことをした人で、地獄に行くのが悪いことをした人なら、きっと世の中の大半を占めているはずの、特別いいことも特別悪いこともせずに生きてきた人の居場所がないから。


人間でもそうなんだ。
だからボクたち軍艦にそんな場所がある訳がない って。
でもあなたは、そんな返しに気を悪くした様子もなく続けた。


──そうか? じゃあこれは
、私達だけの特権だな──


 冗談めかして言うあなたに、ボクは思わず笑ったっけ。
でも、おかげで海に……戦争に抱いていた恐れはなくなったように思えた。
どこまで本気で言っていたのかわからなかったけど、安心したんだ。
抱きしめてくれた時の温かさと、その言葉の優しさに。


 だから……
ねえ、長門お兄さま。
ボク、信じてみようと思うんですよ。
あなたの言った海の底を。
またみんなに会えるって話を。
なので、もう、怖くないです。
ボクは先にみんなに会いに行くので、あなたは後からゆっくり来てくださいね。
無理かもしれないけど、できるだけ長生きして欲しいなぁ、なんて。
さよならは……言わなくてもいいかな。
だってまた会えるから。



それじゃあ、また──……








1945年4月7日14時23分──戦艦大和 坊ノ岬にて沈没


     Side:Bounomisaki  完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る