BSS(僕が先に好きだったのに)を拗らせた弟の寝取られ現場を生配信してみた

戯 一樹

第1話



 突然だが、俺には二つ下に中三の弟がいる。



 で、その弟なんだが、顔は良い方なのに優柔不断なせいで、昔から恋愛面で損することが多い。

 今まで三回くらいかなあ。散々告白するかどうかで迷ったあげく、好きな子を他の奴に取られたのは。

 その度に後悔しているわけだが、今のところ、そんな自分を改善しようとする気配はない。

 いや、初めの頃はまだ素直になれない自分を直そうとしていた節があったのだが、去年、両想いだと思っていた女の子があっさり別の男とくっ付いてしまったせいで、どうにも及び腰になってしまっているらしい。

 まあ、つまりあれだ。



 弟は完全にBSS(僕が先に好きだったのに)を拗らせてしまったってわけだ。



 え? なんでそこまで弟の恋愛事情に詳しいのかって?

 実を言うと、子供の頃からずっと弟と交流のある奴がいて、そいつから色々と教えてもらってんだわ、これは。

 やっぱ兄としては、弟の恋愛方面を知っておきたいもんだしな。いや、別に今まで彼女がいた事がないせいで、兄として焦っているとか、そういう情けない理由では全然なくて。

 なに? そこまで弟の事が気になるなら、何か忠告とかしてやんなかったのかって。

 いや言ったよ? 余計なお世話かもしれんけど、弟がウジウジと悩む度に何度も「さっさと告白すりゃいいのに」ってアドバイスしてやったよ?

 ついこの間だって──




「なあ大樹だいき。お前、睦月むつきちゃんに惚れてんだろ?」

 それは数週間前の出来事。

 部活から帰ってきた弟──もとい大樹に、俺はリビングから顔を出して開口一番にそんな話を切り出した。

 ちなみに、睦月ちゃんというのは大樹の幼馴染で、俺も小さい頃に何度も遊んだ事がある女の子だ。

 家が近所だから、たまに挨拶を交わす事があるのだが、はっきり言ってすごく可愛い。ちょっと癖のあるセミロングの髪もクリクリとした大きな目も、すべてのパーツがとても愛くるしいのだ。ありゃ将来とんでもない美人になるタイプだね。

 もっとも俺は年上好きなので、好みというわけではないのだが。

「……何さ、藪から棒に」

「いやだから、睦月ちゃんに惚れてんのかって話」

「それ、兄貴に関係ある?」

「あるある。めっちゃある。だって俺、お前の兄貴だし。それに睦月ちゃんとは知らない仲じゃないしな。そんな二人が恋仲になるかもしれんってなったら、普通に気になるだろ?」

「お節介だなあ……」

「失礼な。人が心配してやってんのに」

「それがお節介なんだってば」

 などと迷惑そうな顔をしながら、リビングに入って台所で手を洗ったあと、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出す大樹。

 終始素っ気ない大樹ではあるが、別に兄弟仲が悪いわけじゃない。決して良いわけではないが、大輝と話す時はいつもこんな感じなのだ。

「で、何で僕が睦月に惚れてるって思ったわけ?」

「だってお前、最近睦月ちゃんと連絡取り合ってないじゃん」

 俺の返答に、大樹はコップに注いでいた麦茶を半端な量で止めた。

「お前の隣りの部屋だから、よく大樹の話し声が聞こえたりすんだけど、昔から睦月ちゃんとよく電話で話してたのに、最近は全然だからさ。ケンカしたって話も聞かないし、もしかして惚れてんのかなって」

「………………」

 俺の話を無言で聞きながら、大樹は麦茶を注ぎ直して、そのまま一気にあおった。

「……兄貴には関係じゃん」

 ぶっきらぼうに言って、大樹はコップを流し台に置いた。

 ははーん。これは完全に図星ですな。

「なあ大樹。好きなら好きって素直に伝えた方がいいぞ」

 コップを流し台に置いて足早にリビングから出ようとした大樹に、呼び止める形で声を掛ける。

「お前、昔から好き避けする癖があるからさあ。しかも遠慮しいだし、好きな子に素っ気なくなるところもあるし、はっきり言って悪手だぞ、それは」

「…………」

「好きなら好きってちゃんと言っとけー。前もそのまた前も忠告したけど、今言っておかないと、また他の奴に取られかねんぞ。それに何より──」



 睦月ちゃんも、大樹に気があるみたいだし。



 とまでは言わず、俺は途中で口を噤んだ。さすがにそこまで言うのは野暮だと思ったからだ。

 こういうのは本人の口から直接言うもんだろうし。

「それに、何?」

「なんでもない。とにかく、睦月ちゃんが好きなら素直にその気持ちを伝えろって話。前みたいに後悔したくないならな」

「……兄貴には関係ないじゃん。ていうか、今まで十人くらいの女の子に告白して全部玉砕している兄貴に言われても説得力ないし」

 やかましいわ!




 そんなやり取りがあった、一ヶ月くらい経った時の事だった。

 その日の俺は、リビングのソファで寝転びながら、だらだらとマンガを読み耽っていた。

 そんな時だった。不意にピンポーンとインターホンが鳴った。

「ちっ。誰だよ、今いいところだったのに」

 悪態を吐きつつ、気怠げに立ち上がって玄関へと向かう。

 時刻は夕方の四時半。親は共働きの上、いつも帰りが遅いので、こんな時間に帰ってくる事はない。大樹も部活(確かボランティア部だったはず)があるので帰るには早い時間だ。

 つまりこの家には今、俺ひとりしかいない。だからこの時間帯に家に誰か来た場合、部活もバイトもしていない暇な俺が応対しなければならなくなる。七面倒な事に。

 ていうか、今日客が来るとも配達が来るとも聞いてないんだけどなあ。一体誰なんだ。あれか、セールスか宗教か? だとしたら、とっとと追い返してマンガの続きを読んでやる。

 そんな決意と共に、念の為チェーンを掛けてからドアを開けてみると──



「こ、こんばんは、お兄さん……」

「え? 睦月ちゃん?」



 そこにいたのは、セールスでもなければ宗教勧誘の人でもなく、大樹の幼馴染、睦月ちゃんだった。

「ごめんなさい。こんな遅い時間に……」

「いや、全然構わないけど。それにしても睦月ちゃんが家に来るなんて珍しいねぇ」

 一体何年振りだろう。大樹が中学生になったあたりからあまり来なくなったから、少なくとも二年近くは来てないと思うが。

 にしても、相変わらず礼儀正しい子だなあ。地味とか暗いというわけじゃないけど、家が茶道教室をやってるせいか、物腰に気品があるんだよな、この子。

「それはそれとして……」

 こほんと咳払いしたあと、俺は睦月ちゃんの隣りに立つ、茶髪でピアスもしているチャラい男子(たぶん大樹と同い年くらいか?)に目線を移した。

「睦月ちゃんの隣りにいるのは誰?」

「えっと、この人は……?」

「ちーっす、お兄さん! オレ、大樹君の友達の三島みしまって言いまーす!」

 と、睦月ちゃんの声を遮って、茶髪の奴が飄々と前に進み出てきた。

 つーか、挨拶かっる! 何なんこいつ、見た目以上にチャラいんだけど!

 それ以前に、まず初対面の年上に対してその態度はどうなんだ、と教育的指導を施してやりたい欲求を内に抑え込みながら、

「へ、へー。で、二人は弟に会いに来たってことでいいのかな?」

「あ、用があるのは睦月の方っす。オレは付き添いっすね。いやー、睦月がどうしても付いてきてほしいって聞かなくてー」

 そうなん? という意味を込めて睦月ちゃんに視線をやると、彼女はおずおずと頷いた。どうやら嘘ではないらしい。

「あー、大樹ならまだ部活中だから家にいないけど」

「それじゃあ、中で待たせてもらっていいっすか? できれば大樹君の部屋で」

 ……図々しいな、こいつ。

 もうちょっとこう、他人様に対する配慮とかないんか? 俺達、はじめましてだよね? 先輩後輩の関係ですらないよね?

 なんて不快げに思っていたら、睦月ちゃんが胸の前で小さく手を上げた。

「……あの、できたら私もそうしてくれると助かります」

「あーまあ、睦月ちゃんがそう言うなら……」

「ざーっす! じゃあ入りまーす!」

 だから、図々しいぞお前コノヤロー!




 そんなこんなで、睦月ちゃんと三島と名乗ったチャラ男を、二階の大樹の部屋に案内したあと、俺は自分の部屋に向かった。

 最初はリビングに戻ろうと思っていたのだが、あの三島って奴が気掛かりだったので、何かあればすぐに飛び出せるように自分の部屋に待機しておいたのだ。

 もしもこれで家の物を勝手に盗ったり怖そうものなら、容赦なく俺の鉄拳を食らわせちゃる……!

 なんて臨戦態勢で隣りの部屋──もとい弟の部屋に耳をそばだてる。

 数分ほど経ったが、基本的には三島が一方的にどうでもいい事ばかり喋るだけで、特に怪しい物音は聞こえてこない。

 ていうか睦月ちゃん、さっきからちょっとした相槌を打つ程度で、ほとんど何も話してないな。どういう関係かは知らんが、そこまで親密な関係というわけでもないのか?

 なんて疑問に思っていると、しばらくしてモゾモゾという衣擦れのような音が聞こえてきた。

「……? なんだ急に?」

 いやまあ、六月も後半に入って蒸し暑いし、上着を脱いでいるだけかもしれんが、俺が大樹の部屋を案内した時にエアコンを点けたはず。そろそろエアコンも効いてきて涼しくなっている頃だろうし、上着を脱ぐほどでもないと思うんだが……。

 などと訝しんでいる内に、やがて二人の会話が聞こえてきた。

 それも、何やら怪しい口調で。



「なあ、もういいだろ? そろそろ始めようや」

「……でも、まだだいちゃんが帰ってきてないし……」

「そんなすぐには終わんねぇって」

「……けど、キスだけって話じゃあ……」

「そんなんじゃ大してショック受けねぇって。どうせならもっとガツンとインパクトのある光景を見せつけてやんねぇと意味ねぇって。睦月だって、そのつもりでここに来たんだろ?」

「それは……うん……」

「じゃあやろうや。大丈夫大丈夫。大輝のお兄さんなら『リビングにいるから、何かあったら呼んで』って言ってたし、どうせ聞かれねぇって」

「…………、わかった」



 睦月ちゃんが渋々といった感じで了承したあと、衣擦れと共に「ちゅぱちゅぱ」という艶かしい音まで聞こえてきた。

 そうこうしていると、睦月ちゃんの「あっ」という嬌声まで聞こえ始めて──

 ってこれ、どう考えてもあれじゃね?



 こいつら、おせっせ始めてんじゃね!?



「マジかよ……。ここ、人んだぞ……」

 思わず愕然とする。

 まさか人の家……まして睦月ちゃんにしてみれば幼馴染の部屋なのに、そこで大樹でもない別の男とエッチするなんて、一体どういう神経してんだ。いや、最初は乗り気じゃなかった睦月ちゃんを強引に誘った三島も大概だけども!

 これはもう、じっとしているわけにはいかない。

 こんなの聞かせられたら、俺は、俺は──



 ──生配信するしかあるまいて!



 というわけで、さっそくズボンのポケットからスマホを取り出して、配信の準備を始める俺。

 実をいうと俺、時間を持て余した暇な高校生と見せかけて、とある動画の配信者でもあるのだ。

 もっとも登録者は多くないし、広告収入も少ないから、はっきり言ってバイトでもした方が全然稼げるくらいなのだが。

 それはともかく、こんなとびっきり美味しいシチュエーション、絶対逃すわけにはいくまい!

 そんなこんなでちゃっちゃとスマホ用の三脚を準備して、弟の部屋から話し声を拾えるよう、壁際にスマホを密着させる。

 ちなみに顔出しはしない。俺は顔出しはしない主義なのだ。皆様にお出しできる顔じゃないんでね! 自分で言ってて悲しくなってきちゃった……。

 それはともかく、これで準備はオーケーっと。あとは『ライブ配信を開始』ボタンをタップして──

「どーもー。パンティーカップでーす。今日は皆さんに聞いてもらいたい事があって、緊急生配信を始めました〜」



【おっ。パンくんの配信やん】

【おひさ〜】

【確か『男子高校生がひとりで女性用下着を買ってみた』以来だな】

【緊急ってどうかしたん?】



 おっ。さっそくコメントが流れてきた。まだ配信を始めたばかりだから数は少ないが、内容次第では視聴者数を増やせるかもしれない。

 とはいえ、こっちの声が向こうに聞こえてしまったら元も子もないからな。声量には気を付けんと。

「いやー。実はですね、隣りの弟の部屋から、おせっせをやっている声が聞こえてきまして……」



【マジで!? パン君いるのに!?】

【弟君も大胆だなあ】

【大丈夫? 垢BANされない?】



「声だけなら大丈夫じゃないっすかね。あんま卑猥な発言が出るようなら怪しいかもしれんすけども。

 それより、実は隣りの部屋にいるの、弟じゃないんすよ。弟の友人──それも中学生なんです」



【えっ。どゆこと!?】

【友達の家でエッチしてんのかよwww】

【しかも中坊とか草】

【どういう状況なんw】



「それが、俺も詳しく知らんのっすよ。なんか急に弟の友人が訊ねてきて……。あ、なんかだんだんと二人がヒートアップしてきたみたいです」

 そう言って、俺はいったん黙って弟の部屋に耳を済ませる。



「じゃあ、そろそろ入れるぞ」

「え、もう……?」

「大丈夫大丈夫。もうけっこう濡れてるし。睦月ってすぐに感じるタイプだよなあ。この淫乱め」

「私、そんなエッチなタイプじゃあ──あぁんっ」



【挿入キタ──────!!】

【中学生のエッチする声を生で聞けるなんて、マジで興奮するな……!】

【どうか垢BANされませんように(>人<;)】



 おっ。だんだんと視聴者数も増えてきた。中学生のセックスという物珍しさもあってか、みんな興味津々だな。

 と、不意に階下から玄関が開く音が聞こえてきた。

 この時間帯からして、まず間違いなく大樹だな。

 しばらくして、冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえたあと──たぶん麦茶でも飲んでんだろう──階段を上る音が響いてきた。

 その音はおそらく睦月ちゃんや三島にも届いているはずなのだが、未だに行為をやめる気配はない。

 さっきも二人で話していたが、どうやらマジで大樹にエッチしているところを見せつけるらしい。理由はよく知らんけど。盛り上がってきたでぇこれは!

 なんて鬼畜な事を考えながら、再び小声で視聴者に弟が帰宅した事を知らせる。

「弟が帰ってきました。今自分の部屋に向かっている最中です」



【ついに弟くんの登場か!】

【これは修羅場の予感……!】



 実際、修羅場になるのは確実だろうな。

 何せ睦月ちゃんは大樹の好きな子なんだから。

 あの子、あからさまに大樹に向かってアプローチしてたからなあ。当の本人は全然好意に気付いてないみたいだけど。お前は鈍感系ラノベ主人公か。

 閑話休題。ややあって、大樹が俺の部屋を通り過ぎるのが足音でわかった。

 そして──



「えっ──」



 廊下から聞こえる大樹の動揺した声。

 そりゃそうだ。

 だって、大樹の目の前では──



「よう大樹。部活お疲れさ〜ん」

「み、三島……? それになんで睦月が……。ていうかお前ら、ここで何をやって……」

「何って、セックスだよセックス。こうして背面騎乗位でな」

 お前の方からでもよく見えるだろ、なんていけしゃあしゃあとのたまう三島に対し、大樹は震えた声で、

「セックスって……。いやそれよりも、いつからそんな関係に……」

「二ヶ月くらい前かなあ。ちょっと睦月と盛り上がった時があってさー。それからだなあ、睦月とこうして会うたびセックスするようになったの」



 二ヶ月前って、けっこう前だな!

 しかも会うたびセックスしてるって、どんだけさかってんだよこいつら。それも知り合いの部屋でおっ始めるなんて、頭どうかしてるだろ。

 そう思ったのは、もちろん俺だけじゃないようで、



「し、知らなかった……。二人がそんな関係だったなんて……。でも、なんでわざわざ僕の部屋で、しかも無断でエッチしてんだよ!」

「そりゃお前に見せつけるためだよ。なあ睦月?」

「僕に見せつける? どういう意味さ?」

「………………」

「黙ってないでなんか言ってくれよ! 僕達、幼馴染だろ!?」



【え! パン君の弟と睦月ちゃんとかいう女の子って幼馴染の関係だったん!?】

【幼馴染の部屋で彼氏とエッチとか、マジでどんな神経してんだwww】



 大樹の発言に、コメントも盛り上がる盛り上がる!

 いいぞ! その調子でどんどん修羅場ってくれ! その方が面白いから!



「何とか言ってくれよ! なあ睦月!」

「……大ちゃんがいけないんだよ」

「僕……? なんで僕が……?」



「だって──だって大ちゃんが、なかなか告白してくれないから!」



 睦月ちゃんの大声に、大樹は何も言えず推し黙る。

 なにぶん顔は見えないのでどういう表情を浮かべているかはわからないが、きっとかなり困惑しているに違いない。

 それと同時にコメント欄も、



【何それ?】

【どゆこと???】



 と疑問系で溢れ返っていた。それは俺も是非とも知りたいところだ。

 少しして、大樹は先ほどよりも威勢の欠いた口調で声を発した。




「告白してくれないって、どういう意味……?」

「……今さらしらばっくれないでよ。大ちゃん、私の事好きなんでしょ? さすがにわかるよ。だって少し前から見るからに態度がおかしかったもん」



 なんだ。睦月ちゃんも知っていたのか。

 大樹が素っ気ない態度ばかり取るから、嫌われているとか変な勘違いをしてなきゃいいけどと心配していたが、ちゃんと気付いていたようだ。



「私もね、大ちゃんの事が好きだったの。小さい頃からずっと。だから、いつか私の想いが届いて大ちゃんから告白してくれるのをずっと待ってた。それなのに、大ちゃんは全然告白してくれなかった! やっと両想いになれたと思ったのに! ねぇどうして? どうしてなの大ちゃん!」

「それは……今まで幼馴染として接していたから、どう告白したらいいかわからなくて……。

 そ、それよりも、そっちこそどうなのさ! 僕の事を好きって言っておいて、三島とそんな関係になるなんて!」

「辛かったの! 寂しかったの! 大ちゃんがなかなか告白してくれなかったから!」

「だからって、普通僕の部屋でエッチする!? しかもゴ、ゴム無しって、なに考えてんだよ!」

「あー。それなら大丈夫。睦月ならもう孕んでっから」



 と。

 三島が事もなげに質問に答えた。

 つーか孕んでるって、三島の子を妊娠してるって事!?

 まだ中学生なのにか!?


「嘘……。嘘だって言ってよ睦月……」

「本当だよ……。まだ四週目だからそれほどお腹は出てないけど、三島君の子を妊娠しちゃった……」

「なんで……なんでそんな事に……」

「大ちゃんがいけないんだよ! 大ちゃんが意気地なしなせいで……!」

「ぼ、僕のせいにするなよ! 三島と寝たのは、あくまでも睦月の意思だろ!」

「いいねいいねー。最高のシチュエーションじゃん。なんか二人のやり取り見てたら興奮してきたわー」



 と、またしても三島が口を挟んできた。しかもさも愉快げに。

 それと同時に、ベッドも軋みを上げ始め──



「えっ。み、三島くん……? そんな激しい動かれたら、イ、イっちゃう……!」

「お、奇遇だなー。実はオレもそろそろイキそうなんだわ」

「ま、待って! ちゃんと外に出してくれるよね!?」

「別にいいだろ。もう妊娠してんだから、このまま中に出しても」

「!? や、やめて! 話と違う! 大ちゃんにエッチするところだけを見せるんじゃなかったの!?」

「いいんだよ! 大樹に絶望してほしかったんだろ!? ちょうどいいじゃんか!」

「ダメぇ! 赤ちゃんにかかっちゃう……っ!」

「うるせぇ! おら出すぞ! 睦月の子宮にオレの子種をぶち撒けてやる!」

「いやああああああああああ!!!」



 睦月ちゃんの絶叫と共に、ベッドもこれまで以上にギシギシと悲鳴を上げる。

 そして──



「はあ、はあ……。あ〜、気持ちよかった〜」

「うぅ……ひっく、ひっく……」



 睦月ちゃんの泣き声が聞こえる。きっとショックで泣いているのだろう。

 さすがにこれには視聴者さんもドン引きしてしまっただろうかと、おそるおそるコメントを確認してみると、



【中◯しイッタ────!】

【え! マジで生で出したん!?】

【胎児にぶっ掛けるとか何考えてんだ……いいぞもっとやれ!】



 思いの外、割と好評だった。

 さすがは俺の動画のファンだな。よく訓練されている(後方師匠面)。

 ていうか、俺もついうっかり無言になるほど興奮しちゃったよ。しかも腹ボテセックスとか、こりゃ勃起もんですわ。

 NTRなんて全然興味ない分野だと思っていたけれど、自分に関係ない事なら意外と楽しめるもんなんだなあ。

 なんて、新たな世界の扉を開いていると、ぼそっと睦月ちゃんが何かを呟いていた。

 何を言っているのか確認するため、スマホと一緒に壁に耳を当てて睦月ちゃんの声を拾ってみる。



「大ちゃんのせいだよ……」



 睦月ちゃんがぼそりと言う。

 嗚咽混じりながら、怨嗟に満ち満ちた声音で。



「全部大ちゃんのせいだよ! 三島君と寝ちゃったのも赤ちゃんが出来たのも、全部全部大ちゃんのせいなんだから!!」



【いや、さすがにそれは無理があるwww】

【好きな男がいるのに他の男に抱かれた上、妊娠まで弟君のせいって……】

【いっそ清々しいくらいのクズだなw】



 うん。俺もそう思う。

 まさか睦月ちゃんがこんな子だったなんてなあ。昔はもっと礼儀正しくて清楚な子だったのに、寂しいからって別の男に抱かれたあげく、腹いせに大樹にNTRシーンを見せつけるなんて。

 なんつーか、恋は人をおかしくさせるって本当の事だったんだなあ。

 けど、そんな八つ当たりの言葉でも大樹にとってよほどショックだったようで、何も言い返さないまま部屋から飛び出す音が聞こえた。

「弟が下に行ったみたいなんで、ちょっと追いかけてみまーす」

 そう言ってスマホを持ったあと、抜き足差し足で階段を下りる俺。足音からいって、おそらくリビングだな。

 そうしてリビングに行ってみると、ソファに顔を埋めながら泣いている大樹がいた。

「いましたー。今、リビングでひとり泣いてます。よほどショックだったんでしょう」



【そりゃそうよ。好きな子が知り合いに寝取られんだから】

【しかも中◯しだもんな】

【パン君、お兄さんなんだから慰めてあげたら?】



 弟から見えないよう、廊下側から小声で撮影する俺に、上記のようなコメントが流れてくる。

 そんな視聴者のコメントに、俺は肩を竦めて、

「いや、あれは弟も悪いでしょー。あそこで三島を殴りでもしたら、幼馴染の子も惚れ直したかもしれないのに。

 それに俺、何度も忠告しましたよ? あいつが幼馴染の子に惚れてるのを前々から知っていたから、何度も告白した方がいいって。それなのにあいつ、いつまでもウジウジと悩んでさー」



【あー。それは確かに弟君も悪いな】

【さっさと告白してたら、寝取られずに済んだかもしれないのに】

【ま、今回は良い薬になると思って温かく見守ってやった方がいいかもしれんな】

【いやでもその薬、ちょっと効きすぎとちゃう?】

【弟君、今回の件で人間不信になりそう……】



 うっ。それは確かに一理ある……。

 しかし。しかし、だ。


「でも、弟の寝取られ現場を生配信しているような奴に慰められても神経を逆撫でさせるだけじゃないですかね?」



【それ、自分で言っちゃうんだwww】

【それはそうなんだけどもさwwwww】

【何もバカ正直に撮影してた事を教える必要はないから笑】

【今はとりあえず、弟君のメンタルをケアする事だけを考えてあげなよ。一生残るような深い傷になる前にさ】



 ふむ。それもそうか。

 大樹とは決して仲が良い関係とはいえないけど、これでも血の繋がった兄弟だ。

 そんな弟が人間不信に陥って、ドン底の人生を送る姿を見るのは、さすがに忍びない。

「しょうがないか……」

 やれやれ、と動画の配信をいったんやめて、俺はソファで咽び泣いている弟にひっそり歩み寄る。



 とりあえず、あとで大樹の好きな物でも買ってやるとしよう。


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