第25話 復讐心
「リナラ、リナラ。あの畜生ども。何だ、分離実験って…既に死んでいる?私は…くそっ!!」
私の目には次々と眩暈と吐き気がするような情報が雪崩れ込んだ。リナラのことを深堀すればするほど、怒りと絶望が湧いてくる。もう、再び会うことは出来ないのだろうと思ってはいた。それでも、心のどこかで…。死んだに決まったなど、思えるはずがない。それが事実だと知った瞬間、心が壊れてしまいそうだった。
「何を騒いで…カラー、少しだけ落ち着け。何を知った?」
机を叩く騒音に気づき、コットは起き上がってきた。彼とはそこそこの仲ではあるが、娘が居なくなった詳細を語ったことはない。ある程度目を通す段階でも、発見しなかったようだ。
「リナラがどこに行ったのかを知りたくて仕方なかった。それを知った。奴らは、私からリナラを奪って、実験の材料にしやがった!」
どこかで、有りもしない奇跡が起こって再開する。そんな米粒程の希望すら打ち砕かれた。知らない方が良かったか。私の生きる意味はもう、復讐だけか。
「落ち着けってのは無理だろうが、抑えろ。もうあいつらは足が付いたんだ。情報網を辿って行けば、クラウズ・スレデムにも繋がる。その時に手を血で染めて、気持ちを解放しろ。躍起になるようなことは決してするな。」
私は下顎を掴まれ睨まれた。控えめな性格だと思っていたがそうではないらしい。きっとこれは、私の性格を知っての行為だった。だが、私も娘を奪われたのだ。
「解っている!突っ込んでいくようなことはしない。それでも、生きる希望を潰されたんだ!リナラは、私にとって唯一の…幸福だったんだ!」
冷静になれと言うのは無理がある。今でも覚えている。あのあどけない足取りと、誰に似たかも分からない親切な眼差しを。
「僕だって、失ったものはある。ノマさんがどうなったか知ってるか?遺体を見たか?アレはもう、拷問の域を超えてた。あいつらがぶっ潰さなきゃいけない存在だっていうのははなから分かってんだよ!今まで抑えてきたんだ…頼むよ、厳格なカラーで居てくれよ。僕には君が眩しかった。今でもだ。」
コットの言葉で、自分が映写された。強く、威厳があり、苦難をものともしない。それが理想像で、そう成ろうとしていた。一時期は、本当に成っていた。私はそれが真の自分だと思い込んだ。やはり弱いのか、私は。プライドすら砕けそうだったが、怒りがストッパーの役割を担っていた。
「ああ、そうだった…ケッペルが見たらどう思うか…。少し落ち着いた。ところでノマさんは、公になってないだろ?直ぐに除隊したお前がなぜ知っている。」
私は掴む手をゆっくりと払いのけ、話題を変えた。娘のことを考えてばかりだと、頭がどうにかなってしまう。
「僕は裏を掻こうと企んでたからな。そしたら見せしめに色々と見せられた。とでも言っておこう。顔を覚えられてないのが助かった。スケープゴートが役に立ったのさ。」
コットもノマを厚く信頼していた一人だった。私と違い幹部ではなかったが、私と今でも関わり、敬語も使っていないことからも彼の立ち位置はよく分かるだろう。
「ひでえ。組員じゃないだろうな?」
お互い過去を探り合うのはやめた方が良いかもしれない。この世界で生き残るには、親切さだけではやっていけない。
「まさか。まあ、どうでも良い。本題に戻ろう。奴らの実験データは僕も少し目を通した。まずは研究分野から特定しようか。今にあいつらの尻尾を掴むぞ。」
コットは机の上のペンを取り、回した。私よりも冷静だな。事情が事情とは言え、少し恥ずかしくなってくる。
「あまり時間は無いぞ。ソム区もガスで沈んだ。」
私たちが動いている間にも、所々であいつらは猛威を振るい、進行を進めていた。今四つ程の区が壊滅し、どれも勢力がある組織が居た場所だった。内、二つは返り討ちにあっている。この街全体が怯えだしている。J・ジャスムが動きを見せるのも時間の問題だ。そうなれば恐らく、局所では勝てるだろうが潰れることになるだろう。ガスに対しても、解決法を持ち合わせていない。
「そうだな。今日は帰りな。仲間の手も借りてみる。また来てくれ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます