第23話 深部
暗号と聞き、解読が必要と考えた私はコットの元を訪ねた。私のある種のひらめきは、鳩が呆然とそこに留まっておらず、伝える役目そのものを担っているように思えたことに由来していた。二度手間ではあるが現地に赴き、何か思うことはないかという確認を彼と共に行った。思い違いでないことも確かなものにしておきたかった。
「器用だな。ここにあったわけだ。でもここじゃない。言ってる意味、解る?」
ビクターを暫く見て、コットは暗号が解けたらしかった。全くもって分からない。
「解るか。なんなんだ?」
私の目にはビクターが先ほどと同じようにこの場所に誘い込まれたことしか見えなかった。やはりそれに意味があったらしい。
「言わば、ずらしだよ。地図で見た時には緯度経度ってのがあるだろ?例えばこれを二進法とかに直して、他のものに当てはめる。これは全くの適当だけど、一つ一つの挙動に数字があるのならその数字で別の場所を示せる。って感じ?実際にはもっと複雑だよ。だけど、この場所にもあったはずだ。そもそもこんな意味の分からないことをするのは、拠点が何らかの理由で一気に変わったとしか思えないのさ。「この場所」でしか示せないのは余りに面倒だろ?」
暗号は組み換えだと良く言うが、信憑性に欠けると思ってしまった。いや、私に解るように説明してるから頓珍漢な部分があるのだろうが、何を割り出せたのかが理解できなかった。
「それで、その場所は?もう無いのだろうか。」
また暗中模索だろうか。正直、これが解けないのなら振り出しに戻る。進んだとて、フィアーズの弱点にたどり着けるとは限らない。
「残滓はあると思う。極秘データくらいは見つけてやるから安心しろ。」
どこまでを理解しているのかコットは語らなかった。不適な笑みを浮かべ、元の場所に戻るため歩みを進めだした。
帰ってから、4,5時間彼はカタカタとパソコンをいじっていた。途中、ため息と共に頭を掻きむしり、頭を悩ませていたので無理だろうと私は思っていた。私もできる事はしたかったが、知識がない上、コットは自身のこだわりが強すぎるので何もしないのがむしろ良いことだった。私も疲れていた。だからソファに座ってあいつの仕事を見ていたが、いつの間にかうとうとして、瞼がいつの間にか閉じていた。
「カラー?カラー、起きろ。」
完全に意識が飛んで眠っていた。コットは私を揺らし起こした。今は朝だろうか、夜だろうか。ここは日が差し込まないため情報が得られない。自分がどれだけ眠っていたかもはっきりしなかった。
「ああ、すまん。終わったのか?」
思っていたよりも体は疲れていたようで、寝起きは体が重かった。
「大体な。別拠点をドローンを使って内部を見てきた。有害物質に満たされて、朽ちて到底人が立ち入れる場所でもなかったな。得られる情報も殆ど無かった…ってな、滅茶苦茶固いサーバーを突破したら洗いざらい教えてくれたぞ。まあ、見てみろ。」
私はパソコンの前まで行き、そこの椅子に座らされ、コットが横からそれを操作して情報を見せてくれた。
「まずはドローンの映像だ。画面が激しく濁ってるが、この有様だという知見になるだろ?…で、ここが独房みたいになっていて…この先が第一研究室、普通に解剖とかしてたな。脳の実験とかもしてた。かなり分野は広い…これが保管室…」
とリアルタイムのドローンが何処かの施設内を映して情報を知らせてくれた。研究室には様々な器具とあまり想像したくない跡が残っていて、フィアーズの関連組織だということがそれだけで伝わる内容だった。何人もの人間を攫って収容し、実験に使ったようだ。タンクのネームプレートは掠れ切っていたが、人が一人丸々入ってもおかしくはない大きさをしていた。
「これは…酷いな。あ、そこで曲がってみてくれ。薬品室、一応見ておこう。」
ドローンはかなり小型のようで、施設を隅々まで探索することができた。私は一つでも情報が欲しく、この様に指示した。
「まだ残ってるのもある。おや、知らないものもあるな。流石に残ってないが…化学式が途中まで…あのガスか…いや、情報が足りない。解読までは無理だ。恐らく開発途中のものだ。あいつらの秘密とやらが意外な所から知れるかもしれないな。」
コットは私が大きく反応し、喜びに似たものを見せたため、期待をさせ過ぎないように言葉を返した。彼自身はドローンの試運転をしていたが、まだじっくりと内部を見て回っていないそうだった。
「まあまあ、遠足はこれくらいにしといて…気になるのは奴らが何をしてたか。だよな?全貌まで見えないが深入りはできたぞ。これが研究資料だ。フィアーズ、その強さは兵器開発にあるかも。」
研究日誌 67「新人類」
フィアーズ構成員、「ツィーグ」、「ドゥイェン」、「ゼッシ」は彼らの中でも特異な存在であり、(以後超越者と記載)驚くべき身体、戦闘能力は正に新人類と呼ぶべき存在である。彼らは何者かによって生み出され、その力を得たがその技術は失われてしまった。故に、こちらの研究も進め、人間の可能性を深堀していく必要が出てきた。
研究日誌 109「兵器」
先日、新兵器「アイベン」の開発に成功したが、意外なことに超越者との関連性があることが発見された。彼らの内側にある何かが、アイベンが人の内部を変えて殺すという事に同じくするものがあった。図らずしも彼らの秘密が紐解けるかもしれない。しかし、逆を言えば彼らに対するアンチメタが存在することが証明されたことでもあるため、その要因と対策を模索していくのが今後の課題だ。
などなど、こいつらの興味が支配に向いていることも知ることができた。しかしながら、直接的にあいつらを無力化するような記述はあらず、あいつらがアイベンと称するガスの元が鍵になるということだけがわかった。解毒は不可能ではないはずだ。この街をあのガスで汚染し、侵略する目論見なら奴らの穴を一つ増やし、叩き潰すことも可能なのではないか。
「後は勝手に見てくれ。纏めといたから。僕は休むよ。終わったら落としといて。」
私が情報収集に役立てられると考えたのを知り、コットは私の肩を叩き、去って行った。あまり機械には慣れていないが多少の操作なら問題ない。私は長らく、情報の海を泳いだ。取捨選択されたものが並んでいたわけではなく不必要なものまで多くあった。
「絞っていけば作戦が出来上がりそうだ。エーツの勘は鋭いな。」
暗闇からの一歩としては上出来だった。アイベン、あれを解決できなくとも、性質を知っていれば武器にもなる。フィアーズだって人的要因によって作り出された存在だと知り、安心できる部分があった。時間を要すれば、コットも真相に辿り着くことになるだろう。
「被検体リスト、出生もバラバラだ。やはり鬼畜だな…なんだ、これは…嘘だろ?」
ザっと実験に使われた人間のリストをスクロールしていた。ある地点で私の手がピタリと止まり、衝撃的な内容を目にすることとなった。
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