第22話 暗号
「繋がりがあるだろ?奴らについて知っていることを話せ。この施設も援助を貰ってるはずだ。」
今宵、私たちは一つの組織を丸々潰した。エーツが研究云々と言っていたので情報を絞り探っていた所、クラウズ・スレデムとの談合があったと噂を聞き、辿ってみるとこの研究所に行き着いた。ここも相当にブラックな内容のものを扱っており、奴らが好みそうな手合いだった。ここで暴れて更に情報を得ようとした所、フィアーズのプロフィールも見つかったため黒だと言うのは明白だった。
「知らない。奴らの管理してた研究施設のボスと支援し合っていただけだ。談合も、ただの補給物資についてのことだ。クラウズ・スレデムがどこにいるのか、神に誓っても分からない。」
既に部屋は血の海だった。あちらも銃を持っていて、激しい戦闘があった。研究施設とは言え私のような、ならず者傭兵や組織の手も借り、守りは固められていた。ドゥイェンと相手した時の方がよっぽど苦しかったとは末恐ろしい。
「じゃあ、その研究施設について教えて頂戴?どこにあって、何をしてたの?」
目の前に居るのはこの施設の親玉。研究員でもあった。裏は知っていそうだし、ここまで固める理由は人道的ではない研究を大っぴらにしないためだけではないのはこちらも知っている。
「前は「ギハイド区」にあった。しかし、ある時一瞬にして消えたんだ。もう実験の痕跡も何も残ってない。そこに居た奴しか分からないだろう。いやいや、実験についてはある程度解るぞ?薬の臨床実験や、人体の限界を試していた。動物も使ったりしてたな。その辺はこっちと同じだ。ガスもその産物だろう。後は本当に知らないんだ。我々も利用されている。」
自分の死を悟り、目の前の人間はべらべらと説明してくれた。この場所から直接クラウズ・スレデムに行き着くことは無さそうだ。しかし、痕跡がないか。また後退の予感だった。
「他に知ってることは?ないのね、じゃあ…。」
私は拳銃を至近距離で発砲し、命を奪った。こういうのは生き残っていると後々痛い目に見る。
「ヴェミネ、お前冷酷だな。」
躊躇のない私にカラーは引いていたが、納得はいっているようだった。
「ギハイド区に行ってみよう。J・ジャスムと鉢合わせなければ良いが。」
痕跡はなくとも、昔を知っている人間ならば研究所の場所くらいは割り出せるだろう。それが何になるかは分からないが。J・ジャスムがあるのは隣町で、変な動きを見せれば戦闘にもなりかねないため注意が必要だった。
私たちはギハイド区に暫く身を置き、情報を収集したが何も得られなかった。ものの見事に誰も知らないで、揺さぶりをかけても無駄だった。聞き込みだけでなく、現地を回って研究所がある可能性を探したが、これもなかった。四日間隅から調べていた。事態が動いたのは、ビクターの行動によってだった。
「もう帰りましょ?これ以上は無駄よ…ビクター?どこ行くの?」
急に飛び立ち、ある方向を目指し始めた。前のように手がかりを掴んだのか。だが、ビクターは何もない所で止まり、振り返った。
「なんだ?何か訴えたいようだが。」
オーシャは辺りを慎重に見渡したが、考察になるようなものは一つも無かった。故に、気にすることではなかったのかも。という表情が彼に浮かび始めた。
「確か、以前封鎖されてたな…直ぐそこの角、元雑居ビルの掃討作戦時に足止めを食らったのを覚えている。ただの工事かと思ってたが、まさかな。」
こんな世でも街を、区を良くしようという試みは随時見られる。工事会社のようなものは存在しないが、公にはならない封鎖は珍しくない。組織の名前とある程度の目的を掲げれば干渉しようとする者は少ないし、J・ジャスムも怪しいと感じれば動いていただろう。ビクターの行動に意味があるとすれば、整備とは違う目的があったと考えるのも候補に入れるべきなのだろう。
「ここが施設そのものだったって可能性は?」
ひとまず思い当たる節を上げてみた。ビクターがとどまっているのは建物の残骸などではなく、道のど真ん中だった。
「無くはないな。フィアーズ?だったけか?そいつらが居た時代ってんなら建ってても可笑しくない。問題はいつ無くなったのか、そしてカラーの言う整備が関連していたとしたら、最近というのはまず有り得ない。あの研究者は知っていた。だが、詳細を知らない…お前の鳩が堂々としているのには理由があるようにも思えてきた。」
オーシャは目を細め、ビクターの位置まで歩いて行った。他の建物にも目を向け、可能性を絞っていた。既に私たちは内部に赴き、怪しい所は調べつくしていた。何かが得られるとは思えなかった。
「地下か…いや、ここの地盤じゃ研究所は無理だな。なあ、ヴェミネ。あの時代、何かを隠す仕事ってのが無かったか?ほら、財産だけでなく、人、倉庫。専門的に見ても、見つからないから仕事として成り立ってた。引き継いだとしたら、あり得る。」
カラーの話にはピンときた。昔は仕事が異質な特技を持っていたものも多くあった。今は殆どが失われ、代わりにフォビーのような未知に近いテクノロジーを持った人間が多く存在する。
「言いたいことは分かる。だけど、あくまで個人の所有するものが限界だったじゃない。あるとすれば…そうか。この辺りにあったわ、間違いない。暗号ね。」
私は運命に貫かれ、笑みがこぼれた。私はいつも堅実に立ちまわる鳩を指さし、そう言った。異質なものでいうと、昔、私たちの知る伝書鳩と言えば単に手紙を送る存在ではなく、鳩そのものに暗号を刻むようなことがあった。今回のように必ずその場所の近くを通ると決められた位置に留まる躾をすれば、送られた側以外には暗号化され分からななくなる。かなり特殊なもので、まず常人はやらないため稀中の稀だ。今の時代、そんな風に躾けられる奴は居ないし、やろうともしない。しかし、何処から来て、今までのこいつの行動は何だったのかまでは説明できない。だから私も今の今まで思い出せなかった。もっと深い事情がありそうだった。今わかるのは、こいつが確かに伝えている。ということだけだ。
「こいつどこで拾って来たんだよ。暗号か。その仮定が正しいのなら、あいつの言った通り、痕跡も何もないってことだ。奴らの弱点、普通に戦って見つけるしかないのか。五里霧中だな。」
ビクターはただ伝えるだけだった。鍵を開ける暗号が既にあるが、その暗号が何か分からない。もしくはそもそも鍵穴がない状態だ。大抵の場合、暗号は解くことができれば後の手順は複雑にしない。私たちは鏡に映った扉の前に立たせされ、立ち往生しているのだ。
「最近の奴でも内容を把握していた。施設は無くともデータくらいは残っているだろう。お前…一辺倒か。いや、そうでもないかもしれん。」
カラーは何かに気づいたようで片手で持ち上げじっと鳩と向かい合ってしばらく動かなかった。何を恋人みたいに見つめ合っているのかしらと私目線では思った。ビクターはその後またカラーの元を離れ、さっきと同じ位置に留まった。
「これはあいつの出番だな。何となく解りそうだ。コットの元に行ってくる。分担しよう。オーシャはこの区と関わりそうな区を探してくれ。ヴェミネは…少し休め。手の傷も塞がってないだろ。それと、こいつを少し借りるぞ。」
続けてカラーは私たちに話した。何かが解ったようだ。オーシャはこれ見よがしに自分に親指を刺し、重傷を負っていたということを黙って主張したが、無視されてため息と共に頷いた。とは言っても、私にもやらなくてはいけないこともある。自分で探せと言う意味でもあるのだろう。私たちは分散し、行動を分けることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます