第21話 不定な進路

「ここがアジトよ。そいつがエーツ。ロボットだけど高度な会話が可能よ。」

 私はカラーを地下に招き入れ、新たな仲間とした。あの施設から出ること自体は容易で、無駄な戦闘は起こらず脱出できた。お互い酷い怪我を負っていたが、残党くらいなら相手ができていた。既に治療も済ませた。カラーが仲間だと言っていた組織のアジトまで足を運ぶと、丁重に治療を施してくれた。ボスを失ったのは遺憾だが、銃を幾つか分配したことで彼らも報われたようだ。

「…はっ!お、おかえりなさい。そちらの…方は?」

 見慣れない少し強面の人間が入って来たので少し動揺したのか、エーツの言葉の切れが悪かった。そこまで精巧に作られているとは。チェットがほぼ人だと言っていたのが伝わった。

「カラーだ。ほう、凄いな。鉄の塊が喋ってる。」

 彼女は興味を持ったのか、近づいて行ってじろじろと見回していた。あんな機械が見られるのはここくらいだ。どこかに似たようなものはあるだろうが、果たしてフォビーの技術を上回っているかな。

「えっと、カラーさん?そんなに見ないでください。それと、よろしくお願いいたします。」

 人らしさを見せるだけ、カラーは関心を持ち、早くも機械だということに疑問を持っているような顔をしていた。

「今は、そいつと、アンタと私。それからビクター。振り出しに戻っちゃたわね。」

 私は鳩を手に乗せ、カラーに見せた。なんだかんだで一番長いこと居るのはこいつか。本当に何処から来たんだろう。あの日、なぜあんなにも弱っていたのか。それは未だに分からない。

「俺のことも忘れて貰っちゃ困るぜ。」

 その時、私たちの後ろの扉が開き、男が入って来た。オーシャだ。どうやって生き残ったのか。胸のあたりには包帯を巻きつけていた。

「オーシャ!?お前、化けて出たのか?」

 半分、冗談だが、半分本気だった。戦闘の前後で目を向ける機会は何度かあったが、その時はピクリとも動かなかった。

「んなわけあるか。仮死状態だっただけだ。生き残るってなら味方も騙すってな。言っておくが、戦える状態ではなかったから恨むなよ?して、そこの、どこかで…あっ、J・ジャスム…カラーか?なんでそんなお偉いさんがここに?」

 彼女は腐っても畏怖を抱く組織の上官だった人間だ。顔も広く、一目見てスターのような羨望や恐れを向けられることは多いのだろう。カラーが居るなんて知らなかった頃は、目を付けられたら終わりだと認識していたくらいだ。

「もう脱退した。あまりその組織を口にせんでくれ。ヴェミネとは、知じ…旧友でな。同じ目的があったから組むことになった。オーシャ。名前は既に伺っているぞ。よろしく頼む。」

 追い出されたという汚名は彼女が一番気にしてそうだ。流石の私も、心の傷を突っついたりはしようと思わない。

「それはそれは…何とも頼もしい。現実味が増してきたな。」

 事情を知らないためか、笑顔でオーシャは返していた。こいつには詳細は説明しない方が良いかもしれない。

「自己紹介はその辺で…聞いてたかもしれないけど、キラーゴーストの正体が分かった。名はクラウズ・スレデム。私たちが侵入した組織も奴らの一部だったみたい。大本は特定できてないけど、大体の目的は分かったわ。簡単に言うと支配ね。黄金時代に成せなかったためなのか、この街を我がものとして自分たちの時代を築こうとしてる。私たちが街を背負う覚悟と釣り合ってったってわけね。私の推測だけど、まずガスで端くれを淘汰して、武力で抗う力を根絶する。ってのがやり方だと思うわ。どっちも対策が必須よ。ガスマスクがあるからって安心できないわ。」

 戦う準備はまだまだだ。銃を手に入れ、如何に奴らを潰すか。と言うのが肝心だ。私の見立てではクラウズ・スレデムはタコ足状になっていて、その本体がフィアーズとするならば、そこが破綻すれば自然消滅する。要は街を覆う危機と戦うよりも、大きな組織を一つ潰せば街は守れるだろうという目算だ。いや、それ以上の組織で既に街が奴らで染まっているなら勝ち目は皆無だ。

「俺も気絶してたから聞いてなかった。にしても、バケモンみたいな奴だった。気配があったのに見えなかった。ヴェミネのとこが壊滅したのが良く分かったよ。あれは鬼門だぞ。」

 そうだ。この戦いはフィアーズとの決着でもある。あいつら以上に実力を持っている奴らなど居ない。言わばラスボスか。脳筋でもあるまいし、勝算があったとは言えあのような戦い方は避けなければならない。

「弱点を探ろう。それしかない。今までできなかったことをしようとは言いたくないが、解決案が浮かばん。」

 カラーの顔は険しかった。私は早々にレティミストを抜け駆けしたから後の事はあまり知らない。でも、カラーが娘を失ったという事だけは知っていた。自分たちの敵が不可能な壁であるという事実は、彼女にとって何よりも残酷なことだろう。

「…フィアーズのボスは、以前他の科学に特化した組織を束ねていたはずです。一つは、ガスです。未だ分析できないというのは無理があります。もう一つは、施設が存在しました。場所は不定ですが確実に良くないことを行っていました…。人を超越した何かがあるのなら、その秘密もあるのではないですか?」

 エーツはこんな時、いつも鶴の一声を上げてくれる存在だったがその発言は奇妙だった。まだ残存データに紐解ける情報があったという事なのか。

「エーツ、あんたなんでそんなこと知ってるの?」

 発言は推測に似ていたが、もう一つの理由が不可解だった。それもただの推測?何か良くないことをしていたことと強さを結び付けるところまで行き着くだろうか。

「…勘です。また場所が解りそうならお教えしますね。」

 今日のエーツは調子が悪いようだ。機械らしさも抜けてきたため私はそっとしておくことにした。

「じゃあ、とりあえずは痕跡をまた集めようか。銃も手に入ったし、行けなかった所にも行けるだろうしな。」

 オーシャもまだやる気みたいだ。全くため息が出る。いつまで経っても目標は雲の上だ。奪還と言う二文字が見えてこない。しかし、もうじき変わる事になる。逆転のための駒は知らずの内に揃ってきていた。

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