第17話 厄介

 暫くの間、準備期間を要した。爆弾の作り方を教えてもらい、エーツに製図をしてもらっていた。巡回兵の数を数え、なるべく戦闘が起きないルートや作戦を練っていった。 

 作戦当日の夜、私とオーシャは裏手の、兵士の通りが少ない鉄扉に小型爆弾を仕掛けて起爆した。そのまま建物内部に侵入し、武器庫を目指した。全く見つからずにそこまで行くことは不可能に近く、どこかで探知され戦闘が起きることは覚悟の上だった。夜なら増援は出づらく、その戦闘を振り切ってしまえば、私とオーシャの腕なら武器を持って逃走することは実現できる範囲だった。

 廊下を行った先は小部屋があり、そこを通過しなくてはいけなくなった。他に道と言う道はなく、ここに兵士たちがゲートのような役割を持たせているのは一目瞭然だ。私たちは戦いに備えてドアを蹴破り、中に入った。

「やーやー、たのもー。」

 椅子に座って談話していた兵士たちが驚き、一斉にこちらを見た。私たちが敵だと解るや否や、銃を取り出し私たちに向けた。幸い、この部屋は柱もあり、テーブルもあるので戦いようによっては有利に運ばせることができそうだった。私とオーシャは別れて直ぐに柱の陰に移動し、相手の出方を待った。

「敵とのコンタクトが早すぎるな。これじゃあ、辿り着けるかどうか。」

 オーシャは不服そうに弓を構えていた。私は飛び道具の類は使えないが、彼は可能だ。とはいっても人数的にもそれを火力として考えるのは余りに粗末だろう。直ぐに戦闘は始まり、銃弾が柱に何発も当たった。警報装置がけたたましくなり、見事なステルスは机上の空論と化した。

 私は対人用の爆弾を奴らのど真ん中に投げ入れ、散らせた。爆弾は二人の負傷者を生んだが、死には至っていなかった。すかさず、オーシャは遮蔽の隙間を縫う兵士の一人を射抜いて仕留めた。こんな時代に弓なんかつかってるやつは格が違う。私もテーブルを押し倒して遮蔽にし、先の柱への経由点にして滑るように移動した。私がテーブルに身を隠すのを見た兵士が銃を撃ち、何発か貫通したが、掠るだけで済んだ。私がそこに居たのはほんの一瞬で、構えて撃つまでに移動したからだ。そしてその柱の兵士の腹部にナイフを刺し、そいつを人質にして柱から体を出した。

 それに気を取られた一人をオーシャが射抜いて絶命させ、私も人質の拳銃を引き抜いて二発撃ちこんで一人を倒した。するとここに残るは一人になっていた。そうなれば、勝ちだ。オーシャが近づいて銃を払い、首を折って無力化した。人質は締め落とし、戦闘はひとまず終わった。

「後ろから来るな。選りすぐりしてる時間はない。それだけ持っていくぞ。」

 こいつらの銃を奪っていきたかったが、足音は既に聞こえており、この先でそれらの足止めを手配することの方が優先だった。私たちは扉に見え見えのブービートラップを仕掛け、扉を塞いだ。奴らに知識があるのなら処理に時間を追われ、迂回しなくてはいけなくなるだろう。そうでないなら、数は減らせる。

 部屋を通過した後は行き先が幾つかあり、辿り着けるルートも然りだったので、兵力は分散していた。小規模の戦闘なら、特段問題はないため恐らくさっきの戦闘が私たちにとっての一番の山場だった。

 廊下などでも戦闘が起き、戦いには勝利できていたものの、無線を使われ追われることが続いたので武器の補充はできなかった。あいつらのマシンガンを奪い、使うことができたならばイージーウィンを納められたのに。私は拳銃でもなんとか応戦し、数を減らせていた。自分がここまで戦えることにも、不思議な感情が生まれるくらいだ。カラーが根深い表情を私に向けたのを思い出していた。努力だけではない才能。彼女は私にそれを強く感じ、苦しんだのだろう。

「はあ、撒いた?弾がなくなっちゃったわ。これはもう使えないわね。」 

 深部になるにつれ構造は複雑になっていったため、追手から逃れて警報音を除く静かな暇が生まれた。マガジンだけを奪うというのも難しそうなので、私は弾切れに成った銃を投げ捨てた。重いし。

「案外来れるもんだな。これで飯を食ってもいいくらい順調だ。そろそろか、地図によればこの棟の最奥に武器庫はある。」

 目的の場所は目と鼻の先だった。後は武器庫の扉を壊し、潜入して奪うだけだ。既に逃走ルートは確保しており、行きはよいよい帰りが怖いという事態は避けられそうだった。

「離れて、爆破する。」 

 武器庫の扉は板金で固められた強固なものだったが、エーツが作った爆弾はそれを上回る破壊力を有していた。しかし、あくまで素人が作った物なのでダイナマイトのように扉付近の壁を吹き飛ばしながら開くこととなった。扉の鍵は開いたが、扉は無事なままだった。これは都合が良い。足止めにも使えそうだから。

「思ったより規模は大きいな。銃もたんまりではないが、俺らで事足りる量は十分にある。」

 中は見上げる程に高い棚が中央に二つあり、部屋の外周は大きなコンテナが積まれて囲われていた。いつでも利用できるようにか、少しだけ照明が照り様相を見ることができた。棚にある箱の中には軍用の銃が幾つかあるようで、これもピッキングを行うことで開けることはできそうだった。お目当てではないが、銃だけでなく、軍的に実用性があるものも保管されている。

「待て、誰かいるぞ。くっ…」

 少し歩みを進めていたところオーシャが何者かの急襲に合い、棚に凭れ掛かる形でその場に倒れた。床に血が流れ、彼は俯き横になった。死んでしまったのか。

「うーん、タイミングがいいねえ。運命的ではないかあ。」

 この高い棚の上にオーシャを仕留めた奴がおり、私たちを見下ろしていた。銃声は無かった。何で彼を無力化したのか確認はできなかった。そいつは器用に棚と棚を経由して段々に降りてきて、私の前に姿を表した。

「なんで…ここに…。」

 こいつがフィアーズ武闘派三人衆の一郭「ドゥイェン」。こんな場所の護衛を任されているという感じではなかった。こいつも武器を取りに来たのか。頭が真っ白になった。私は強大な敵のために準備をしているつもりが、それを目の前にした途端、恐怖で固まってしまった。

「ここまで来れた君にー、教えてあげよう。キラーゴーストが何なのか。なあに、もう明かすようなことさ。先着チケットだと思ってよ。我らは、「クラウズ・スレデム」。この街を統治する至高の存在だ。こいつらもその一部として働いてもらっていた。だが、弱い。あまりにな。だから今日に滅ぼそうと思ってな。で、我がここに居るということだ。」

 まさかの、キラーゴーストの一部に私たちは潜入していた。それは末端でしかないが、溶け込むように存在している理由が詳らかになった。存在していないというのが言葉的には正しいのだろう。いや、中枢が奥の奥にあるということか。でなければ、街を覆う統治は成しえない。

「私を、殺すの?」

 私は後ずさりをして出口を見た。背を向けて走ってそこまで行くことはできない。前のように逃走が許されるとも思わなかった。

「当然だ。レティミストに思い入れはないよ。俺達が向かうべき場所に、君は必要ない。踊ってくれ。」

 私は猫が鼠を捕えようとしているかのような冷ややかな目を向けられた。心臓が激しく鼓動し、私の心を恐怖が染めた。だが、戦わなくてはいけなかった。負けるのは必至でも、抗わなければ惨く殺されるだけだ。ビクターもその流れを掴んだのか、私のカバンから飛び出し、遠くのコンテナの上に止まって二人を監視しだした。

 ああ、もう私は死んでしまうのだ。抗う準備が整ったのなら戦うことができたのか。それすらわからなくなる。私にとって最も良い状況に仕立て上げるという空想は、眼前に現れた鬼によって破壊されることになるのだ。

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