第16話 無謀の享受

 新たなアジトを見つけるための行動は、そう易々と行くものではなかった。オーシャを頼ってみたところ、暫く共に行動することは了承してくれたが、アジトは新しく作る必要があると言われ、奔走することになってしまった。


「此処までする必要があったの?」

 現在、私たちは二人で荒くれ共のアジトに潜り込み、壊滅させた。大昔に使われていた小さな兵舎のような場所であり、若干の歴史を感じさせられるところだ。私たちは無実の奴らを襲ったのではなく、怨嗟募る依頼の一貫として此処に来ていた。始末できれば場所はくれるという話で、十数人の相手を暗殺と共闘によって数を減らし、奪い取ったという経緯だ。

「本当は地下道があるんだ。あいつら、ここを詳しく知らずに利用していた。多分、この辺り…手は付けられていないはずだな…ここか。まあ、これじゃどかすのもめんどいわな。」

 彼はなにやら地図を見ており、死体を蹴りながらも奥に進んでいった。ある一室は天井が崩れて瓦礫となり、部屋自体が封鎖されている形になっていた。でも、やる気らしい。これらを全部撤去しなくてはいけないのか。

「私はー、報告に戻ろっかなー。後は…はいはい、わっかりましたよ。どかすための機械を持ってきましょ。」

 先に帰ろうとしたが許されなかった。強く腕を引っ張られ引き戻された。私たちはフォークリフトを手配し、手前の瓦礫をどけた後にそれを活用し、その他手で使う道具を活用して掘り進めていった。休み休みやったものの、実に一週間以上を掛けることになり、もうやりたくないと思い始めた時期に撤去は最終を迎えた。

「やっと終わったな。ヴェミネ、一杯奢るぞ。見てみろ、地下道だ。元納骨堂で司祭の部屋なんかはあるはずだ。ならず者のアジトにしては豪華すぎるくらいだ。」

 瓦礫の先には大きな木のハッチがあり、地下へと続く階段が設けられていた。地下は石壁で固められた空間が続き、納骨堂としての外観を余り感じさせないことからも、さながら牢獄の様でもあった。進んでいくと鉄で打ち付けられたドアが見つかり、中はアジトに丁度良い、走り回れるくらいある部屋だった。私たちはそこをアジトにする手はずを整え、キラーゴーストと戦うための行動を起こす基盤にした。エーツもここに持って来て、私もちょくちょく寝泊りをしようと思う。キラーゴーストは神出鬼没であるため、路地裏で安心して眠れないし。


 また一カ月ほどが経過していたが、この場所に資源を蓄えることくらいしか私にはできていなかった。ガスマスクのフィルターも手に入り、武器も丈夫な斧や槍を揃えてはいたが、これはあくまでこのアジトを守るためのものに過ぎなかった。しかし、その日は偶然にも好機が舞い降りた。

「かなり手薄だわ。警備兵は銃を持ってる。」

 裏のルートで情報を取得していたところ、抗争によって分離した組織がこの区にあると知ることができた。私は廃ビルの一室から双眼鏡で組織のアジトに当たる建物を監視し、傾向を割り出した。

 銃を持っているというだけで嫌煙される世の中だが、戦いによって出来た綻びは隠しきれるものではない。しかし、きな臭さを私は感じていた。普通は外面だけでも厳重にし、堅固なイメージを多少なりとも植え付けたりする。それを感じられないのだ。情報は裏とは言え、別の組織から狙われる可能性は十分にあった。漏れ出てない見落とすべきではない情報が隠されているのではないか。というのが私の勘と結論だった。

「…ということなんだけど。私は銃を手に入れることがどういうことか弁えてるつもりだから、潜伏しようかなって思ってる。」

 私の新たなアジトを利用する者は、今のところオーシャと私しかいない。キラーゴーストには太刀打ちできないという噂だけは拡散され、反覆を企てる目的を同じくする者は彼の周りには居ないらしい。誰もが未知に不信感を抱き、その存在が表立つのを待っている様子だ。

「イかれてんのか?手薄ってのは組織にしては、って意味だろ?死にに行くようなもんだぞ。」

 オーシャは一通り話を聞いてくれたが、提案には積極的ではなく、睨まれてしまった。確かにこの提案はイかれている。正論を言っているのは彼の方だ。

「知ってる。ただね、聞いて。キラーゴーストにはフィアーズって組織が絡んでる。フィアーズは、前世代の覇者。この街の歴史が浅いのは、アイツらのせい。前も歴史を塗り替えるだけの力を持っていたのよ?このミッションすらこなせないなら勝つことは夢のまた夢。敵は途方もなく強大なの。本当なら私は戦いたくない。けど…やらなきゃ。」

 私は過去を思い返した。私はレティミスが壊滅させられた時の事を思い出した。敗北後、短期間だが私たちには地獄の日々が待っていた。私は早くに逃げて被害を多く受けたわけではないけど。その地獄が今一度再現され、いや、それ以上のことを奴らが考えている気がして、立たねばならなかった。

「ヴェミネ、お前はそんなに綺麗な目をしていたか?その熱意は無下にはできないな。お前がそこまで本気ならひと肌脱ぐとしよう。やることは馬鹿だがな。しかし、俺とお前だけだ。他に宛てになるやつなんていないぞ。」

 私はいつの間にか、真っ直ぐな目つきになっていた。これはただの勇気ではなかった。もっと濁り、不純で、逞しいモノではない。生き残り、気ままな日々に思いを馳せる、意味のない足掻きだ。

「あのー、爆弾や地図などは作れますが、必要ですか?そちらの組織の建物は衛星からのデータが残っています。変わりないようでしたら、外観から内部を捉えるのは多少可能です。」

 ずっと隅で停止していると思っていたエーツが私たちの元まで足を運んできて、私たちに一石を投じた。突っ込んでいくだけだと思っていた私たちに、橋を掛けたのだ。

「こいつも仲間よ。エーツ、材料を教えて頂戴。あんたの手じゃ爆弾は作れないだろうから、揃えて作ってって意味でしょ?」

 やけくその窮地にいる気分だったから、彼女の存在が今までになく頼もしく感じた。私は、エーツと軽く肩を組み、オーシャに向き直った。エーツもそうです。と言いたげにお辞儀した。

「そうか…そうだな。そのカラスも大事な仲間なんだろ?フッ、変な奴らだ。やろう。」

 オーシャは不安げな表情を残したままだったが、私のように少しの勇気をもらい、安堵したように見えた。

「鳩よ。」

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