第15話 企て

 ヴェミネに負けてからというもの、その事ばかりを考えるようになってしまった。復讐を遂行するならば、あいつと同等では釣り合わない。私に今必要なのは、あれを凌駕する強さだ。と言っても、鍛錬のために足踏みはしていられない。何かはしなくてはいけなかった。そんな私は、昔ながらの付き合いやJ・ジャスムに居た時の伝手を頼りに、戦う準備を整えることにした。

「フィアーズ?!あいつらが動いているのか?僕は絶対にごめんだ。歯向かったら何をされるか…規模はもうわかってる?恐ろしい。」

 まずは元居た組織「レティミスト」の構成員の一人、「コット」の元を訪ねた。こいつもヴェミネと同じく浮浪者としての生活を続けているようだ。一緒に居た頃は忠誠心も高く、私と同じくして情熱的な奴だった。過去にトラウマがあるだけで悪い奴ではなかった。どちらかといえば友人に近い。

「そう言うと思った。一緒に戦えと言ってるんじゃないんだ。少しでもいいから手を貸してくれ。規模は分からない。だが、この街が支配される力は持っていそうだ。」

 ツィーグの発言は少し妙だった。大きなパーティーが何とかと言ったいたことだ。狂っているのでそこまで言質は重要ではないが、統一された目的はあると思われる。招待するとかも、その地獄の釜を披露してやるというような、アイツらが考えそうな残虐性の象徴から来るものなのだろう。

「J・ジャスムで刃が断たないなら、カラーも…いや、悪い。事情があるよな。何が必要?できることはしようではないか。」

 レティミストの生き残りは、鬼畜たちによって全員心に深い傷を負わせられている。あのまま最悪の日々が続けば、どうなっていただろうか。コットも同じくしてため息と共に言葉を返した。

「銃が必要だ。どこかに落とせそうな所はあるか?コットは移動手段を持っているか?それがあるなら貸してくれ。」

 私が言っているのは拳銃などではない。もっと火力の出るものだ。何とかして精鋭部隊を作りだし、キラーゴーストの脆弱な部分から叩くしかない。この発言も、普通なら正気だとは考えられないようなことだ。

「カラーらしくない無謀さだ。J・ジャスムやグラッスに劣る軍勢は幾つかいるけど、それでも浮浪者の成り下がりが挑めるような組織は存在しない。強いて言うなら、「ポゼ区」の「ノミア」か。比較的小規模。でも、無謀に変わりなし。バギー程度ならどうぞ。戦闘用じゃないからあくまで移動手段でしかないが。」

 弱小な組織は私の管轄外だったため、情報が手薄だった。その弱小と言う言葉は、あくまでJ・ジャスムからの視点に過ぎない。

「構わない。私はなあ、耳がズキズキと痛むんだ。四六時中。無くなったからではない。奴らに取られたからだ。復讐にはこの命を捧げる。もう、生きがいはそれしかない。サイバー攻撃は任せてもいいか?キラーゴーストの一件ではなく、ノミアの一件でだ。お前も、怯え切っているわけではないだろ?」

 私はまた部隊を編成し、ノミアという組織を潰すことにした。きっと、数はそこまで集まらないだろう。私は次に、戦える奴らに声を掛けに行くことを想定した。

「管理はされてるから、証明を落としたり、一時的にドアのロックを解除したりしかできないけど。それくらいなら協力するさ。もし…夢のような話だが、フィアーズに一矢報いることができたなら、その宴に入ってもいいか?」

 コットは目を細めてこの様に言った。無理をするなと言いたいが、それでは矛盾すると解っているため遠回しにそれを伝えているのだ。

「夢にはしない。少し図々しいが良いだろう。まずは眼前の敵をやってやろう。」

 最も、私は心に敗北の傷を負ったままだった。何もできないと後ろ指を自分に指されているような感覚は、圧し掛かり続けている。劣等感が行動を抑制し、復讐の灯火を消そうと嘲笑う。私の穢された心は、逆境の熱により揺れ動いてはいなかった。完全に心が潰れて廃人のような一生になるというのは隣にある現実で、私を絶対的な勇気に手放してはくれない。

 戦えそうな伝手に挨拶に行くと、大抵は作戦を聞いて鼻で笑い、突き返されるというのが多かった。中には私がJ・ジャスムを追い出されたとの情報を知っており、侮辱的な言葉と行動と共に殴られもした。そうした日々が長らく続いていた。それでも懲りずに手を広げていると、運命と共にしてくれる奴は出てきてくれた。J・ジャスムも鬼ではなく、偶には他の手助けをしていて、私も規律は重んじたが圧政は禁じただけあって、私を通した印象は地に落ちたようなものではなかった。

「面白そうだ。俺はいいぜ?だが、カラー。お前目が死んでるぞ。本気なのか?」

 浮浪者とも大きな違いはない、小さな小さな組織に私の望んだ人間が見つかった。以前は電波塔の復旧のために共に行動し、力を貸したところだ。そして、私に言葉以上の覇気は無いことは伝わっていた。

「本気だ。死んだ目でも戦うことはできる。なさねばならない大挙だ。」

 私は拳を固く握りしめて意思を伝えた。恐れ、屈辱、劣等感。それらの負の感情が重荷になることは知っている。

「ボスぅ、こいつ駄目だよ。仮にも相手は銃を持ってるんだよ?ワンチャン死ぬって。」

 一人、ビリヤードで遊んでいた女が私に目も向けず、目の前の男「セゴー」に声を掛けた。

「お前も来い。室内戦なら何とかなる。俺らも銃が欲しい。お前もショットガンぶっ放したいって言ってただろ?こう見えてカラーは俺等より腕が立つ。あまり下に見ない方がいいぞ。謝れ。うちでよかったら手を貸すぜ?カラー、良い度胸だ。」

 この男は血の気が多いな。だが、それが今は助かっている。銃も持たずに持っている奴に挑むなど、愚を説いているような話なのに。セゴーはちらりと後ろで屯する幾つかの人員に目を向けた。集まっても一桁くらいか。

「カラー?ごめんよお。ボスがこうなら言うことはない。暴れてやるから安心しな。」

 女も改心したと言いたげな口調になったが、どこまで本気かは分からなかった。命令は通りそうだから問題はないが。

「助かる。人数が揃ったら教えてくれ。作戦を伝える。指揮はどうする?」

 私も恩を受けたなら返すのが礼儀だと思っている。頭を下げ、その意志を届けた。

「了解。恐らく俺を含め4,5人くらいになるぞ。そりゃあ、もうあんたがやってくれ。元J・ジャスムの実力を見せてくれよ。」

 こいつらはかなり小規模な組織であるため、片手で数えるだけの人数が調達できれば御の字だ。そして、腕もある。ノミアなら大勢引き連れて弾きつぶす作戦は必要ないだろう。最も、今の私にそれを集めるだけの力はないというのが実情だ。

 そうして、私の元にセゴー率いる4人の人員が集まり、作戦を決行することになった。コットのアジトを借り、ノミアを掃討し銃を奪うためのプランを立てていった。行動は役2週間後に決まり、一歩目を私は踏み出した。

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