第14話 再起動

「おお!持ってきたか!早く見たくてうずうずしてたんだ。ヴェミネ、もっと急いでくれよ。」

 私は数日後にチェットの元にコンピュータを運びこんだ。私は大枚をここではたいてしまったので、この街で出来ることをしていた。今回も金を使うことになるだろうし、軽く依頼人を見つけて仕事をこなしていたのだ。

「私も暇じゃないのよ。じゃあ、後はよろしくね。」

 これは専門外なので任せることにした。お願いとしては、前のように自立歩行が可能で対話ができるように仕上げて欲しいという内容だった。

 二日が経過し、また私はここに来た。まだ起動していないらしく、成功するかは定かではないと言われた。出来上がったエーツはパーツが随分と減り、前よりもガラクタというイメージが強い見た目になっていた。私から見れば大体は同じでキャタピラーがあり、スピーカーがあり、違う点があるとすれば、見覚えのある機材がむき出しの状態なことくらいだ。多分、フォビーに私の意見を述べたら拗ねてしまうだろうが。

「…ああ!ヴェミネさん!私を組み立ててくれたのですね?」

 スピーカー横の赤いランプが点灯し、カタカタと動いて話し始めた。自己紹介した覚えはないが、覚えられているらしい。

「まあ、組み立てたのは彼だけどね。あんた、前よりも流暢に話してない?」

 というより、友好的と言うか、堅苦しさが少なく感じた。全然こいつとは会話しなかったから気のせいと言われれば納得はできる。スピーカーの影響か声は確実に変わっていた。

「これがエーツか!再現できていそうだな!いやあ、ええもんが見られた。まさに叡智ぞ。エーツ、エーツ。試しに、なんか予報してくれ。そうだなあ、ミドジ区の現在は?」

 チェットはぴょんぴょん飛び跳ね、エーツの周りを巡回しながら聞いた。前はどのような機能があったかはひと通り彼には伝えていた。

「それが…申し訳ありません。衛星からの情報を受信できないため、現状をお教えすることはできかねます。今、私にできることと言えば、バックアップからの情報をお知らせすることです。」

 本当に申し訳なさそうに少し傾き、お辞儀でもしたいようだった。チェットはこれに対しそうだよなと言いたげに肩を組んでいたが、私は舌打ちが出た。

「ポンコツじゃん!これじゃ動こうにも動けない。まだ情報屋に任せたほうが良いわ。これだから機械は嫌いなのよ。」

 私はいつぞやのように軽く足でエーツを蹴り、顔を顰めた。元より期待する気持ちなど持ちたくないと思っていたのに、少し望みを膨らませていたのすら無駄になった気分だ。

「やめろって。精巧な機械なんだから。色々と準備はできなかったがよ、役に立つことは保証する。そう怒らんでくれ。」

 これもいつぞやのように、エーツを庇う様にしてチェットが前に出た。冷静になって見れば、ガスマスクのフィルターくらいなら手に入れる助言をするのには十分だ。最新鋭である必要はない。

「別に怒ってるわけじゃ…エーツ、家族として迎えてあげる。ありがたく付いてくることね。」

 鳩にガラクタ。私は一体何を目指しているんだろうか。このまま生活を続けていたら、いつしか変なあだ名でも付いてしまいそうだ。

「ありがとうございます、ヴェミネさん。どうか貴方様に少しでも貢献できればと思います。」

 こうして、私はエーツver2.0を引き取ることになった。いや、バージョンで言うなら下がっているのか。少しくらいなら雨に晒されても問題はないらしい。執事のように私の右斜め後ろをずっと付いてきていた。

「じゃあ、早速。今、ガスマスクのフィルターが必要なんだけど、心当たりある?」

 私は路地の段ボールハウスまで連れて帰り、そのまま聞いた。ここならこいつをかっぱらていく馬鹿も居ないだろう。

「あの、一つ宜しいですか?その前に、新しいアジトが必要かと思われます。大きな目的があるのでしたら、資源は纏められた方が効率的ではないですか?」

 エーツは私の質問に答えを出さず、別の提案をした。いつもならイラっとくるところだけど、今の私は特に気にならなかった。

「そんなこと言ったってねえ。アジトなんてそう簡単に手に入らないわよ。仲間ももう居ないし。手がかりでもあるの?」

 あの廃病院だって、私たちが勝ち残った遺産でもあった。大きな施設を持とうと思ったら、それだけ力はいる。小規模だとしても、個人では見つけられないというのはざらだ。

「以前お話していました、オーシャさんを頼るというのはどうでしょう?アジトが欲しいと申し出れば、協力してくれそうではないですか?」

 私はこの発言に心臓が跳ねた。時系列がおかしい。いや、別の要因を考慮するならば説明は付くが。

「あんた、ずっと聞こえてたの?組み立てられる前から。」

 そう思うと恥ずかしくなってくる。監視カメラで撮られてた気分だ。酔いに酔って品性が落ちていたのも聞かれていたわけだ。カラーに見られたことはどうとも思わなかったが、生活を共にする奴がそれを聞き届けたという事実は認めたくなかった。

「聞き耳を立てるつもりはなかったのですが…ものを感受する媒体はあの時から揃っていましたので、知っています。あの、私がどう思うかなんてお気になさらないでくださいね?ただの機械ですから。」

 私が穴にでも入りたいと思っているのが伝わったのか、エーツは言葉を付け加えた。純粋に慰めの言葉だと思うが、ただの機械と私が思っていることに皮肉を宛がっているようにも捉えられる。

「その話はやめよう。ていうかさ、エーツは、元は人間だったりするわけ?フォビーは培養液が必要とか言ってたし、受け答えも機械らしくはないのよね。」

 これに答えることができたなら、フォビーが倫理的な問題に抵触していたかが明るみになる。流石にそこらに居る人を攫って実験に使ったなんてことは性格からしても考え難いけど、少なからずブラックな要素が香ってきていた。

「はっきりとは覚えていません。人だったんですかね。どこかの施設がデータとしてではなく内に存在しているのですが、何処かは衛星からの情報を使っても分かりませんでした。多分そこに居て、体は死んでしまったんだと思います。何となく、そうだったと覚えて…感じています。」

 やはり黒い過去はありそうだった。どこか人体実験でもしてた施設から死体を持ってきたのか。フォビーはその手の話に繋がりがあるし、仲間から提供されたという線もあり得る話だ。

「そう。まあ、良いわ。あなたの言う通り、アジトの作成を考えとく。でも、フィルターくらいは先でも大丈夫でしょ?」

 今すぐに。というのは難しい。銃を手に入れるとするならば、その時くらいで問題はないだろう。エーツも元気よく、はい。と答え、次の行き先を示してくれた。

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