第9話 来客
「キラーゴースト、相当危険だぞ…あいつら本腰を入れ始めた。お前が言っていたガス、留まるところを知らないといった風だ。どうやってか、遂にミドジ区全域がガスで汚染された。まあ、それは重要じゃない。逃れる方法はいくらだってあるからな。何がって言うと、組織自体だ。この街全体が既に脅威に晒されてる。早いとこ誰かに本丸を叩いてもらわんと大変なことになるだろう。少しばかりの兵力を持つ組織が軒並み潰されて行っている。」
戦いの夜から二、三カ月経ったある日、ランプから報告が入った。あれから何の音沙汰もないので、安心しても良いのかと思っていた矢先、思い出させられた。
「お前がキラーゴーストって言ってるってことは、正体はまだ分からないってことよね?まだ影。そいつらを、特定できた団体もいない。存在を疑うレベル。その状態で支配を進行させてるの?」
何かがおかしい。ゴーストという名前を体現するかのように、深い所を誰も知ることができない。沈んだ組織は名前があったと言うのに。
「もうじき分かる。動きが機敏になって来た。いつか、エーツが災害と言っていたな。それが訪れるかもしれない。ヴェミネ、もし戦うことになったらお前はどうする?」
ランプは私に対して、気の悪い質問をしてきた。戦えることを見込んでのことだろうが、決断を迫るような揺らしは嫌いだ。
「答えを知ってるでしょ?言うまでもないわ。それより、その可能性があるの?」
正直言って、私はこいつらがそんなに大切なわけではない。こいつらだって同じだ。目的が一致し、互いにとって都合の良い干渉ができるから仲間で居る。勿論、死んでもいいとは思わない。守れるというのなら守る。
「あいつらはこの街全てを狙ってるはずだ。もう一度言う、災害だ。俺はその言葉を直感で認識してる。つまり、この街が終わる日が来るんだ。傾向からしても間違いない。ヴェミネ、何が必要になるか、少し考えておいてくれ。」
ランプは余りに不穏な憶測を口にしだした。何を掴み、知ったのか。以前とは違い確信めいた発言だった。もう、この街は終わってるよ。だから必要なものは、大したものではない。私はこの瞬間に、頭の中で答えを出してしまっていた。
それが現実となるのは、少し先の話だった。また三カ月とちょっとが経ったある日、私が住むフィレ区の端に毒ガスが発生し、それが徐々に拡大し始めた。
「ここにも来るぞ。全員を集めろ。あいつら部隊も派遣して、この区を滅ぼす気だ。」
アジトのドアを勢いよく蹴り、ケナーがこう言いながら入って来た。これが災害だという事は、私でも分かってしまった。私はラベンダーやフォビーなどの、あまりアジトに寄らない仲間たちに招集をかけ、毒ガスの脅威と戦争の予感を知らせアジトに集めた。
「建物内は安全さ。ガスが消えるくらいまでは、それらを排出し続けられる。奴らここに来るか?」
フォビーはこの日まで、暇なときはずっとアジトの外壁を弄って対策を練っていた。肝心のガスの特徴などは調べが足りないらしく、無毒化することは出来ないとのことだった。いつもは誰よりも早く特定するのに、調子が悪いのか。
「来る。私の家が無くなった。住んでる所はどうすんの?」
ラベンダーは機嫌が悪く、ベッドを釘バットで殴りながら答えた。私も自分の住処を捨てる覚悟で此処に来た。食料もそれなりに皆かき集めていた。
「ダメだろうね。あのガスは不明な点が多いけど、致死性が高いのは確か。汚染がどの程度なのか。どっちみち盤上が悪すぎる。せめてここで整えよう。」
またも籠城戦になるのだろう。私だって暴れ回りたい気分だ。意味の分からない奴らに好き勝手やられてるのは見過ごせない。今度も戦力差にじり貧の戦いを強いられるだろうし、何もかもが腹立たしい。
次の日の晩、西口側からガスが浸食し始め広がって来ていた。同時に近くの建物からは銃声と凄まじい悲鳴も聞こえてきていた。私たちは二階の一室に固まり、その動きを待った。そうしているとフォビーが外に仕掛けた監視カメラが、銃を持った団体を捉え、既にここに来ようとしていることが分かった。
「出迎えてやろう。お前ら、注意しろ。前衛は俺とヴェミネだ。」
私とケナーが若干前に出て、その後をランプたち付いてきた。彼らも全く戦えないわけではなく、いざとなったら護衛もできる。フォビーは心元ないけど。
「進行が早いな。もう一階に来てるぞ。」
階段を降りようとしたところ、既に足音がしたから響いていた。一階は一番守りを厚くしたのにも関わらず、簡単に突破してきた。想像以上に早い進行に私たちは驚愕した。
「踊り場で戦う。来い!」
私は素早く階段を駆け下り、仲間を呼んだ。階段の踊り場付近にも厳重なバリケードを張っていて、机やら木材やらをこれでもかと固めていた。幸い、階段はここにしかなく、当たるとすればここだけだった。
前の泥くさい戦い方ではなく、準備は功を奏した。到着した部隊に私たちは火炎瓶を投げつけ急襲を行った。飛び道具に槍を使い、隙間から投げて数を減らした。それでもこいつら相手に十分通用する戦い方ではなかった。相手は小銃を装備しており、バリケードが脆くなる度、顔を出すのは不可能に近くなっていった。
「あいつらグレネードまで使ってくるのか?」
ある時、バリケードにごつりと何かが当たり、爆発した。ここまで放りこまれていたら、全員あの世行きだった。仕方なく、私たちはその場を離れて階段を上り、応戦から遠ざかった。
「東棟まで行くぞ。火炎瓶を補給す…」
ケナーが窓の横に張り付き、一瞬窓の外に顔を出した。しかし、その瞬間に弾丸が彼の頭を貫通し、命を奪った。その後、スポットライトが窓から照り付け私たちを探し始めた。この光が無くとも撃ちぬけるとでも言いたげに。
「スナイパー?!向こうの建物からだ。この腕、ただ者じゃない。お前ら、這って反対側に進め。」
あの一瞬だ。気分が悪くなってきた。私はこの感覚に覚えがあった。いつか、いつの日にか感じた背筋が凍るような敗北。その味がしたような雑味がやって来ていた。
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