第2話 半グレ
私が住処へと帰った頃はとっくに夜だった。元の依頼主へ今回の一件を報告し終え、流通が円滑ではないことを伝えにも行っていた。私がポカをやらかしたわけではないので、信用は損なうことなく今後ともご贔屓にしてもらえるらしい。今日は特別なボーナスも入ったので上機嫌だった。なのに
「ふんふんふん。あっ、お前なー!ふざけんなよ!」
例の鳩が私の家から缶詰を引っ張りだしていた。口は開いていないが、開ける手段が無いという感じだろう。我が物顔で、悪びれもなくこちらを見つめている。
「ちっ。おめーマジで…食っちまうぞ!あれ、減ってない。荒らされた痕跡も…ない。」
問題となる啄んで袋を開けたりできる物を確認するため、鳩を手で払って家に潜りこんだが、荒らされた形跡が無いどころか取り出されたというのも間違いだと気づいた。
「お前、別の所から持ってきたのか?そんな元気があるならもうどっかに…はあ、コンビーフか。賢いな。」
私は厄介払いしたくなったが、モノを見てときめき、感心してしまった。危うく蹴り殺してしまうところだった。ちゃんとした肉は貴重なのだ。こいつが私に懐いているとかは興味ないが、この一時の利とその愉悦に浸るのはやぶさかではなかった。待てよ、上手くいけば食料調達班として役に立つかもしれない。これだけ有能なら興味が沸いてきたかもしれない。
「怒鳴って悪かった…飯にしよう。ほら、食え。依頼はしてないが、依頼金を払うってのがルールだ。」
私の怒号に蹲っていた鳩に餌をあげ、私は早速至福のひと時を過ごすことにした。簡単に火をおこし、暖を取りながらこいつが持ってきた肉の缶を熱して開けた。
「おいしい、最高。決めた。あんた、少しなら居ても良いわ。コンビーフに感謝するのよ。」
舌が躍る感覚に正直になり、私はそう言った。飼う気にはなれない。だけど、利用できる内は利用しようくらいの心持だった。
私は次の朝、翼の治療を施してやることにした。前日に続き、弱ってはいたが、命に関わるような傷ではなかった。飛べもしないのにどうやって缶を持ってきたのかは不可解だけど。なので、軽く包帯で処置し、化膿を止める応急処置を済ませた。因みに薬などはない。だから医者に掛かるような病気ならば捨てる必要が出てくる。
今日の私も行くところがある。廃病院だ。勿論、こいつのためとかではない。私も組織というか、グループと言うか、形のない小規模な奴らと縁がある。私たちはその廃病院をアジトにして、目算的な事を進めたりする。
「「ランプ」?居る?」
ここの蛍光灯は切れているため、窓に寄らなければ昼でも真っ暗だ。この辺りの整備は皆放っていた。元入院室であった場所に入り、電気を点けた。私たちで用意した簡易的なものだけど。
「ああ、居る。あいつらは今日、来ない。ヴェミネ、また問題を起こしたな?やんちゃ坊主たちを殺して回ったのか?」
情報に腕が立つランプは、早くも昨日の出来事を把握していた。私は好き勝手生きているので、仲間たちからは少し変な奴という印象があるのだろう。
「聞こえが悪い。誤解よ。命狙われたの。」
問題を起こしたとするなら奴らの方だ。血を落とすのは大変だし、被害を多く被ったのは私だ。
「フッ。結構暴れ回ったくせに。どこが関わってるか知ってるか?」
彼は少し気になっていたことを口にしてくれた。怨嗟を辿れば、私が過去につけた傷が浮き彫りになるかもしれない。
「知ってるの?」
私はマグカップでコーヒーマシンからコーヒーを注ぎ、置いてある机に座った。これらも全部私たちが用意した備品だ。
「ああ、カート区は情報が流れやすいから調べ甲斐がある。結構意外だぞ、「グラッス」だ。」
私はその名前を聞いた瞬間、コーヒーを噴き出しそうだった。面倒ごとになる予感がしたのだ。
「グラッスって…「J・ジャスム」直属の?何の用?」
J・ジャスムと言うのはかなり大きな組織で、重火器を集めて兵隊ごっこしてるイカれた集団だ。一部、私の見解だが。Jはジャッジメントを意味し、正義の統括なんかを謳っている。その直属隊ともあれば、一般人が関与するような存在ではない。組織的な目的があったに違いない。それともただの管理区域なだけなのか。
「その通り。グラッスは個別の意思を持ってる。J・ジャスムは今回の事とは関係がなさそうだよ。安心しな。」
それは良かった。などと言ってられない。組織で私を潰そうなどと言う考えなら、おちおちと暮らせない。そこまでの大罪を犯した覚えもない。
「私、殺しの対象にされたんだけど?」
記憶を辿り続けていた。そんな激やば集団に関わるようなことはしていないし、名が挙がるような力も私にはない。はずだ。
「気にするな。君なんか目もくれてないさ。邪魔だから纏めて始末しておこうとかそんなのだ。足軽がやられたからと言って深くまで追ってくるような真似はしないさ。それに足軽って言ってけど、今回の奴らはただの下敷き。大きくグラッスと関わってるなんてことはないぞ。」
それだけ聞いてコーヒーが美味しくなった。掛かって来た電話が詐欺だと気づいたみたいな安心感だ。
「ランプ。あんた、情報集めるのは得意だけど、伝えるのは下手くそね。情報屋のトップを取れない理由が解ったわ。で、今回の議題は?」
私はマグカップを置き、ホワイトボードを押した。私たちにも何かしらの生きる目的があってこうして集まっている。何、そんな大した理由ではない。今週の目標みたいな、くだらないことが多い。
「第3次創作作戦を決行す。必要なものを街中央に当たる「クレート区」まで取りに行ってくれ。相棒を付けるぞ。」
相変わらずネーミングセンスが終わっている。ガキの遊びみたいに聞こえてくる。私たちは自らを豊かにするための工夫を行っている。それが今回に当たるものだ。前はバイクなんかを作った。
「今回は何を作ろうってわけ?もしかしてはぶられてる?」
前は色々話し合って決めたが、今日の今日までその計画については誰も口にしなかった。
「まさか。一昨日、「フォビー」と意見が合致した。んで、今回は大発明だ。AIを作る。お前には培養液を持って来てもらうぞ。」
AIなどとこいつは言い張るつもりだろうが、そんなあっぱれなものではない気がする。フォビーもマッドサイエンティストの気があるし、出来上がったものを拝みたいとも、その過程を見たいとも思わない。
「培養液って。かなりエグイもん作ろうと思ってるよね?まあ、良いわ。発明に期待する。私はどこに行けばいいわけ?」
でも無駄だとも思わない。前のバイクもかなり上出来だったし、たまに利用させてもらっている。次のバイクも発注したくらいだ。
「かなり特殊なものでな。旧研究所だ。あそこも結構なやり方で研究してたからな。変わった物が未だある。取りに行くのは誰も着けてないシークレットサービスに当たるものだぞ。じゃあ、来週に頼む。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます