兄妹だからとか気にすんな
「いやぁ、みんな驚いてましたねぇ」
隣を歩く優愛がボソッと呟く。
「驚いてたってもんじゃない気がするんだけど……」
「えへへ~♪」
優愛が言ったのは学校を出る直前のことだ。
下駄箱で俺を見つけたかと思いきや、周りの目を気にすることなく思いっきり抱き着いてきて、友人たちの目はともかくその他の視線が物凄かったぞ。
「ねえお兄ちゃん、このまま帰るのもアレだしファミレス行かない?」
別に構わないと頷き、近くのファミレスに寄った。
中には学校帰りの学生の姿がそこそこあり、あまりファミレスに来ない俺としては中々新鮮な光景だ。
「チョコジャンボパフェお願いしま~す」
「畏まりました」
「え、食べれるの?」
「一緒に食べてよお兄ちゃん♪」
これ……単純に甘い物がたらふく食べたかっただけだな……。
まあ小腹が空いているのは俺も同じ……メニュー表を見た限りかなりデカいみたいだけど、二人なら大丈夫そうか?
「それではしばらくお待ちください」
店員さんが離れて行き、優愛は水の入ったコップを手で握りながらジッと俺を見つめてくる。
「こうして兄妹になってファミレスに来るのは初めてですね」
「そうだな……ってなったばかりだし」
「ふふっ、それはそうですけど……」
「……何かあったのか?」
さっきまで笑顔だったのに、優愛はいきなり表情を曇らせた。
それでも出来るだけ笑みを浮かべようと頑張っているのが伝わってくるくらいには、どこか優愛の様子がおかしい。
「何もないです……って言ってももう気付かれてますよね。ごめんなさいお兄ちゃん」
「謝る必要ないって。つうか、どんだけ長い付き合いだと思ってんだ?」
十中八九、兄妹になったことに対してのモノかなと見当が付く。
優愛はゴクゴクと音を立てるように、凄い速さで水を飲んでから話してくれた。
「朝礼の時に、親の再婚で名字が変わったことが話されました。それで友達みんなが驚いていましたけどすぐに受け入れてくれました……でも、入学してすぐに告白してきた人が居て……その人がまた教室でしつこく話しかけてきて……」
「……………」
「教室で騒がしくしてきて私もそうですし、他の子たちも凄い目で彼を睨んでましたけど……それであなたと付き合う気はないと、そういうつもりは一切ないって言ったんです」
たぶんだけど、こういう騒ぎが起きたからというより……おそらくこの後に続いた出来事が優愛にこんな表情をさせている。
「……私は誰かとの恋愛より、今までと同じように……ううん、今まで以上にお兄ちゃんとの時間を大事にしたいって言いました。それだけお兄ちゃんとの時間が楽しくて仕方ないから」
「優愛……」
それは流石にちょっと恥ずかしいかな……もちろん言ってほしくないと空気の読めない言い分ではなく、単純に優愛がそこまで考えてくれていることに対する嬉しいと恥ずかしさが合体しているような感じだ。
「そんなに仲が良いこと、距離が近いこと……兄妹としてあまりにも歪でおかしいってそう言われたんです」
「……あ~」
「……その反応、お兄ちゃんもそう思ってるんですか?」
ショックを受けたように優愛は俺を見た。
俺としては……つってもこれを肯定すると俺と優愛の距離があまりにも近しいということになるわけで。
でもそれを否定することはしない……だって事実その通りで、俺はこの繋がりを楽しいと感じているから。
「ま、確かに距離は近いかもしれないか? 俺の立場でそう言うのも気恥ずかしい気はする……でも実際そうだったもんな。お前ってば事あるごとに抱き着いてきたり、抱き着いてきたり、抱き着いてきたり」
「そ、そんなに抱き着いてばかりでしたかぁ!?」
「自分の胸に手を当てて思い出してみろ」
そう言うと、優愛は思いっきり自身の胸に手を当て……そのまま指が胸に沈み込むくらいに。
俺は即座に視線を逸らしながら言葉を続けた。
「……ま、確かに俺たちは兄妹だ。でも今までずっと家族じゃなくて先輩と後輩だったんだぞ? だとしたら兄妹だからおかしいとか、理屈は通用するかもしれんけど聞く必要はないだろ。俺らは俺ら、少なくとも周りの人間のせいで優愛とギクシャクするなんざ俺は嫌だぞ」
「お兄ちゃん……」
「お前はどうなんだ?」
優愛は、目を丸くするように顔を上げた。
「私は……」
「周りの言葉一つで悩んじまうなんて優愛らしくない……俺らは俺らなんだから気にするなって思うよ俺は」
「……………」
それこそ、これ以上に何か言ってくるなら俺も妹を守るためにその相手に対して言わせてもらうかもしれんが。
というか、兄妹なのに近すぎるってなんだ……?
冷静に考えてそう思うけれど、そもそも今まで俺たちは家族という間柄じゃなかったんだし……それに究極的なことを言えば、血の繋がりもないわけで……まあそこは解釈次第とは思うけどさ。
「そうですね……あははっ、私ったら何を悩んでたんでしょうが。今までの様に、お兄ちゃんと仲良くすることに何も問題はないのに」
「そうそう」
「お母さんも、お父さんも言ってました。そんなに仲が良いのなら、別に結婚してもおかしくないなって楽しそうに」
「……それはどうなんだ?」
ちょっとドキッとしてしまったけど……てか両親がそれで良いのかよ。
父さんはともかく母さんが……あぁいや、なんというか意外と母さんってふわっとした感じでノリの良い人ってのが分かってるし、意外とそういうことを言いそうかも?
「お待たせしました」
そうこうしていると頼んでいたパフェが届いた。
流石ジャンボという名に相応しく、一人だったら胸焼けしそうなくらいの量だ……。
店員さんが居なくなり、優愛がクスッと笑って口を開く。
「ありがとうございますお兄ちゃん」
「え?」
「私、やっぱり自分のやりたいことを迷う必要なんてないんです。私は私として、私がしたいこと……これからもお兄ちゃんと仲良くすることに全力を注がせてもらいます!」
「? あぁ……仲良くしたいって言うのは歓迎なことだけど」
「むふふ~……ふへっ!」
えっと、大丈夫ですかねこの妹は。
けれど、その瞬間だったかもしれない――明らかに、優愛の俺を見る目に変化のようなものを感じたのは。
見つめ合うだけで……否、その瞳を見ただけでドキッとさせるような何かが優愛から垂れ流されるような……よく分からない感覚が。
「っ……これ、残すわけにはいかないし頑張って食べないとな」
だからか、俺は誤魔化すようにスプーンを手にした。
「ふふっ、これくらい余裕ですよぉ」
「食べ過ぎて太るから思わないのか?」
「う~ん、昔から脂肪は全部おっぱいに付くので大丈夫です!」
「……………」
こいつはまた、答えにくいことを……っ!
それから完全に機嫌を良くした優愛と共に、ジャンボチョコパフェを完食した。
「ふぅ……結構キツかったですね」
「だから言っただろ」
かなり腹が膨れたらしく、優愛はお腹を擦っていた。
そして、突然……ではあるが特に珍しくもない行動として、優愛が俺の腕を思いっきり抱いた。
「このままお願いします」
「?」
そうして歩いていると、俺にとっても若干見覚えのある顔がいくつも見えた。
というのも俺たちの進む先に居たのは、優愛の中学時代の同級生たちだったから……まあ高校は違っても、こうして出会う可能性がないわけじゃないので珍しくもない。
「話したそうにしてないか?」
「嫌です」
嫌らしい。
どこか唖然とする彼らの横を通り抜け、後少しで家という場所で優愛が立ち止まった。
「お兄ちゃん」
「うん?」
「お兄ちゃんは……本当に、本当に私にとっていつも嬉しい言葉をくれるんです。さっきだってそうでしたから」
「俺がそう思ってるからだし……何より、兄貴として前よりは優しくしようと思ってる結果だぞ」
「……いつだって優しいですよお兄ちゃんは」
そしてまた、優愛はギュッと腕を抱く。
もちろんそうして家に帰ると、母さんがあらあらまあまあと興奮していたのはちょっとどうかと思う。
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