第六話 お姉さんがいるみたいだよ

「シェイド所長、今よろしいですか?」

「ああ、何だいウェーブ君、また気付け魔法かい?」

「違いますよ! あれは僕の体質に合いません!」


 ウェーブ君は、仕切り直しといった風にコホンと咳をする。


「MCC‐062がMCC‐062‐24とお話がしたいと言ってきています」

 MCC‐062が? 面倒な。


「却下だ。刺激が強すぎる。これからツバサ君の処遇が決まるんだ。下手に刺激して、また騒動を起こされたらたまらん」

「やはりそうですよね。24と話ができないなら所長とお話がしたいと言っていました」

 深いため息をつく。リファレンスを多用したからな。何が起きたが知りたいんだろう。


「わかった。この仕事が終わったら向かう」

「では、そのことをMCC‐062に伝えておきます」

「ああ、頼んだ」


 アルカナコード:MCC‐062。アルカナクラス:ステディ。MCC機構がもっとも注目しているアルカナ。アルカナ事象レポートをざっと見返した。長ったらしい会話ログ、膨大な実験ログ。


「この分厚いレポートに、また会話ログが追加されて、さらに分厚くなるわけだ」


 この自我を持つアルカナは、おしゃべりで、あらゆることに興味を持つ。そのおかげで実験には協力的で、扱いは非常に楽なんだがな。俺にやたらと絡んでくるのが厄介だ。


 ため息が止まらん。


  *  *  *


「ふんふーん、ふーん」


 今日のぼくは気分がいい。鼻歌を歌いながらお風呂に入る。


 女性職員の人から新しい服をもらって、まあ当然のごとく女の子の服なんだけど、試着したときにかわいいと、たくさんほめてもらった。ちょっとうれしかった。あと顔と体に塗る保湿剤をもらった。いい香り。


 お風呂から上がる。今日もらった保湿剤を、早速体に塗って顔にも塗って、下着を着て、パジャマを着る。この工程にも慣れた。


 そういえば髪飾りももらったんだけど、これは着け方がわからない。長い髪の毛をまとめられるのは便利そうなんだけど、今度誰かに教えてもらおう。


 髪の毛を乾かしてもらうために部屋の外にでた。職員の人たちは忙しそうにしていて、乾かしてもらうのを今まで控えていたんだけど、今日は大丈夫そう。


 キョロキョロとあたりを見渡して、職員の人を探しているとシェイドさんを見つけた。


「あ! シェイドさん! お久しぶりです!」

「ああ、ツバサ君、久しぶり。お風呂上りかい?」

「はい、そうです。誰か手が空いている人に髪の毛乾かしてもらおうと思って、探しているところです」


「そうか、なら俺が乾かしてやろう」

「ありがとうございます! お願いします!」


 知らない部屋に通された。ここは初めて入るな。


「あ、所長、話はどうでしたか? おや、ライブラが一緒ですか」

「ウェーブ君、話の内容はまた後で。ツバサ君の髪の毛を乾かしてあげようと思ってな。連れて来た」


 ウェーブさん。この人は初めて会う……よね? ふわっとしたピンクの髪にピンクの目。肌は白い。もしかしたら検査とかで会ったことあるかも。


「僕ヨラ入れますけど、所長とライブラも飲みますか?」

「ああ、お願いしようかな」

「あ、僕も頂きたいです」


 ヨラ、紅茶みたいなやつだね。美味しい飲み物。


「こうやってライブラの髪をさわるの久しぶりだな。風熱くないか?」

「大丈夫です、ちょうどいいです。」

 ふわふわ、さわやか、気持ちがいい。


「そういえば、女性職員の方から新しい服と髪飾りをもらいました。あと保湿剤も」

「そうか、ライブラはおしゃれさんだったからな。オーダーしていたのかも」

「……そうですか」


 その話聞くと……悲しいな。着たかっただろうに。今着ている服とかも遺品になるんだよね。体はライブラだし、彼女の代わりに生きると決めたんだ。髪の毛短く切りたいとか、服変えたいとか思ってたけど、……女の子らしく生きてみようかな。実際褒められるとうれしいし。


「髪飾りをもらったんですけど、結び方がわからなくて」

「そうか。ちょうどライブラの忘れ物がある。教えてやろう。これは22のものかな」

「22?」


「ああ、ライブラMCC‐062‐22、ちなみにツバサ君はライブラMCC‐062‐24ね。君のお姉さん」


 えっええー!!


「お、お姉さんがいたんですか!? あと、ライブラとその番号って……」

「……管理しやすいようにコードが振ってある。お姉さんが三人いて、末尾21、22、23、ツバサ君はライブラ24で末っ子ね」


 なんか変なの。というか、家名がないよね。名前だけだし。あと管理しやすいってどういう意味なんだろう? 疑問が尽きない。


「その、みんなライブラって名前なんですか? 管理しやすいっていうのもどういう意味ですか?」

「ライブラって名前というか、偽名だよ。魔術師は真名を隠すものだ。俺のシェイドって名前も偽名だ。まあ、コードについては追々教えるよ」


 シェイドさん魔術師で偽名だったんだ……。それよりも、ライブラのお姉さんたち、妹がこんな状態になって悲しんでいるだろうな……。


「ん、乾いたね。あとは髪の結い方か」

 軽くブラッシングされる。

「二つ括りにしようか」


 二つ括り、ツインテールっていうんだよね。


「コームの後ろ、先が細くなっている方で頭のてっぺんから真っすぐピッと降ろしてサイドに分ける」

 うわ、しょっぱなから難しそう。


「片方から髪の毛をまとめて、結びたい位置まで上げて、ゴムを飾りが上になるように持って結んでいく。片方も同じようにやる。完成」


 あっという間に出来上がった。なんか髪の毛が持ち上げられて皮膚に違和感を覚える。ブンブン首を振ってみる。勢いよく振ったら攻撃できそう。


「ヨラ入れましたよ。おや、いつものライブラが出来上がっていますね」

「ん、ありがとう。髪の結い方を教えて欲しいと言われてな、結んであげた」

「そうでしたか。はい、ライブラの分です」

「あ、ありがとうございます」


 いつものライブラか。毎日結んでいたのかな。教えてもらったし明日やってみよう。


「所長、器用ですね。といいますか、普通は女の子の髪の結び方なんて知りませんよ」

「ああ、ライブラ四人組が帰還するたびに、これやって、あれやって、とせがまれるからな。慣れたもんだよ」


「全く、所長は甘いんですから。ライブラ、ヨラを飲み終えたら寝なさい。これから忙しくなりそうですから体調は万全にしておいた方がいいでしょう」


「忙しくなる?」


「ああ、まだ確定ではないがな。ツバサ君はMCC機構の本部で働くことになる、かもしれない」

「ええー!?」


 ヨラを飲み終えてふらふらと部屋へ戻った。結んでもらった髪飾りは、寝るのに邪魔になるので取っちゃう。ベッドに潜り込むが眠れない。この先どうなるか心配はしていたけど、働くことになるなんて不安しかないよ……。

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