#番外編① トラップ

――それは、二人のお嬢様達が中学生だったころの話。


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文原ふみはらさーん」


ある日の休み時間。クラスメイトの一人がそう名前を呼んだ。


「はぁい」


その声を聞いて立ち上がる佐都紀さつき。彼女の苗字は文原である。


「佐都紀 佐都紀!テスト何返ってきた??」

「あー」


ドアから身を乗り出すようにして佐都紀に話しかけたのは、別クラスから遊びに来たお嬢様(つまり絢音)。

そして、彼女らは丁度テスト期間が終わって、だれも望まぬテスト返し期間に突入中であった。


「絢音は?」

「私はねー、数学英語理科」

「え、一気に三教科は早くない?」

「まあまあ。たまたまってやつよ。で、そっちは?」

「社会とー、国語ー」

「それだけ?」

「ん。いや、このあと理科は来るかも」

「教科数一緒じゃん」

「それな」


軽く笑った後、お嬢様は本題を持ち出した。


「点数のほどは」

「ぐはっ」

「だいじょぶそ??」

「げほげほ」

「ダメそうね」

「ふはは」

「情緒不安定だった」

「そうかもね」

「認めてるわ」

「てか返ってきたものでかぶってるの今のところ何もないけど?」

「まあいいでしょ」

「点数だすのは嫌だ。けど、めっちゃ苦情は言いたい」

「誰に⁉」

「わが執事に」

「何で⁉」

「貴様のせいで答えわかってたのに漢字ミスってバツくらったやろがい!って」

「違う字教えられたの?」

「そういうことじゃなくて」

「はあ」









「私の執事の名前が志なおかげで志半島の志を志って書いちゃったのよ!」








「・・・・」

「これは苦情言うに値するよね⁉」

「ち、ちょっと何言ってるかわかんない」


当時のお嬢様は、志磨しまを知らない。その字も知らない。

そしてこのセリフを音で聞いただけでは全く意味が分からない。


「志摩半島の志摩の『ま』って、下のとこ『手』じゃん?」

「そだね」

「うちの執事も志磨っていうんだけど、その『ま』は、磨製石器の磨なのよ」

「下のところが『石』だって言いたいのね」

「そゆこと」


佐都紀は神妙な顔つきで頷いた後、びしっと絢音のほうを指さして言い放った。


「で、わー自分の執事と同じだからめっちゃ覚えやすーいとか調子に乗ってたら漢字違ってミスりましたーってなわけ!」

「そぉれはあなたが悪い!」

「漢字デ書カナキャヨカッタワ」

「まあどんまい」

「わぁぁぁぁぁ」


佐都紀は悔しそうに崩れ落ちるのだった。




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学生読者の皆さま、


リアス海岸の志摩半島と佐都紀の執事・志磨の『ま』は違う字です。


くれぐれもテストの際は下の部分を『石』になさらぬようご注意くださいませ(*'▽')

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あるお嬢様と執事の話。season2 天千鳥ふう @Amachido-fu

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