第5話 ゲーム……?
「初めまして、私はリルアリスと申します。リルアリス・フォ・アーデルハイトです」
「あ、ああ。よろしく、それでさっきの」
「失礼、貴方様のお名前をもう一度お聞きしてもよろしいでしょうか」
「え、ああ……俺はエル。エル・クランツハート……それでさっきの」
「エル様ですね。素敵なお名前です……ところで、貴方様は魔王様……でよろしいのでしょうか」
「え? 魔王? いや、違うんじゃねーかと」
「は? ……いえ、失礼しました。しかし、私に気配も悟られずにこの場に現れるなんて芸当は、転移魔法でさえ何かしらの予兆が出ますのに、それもなしにやってのけた貴方様はもう魔王としか言いようがないのですけど」
「え、あ、ああ」
とまあ、こんな感じで拠点とやらに戻って見れば、滅茶苦茶美人な魔族っ娘に質問攻めにされている最中という訳だ。
俺がこの場に来た時に見たあれは、どうやら彼女の態度から触れてくれるなという雰囲気がビシバシ伝わってくる。
ここまで人間的過ぎるため、もしかしたら俺と同じプレイヤーかもしれない。
早速聞いてみることにする。
「すみません、何分こう言ったゲームは随分久しぶりでして……もし不都合でなければ貴方がプレイヤーかどうかを教えて頂けないでしょうか。いや、お恥ずかしい話、このゲームの完成度にすっかり飲まれてしまってですね、AIとプレイヤーの区別がつかないんですよ」
少し屈んで、申し訳なさそうに聞いてみる。普通のプレイヤーなら、なるほどそういうことならと、一旦役割ゲームを置いて話してくれるはずだ。
ルールを理解してないと、やはり相手も楽しめないからな。
しかし、返ってきた答えは全く違ったのもだった。
「は? え? げーむ? ぷれいや? えーあい? ……その、申し訳ありません、もう一度仰ってもらっても良いでしょうか? もし自身のご知識を披露したいのであれば、相応しい場を設けさせていただきます」
おっと、これは誤解を与えてしまったようだ。
「……っと、申し訳ありません勘違いさせたようで……私は別に知識を自慢したいわけではなく」
そこまで言って気が付いた。今、彼女は何と言った?
ゲーム、そしてプレイヤーという名前で引っかかっていなかっただろうか。それに知識を披露だとか、当たり前すぎる知識の何を披露するというのか。
俺は【メニュー】を開き、【ログアウト】のような項目はないかを調べ始める。彼女にはこの板は見えないようで、俺が操作している様子を疑問符を浮かべながら眺めていた。
しばらく経ち、【メニュー】を閉じた俺は……絶句した。
そう言えば、最初からおかしかった。リアルすぎる五感にいつまでたっても来ない友人。極め付きは、こういったゲームには必ず備わっている【ログアウト】の項目や【セーブ】、【ロード】といったものが存在しないということだ。
いつまでたっても終わる気配は無く、それどころかまるで現実のように、区切りなんてないまま時間が過ぎていく。
「……き、君は」
「? はい?」
いや、まだだ。まだ決定的な証拠は掴んでいない。
実は、こういった状態のために復帰コードという名目で、プレイヤーに必ず渡されているものがある。このゲームの開発責任者の名前をどのキャラにでもいいから伝えるという行為だ。
それにより、強制ログアウトとセーブデータの全削除、そして担当者に直接連絡が出来るようになる。
どうせ、始めてから1時間ちょっとしかプレイしていないのだ。セーブデータなんて惜しくもない。俺はその名を伝えることにする。
「三上傑という人に伝えて欲しい」
こう言えば、確認を取られた後、強制ログアウトという流れになるのだ。これでようやく一息つけると、相手のセリフを待つ。
すぐに答えは返ってきた。最も、聞いた時は乾いた笑いしか出なかったが。
「ミカミスグル? 誰です? その、魔法の詠唱のような名前の人物は」
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