第3話 ニクス・ライオニール


 「……くっ」



 「隊長!!」


 「おい、今すぐ救護班に連絡だ!!」


 

 慌しく彼の部下が動き出していく。騎士の男……ニクス・ライオニールはその場で片膝をつく。



 (強かった……思っていたより……大分)



 何とか赤い鎖による攻撃は躱せてはいても、その鎖に帯びていた属性が問題だった。



 (感じられたのは闇……そして)



 改めて自身の身体を見る。


 そこには、多くの出血の跡が残っていた。



 (血属性……とでもいうのだろう……ものすごく鋭利な攻撃だ)



 躱したはずが躱しきれていなかった。僅かに触れただけでも鎧を貫通して皮膚を切り裂く。



 「隊長、今回復魔法を掛けますっ!!」


 「ああ、よろしく頼む」



 幸いにもそれは切り傷であり、部下の回復魔法を少し受けただけですぐに傷は塞がった。体力が回復すれば、問題なく動けるだろう。


 今はそれよりも……捕まっていた彼女のことだ。



 向こうの野営地で女騎士二名と一緒にいる彼女は、今しがた彼から守った女性だ。


 彼とどういう関係で、彼女自身は何者なのかと疑問は尽きない。


 とは言え、さっきの今だ。


 しばらくは休息が必要だろう。



「隊長、あの人攫い共のことです」


「そうだね」



 彼との戦闘中、木々の端に転がされていた男三人だ。


 興味深いことに、あの非常に鋭利な鎖に巻き付けられていたにもかかわらず、切り傷も無かったそうだ。


 多分、ここで【姿隠し】に代表されるような闇属性の効果が出たのだろう。魔法の効果である鋭利さを一時的に消したのだ……出すも出さないも自由自在ということだろう。


 部下の話によれば彼の姿が消えた途端、人攫いたちを縛っていた赤い鎖も消えたという。彼の任意による解除なのか自然と消えたのかは分からない。


 今後は、これも調査が必要だろう。



 「王都に戻ろう。急ぎ、陛下に報告すべきことが増えた」


 「そのようです……全く、ただでさえ魔王復活というこの時期に」


 「そう言うなよ。むしろ、ここで出会うことができたんだ。知らないでいるよりはずっといい」


「ははは、そうですね」



 また、彼とは出会う気がする。


 今度こそ、決着を付けなければならない。



 静かにそう決意した王国騎士団団長は、自身の愛剣の柄を撫でていた。

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