四人目の君と僕

一人目

君の身が透く朝僕は寝坊した カケラとしての羽根が残った


病む君は日々に石化し記憶力増した代わりに失う心


君が吐く多量の血から愛情を漁る権利を僕は盗んだ


『古今集』夏の部から引く薔薇の歌 君はあらゆる声で詠む歌


退屈な人の子の歌詠む君は龍の証を徐々に失う


歌集中、歌は柱のように立つ 君はくずおれたまま読んだね


君の目はガラスのように動かない 違うよ僕の幻想うそだよこれは


水仙ナルシスに産まれた君のなみだほど花らしい花咲かせない庭


君の血をしとねにしつつ寝る夢は初恋に似て穢れていたね


君に似た白磁の花瓶が怖くなり仕舞う殺人者に似た僕は


二人目

「薬より直接脳をいじる法」求め闇医を訪ねる――夢へ


夢――また夢? 「直接脳を弄る法」棄てた記憶を夢にうずめた


夢――また夢? 「脳を直接」穿うがたれて幻として春雨・火花


夢と夢、「脳を直直弄弄じきじきいじいじ――る」ここは螺旋の多い記憶だ


「薬より……」歌う君の手腥なまぐさく 今何度目の夢から醒める


三人目

病む君の心縫うたび手の中でカタチを変える――水葬は明日あす


幾人いくたりの君を殺める? 心縫う医者は殺人者になれる百合


病む君の病む前のかおさがすため写真を盗む 罰が足りない


誰一人君を見舞いに来ないまま麻酔をかけて縫い直す夜々


新しい君が産まれる手の中で心を縫えば――祈らない事


四人目

君以外知らない君の歌盗み歌い歌いゆく道は――もう、夜


歌という秘密に絡め取られつつ君を捜して旅をする者


精神の血縁示す歌として血の盗人ぬすびとが君の歌詠む


目を銃に詰めた天使がやってきて君に似た歌 歌いつつ飛ぶ


オルゴール内蔵人形秘蔵され君の歌声石化し埋まる


おまけ

〈魂を蝶にたとえる歌〉

〈魂を蝶に喩える歌〉歌い、SF化抜きでは古臭い


〈魂を蝶に喩える歌〉歌い、我らに進歩はないつたかずら


〈魂を蝶に喩える歌〉歌い、過去にすくむからハサミとノリを!


〈魂を蝶に喩える歌〉歌い、標本ひょうほんとして借景百種しゃっけいひゃくしゅ


〈魂を蝶に喩える歌〉以外、知らぬ子供が歌い歌いゆく


〈魂を蝶に喩える歌〉以外、知らぬ少女が放火し歌う


雑詠抄


行き場なく人形、黄泉の国へ行く――「生」に似て「死」は戯れに似る


耶蘇果てた歳生き得ないギタリスト 悪魔の手先と蔑まれつつ


良き現実を――送る夢魔らの館辞し 死を願いつつうつつへ還る


『BLACK SOULS II』から

とりけもの、鏖殺おうさつののち話しかけ、ドードー名乗る少女を殺す


少女的短歌手帖てちょうから追放の「君」「恋」「愛」の死の報届く


底なしの穴に落ちつつもの思う 落ちる時にはアリスのごとく


「叙情」なる綺語きごを棄てた詩人らがなお棄てきれず肥やす余白だ


列柱のごとくつ活字歌集二千円してヤケクソで読む


恩地孝四郎おんちこうしろう装丁〈円本〉の見返し唐草模様アラベスクは汎用


東向き子供部屋には窓四つ いずれも〈労働装置〉となろう


「イニシエーションにはせいや死の模倣必ずある」と言い入学式


東浩紀『動物化するポストモダン』

『動ポモ』と同年産まれ美化されるゼロ年代のカケラ蒐集しゅうしゅう


判じ絵に似た歌を解く鍵となる聖句懐かしく耳を殴った


罪のがまた巡る神ならぬ者手を延べ夏に王子を殺す


骨だけのような指先繋がれて神の器は今年も燃える


戦争をいじめに喩える逆張りでいじめを戦争にする昼下がり


自由詩の行分け空行解体し散文にして読むサディストだ


異形らの祭を歩む奇術師の手に成る戯歌集ざれうたしゅう天金てんきん


墓守の歌は呪文に似て聴こえ 詩とは憑かれた言葉であった


墓守の歌うがごとき訳語なら愛せたはずの詩句がバラける


はこ入りの本を運んだ人形は己のうつろで虚飾を撫でた


どのような花が咲いても脳に似る季節の庭で箱に座った


濡れ傘で刺す。甘い語が垂れてくる。縫合不可の瑕として愛。

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