凶兆(流れ星)

一、くらき所より


蔵で寝る度に手足が増える夏 暗渠あんきょ静かに生の孵卵器


病む君を蔵に捨てた日から日々に昼に燭持ち死を確かめる


昏い昼 蔵を異形の母胎とし同じかおしたむしが殖えゆく


人らみな滅びるゆうべ蝶歌う 初めて人に聞こえる声で


二、学園


〈左うで交換式〉は秘密裏に二人が通う学校もまた


隔離され廃都のような学園で二人はそっと指を絡める


狼が欲しい少女と友達のあの子の指を届けてあげる


きずを撫で、足りない分はおのが身に 二人は同じからだ持つから



三、雑詠


縫い合わす瞼――以降は火花しか見ないと誓い戦う少女


一粒の宝石ねだり「夜」という名を言う時からひび割れた天


内蔵を果物かじつとして売る罪人と処刑者だけの密約がある


あやめぐさ、あやめも知らずう人の匕首あいくちに似る青の鋭さ


金星を射落とす若い弓取りの手で人の住む星おちて夜


凶兆の流れ星止め手はなくて王の数だけ火の玉おちる


最後まで破られない禁として愛 天国よりも遠くへの愛


天国を焼く火になれよ 歌という罪悪地に満ち満ちたのちには


ほととぎす死への導き手となって先にくびられても指す彼方


天使との格闘に似て殺し合う 言語は虹を宿した飛沫しぶき


弔いの花投げる空 不可視でもカケラが頬を切る降り続く


唇の薔薇が歌った(人らには聞こえない声)滅びの記憶


彫刻の歌う時刻の美術館人々呑まれ蓋されるかん


地に満ちる毒となれ君 短刀を胸に秘め王殺しの王子


城内に二重の螺旋階段があり踊り場で再び出会う


飲み干した毒液の瓶青白く 午前二時まだ舞う暇がある


薄荷飴すり減らしつつ心地よく殺人混じりニュース聞く昼


一葉の写真は視覚区切る網 この世全ての景色売るため


無数の目あるいはレンズ濃い霧の無数の水がを歪ませる


この橋を一人渡ればどこへ行く 秋霧の奥 鐘のがする



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駄目な歌を置くところ「人形供養」 妄想機械零零號 @rerego

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